Data.41 弓おじさん、海底神殿

 ダンジョンはフィールドのいたるところに隠れている。

 正確には『ダンジョンの入り口』がフィールドに隠れている。

 ダンジョンそのものは、普段冒険している世界とは違う次元にある。


 ダンジョンには軽い謎解き要素や宝箱が設置されているため、フィールドの一部にしてしまうと一人が攻略した時点で解かれた謎と空っぽの宝箱だけが残ってしまう。

 時期ごとに謎と宝箱が復活するようにしても、人気のダンジョンなら何百人も同時に押し寄せ、我先にと争いになるだろう。

 そんなところを探索したところで楽しくはない。


 なので、別次元に内容が同じ複数のダンジョンを用意し、パーティごとに別々のダンジョンに送り込む。

 こうすることで、誰もが未開のダンジョンを安心して楽しめるのだ。


「とはいえ、神殿の外観は凝ってるなぁ」


 ダンジョンの入り口でしかない海底神殿の建物だが、非常に荘厳でスクショ映えしそうだ。

 海に沈んでしまった建物というより、そもそも海底にあることが前提って感じだな。

 海面から射し込む光を受けてキラキラしている。


 早速、中に入ってみよう。

 ダンジョン踏破も目指すが、レイヴンガーのお試しも兼ねているので焦らずマイペースに攻略だ。

 このダンジョンには時間制限も存在しない。


 開け放たれた巨大な扉から中に入ると、シームレスにダンジョン空間へと入った。

 外にはちらほらプレイヤーがいたが、中には誰もいない。

 また、神殿内はすべて海水で満たされているわけではないようだ。

 とりあえず今いるフロアは空気で満たされてて、水がまとわりつく感覚がない。


「さて、水系のダンジョンってめんどくさいイメージしかないけど……頑張ろう」


 と、思いきや遠くの方に禍々しいデザインの『ボス部屋の扉』がすでに見えている。

 しかし、そこにたどり着くための足場はなく、あくまでも見えているだけだ。

 じっくりと探索して、仕掛けを解いて足場を作り、ボス部屋へたどり着くのが正攻法なんだろうけど……。


「まさか……まさかね」


 俺は【ワープアロー】を放った。

 一瞬でボス部屋の扉の前にたどり着いた。

 あー、出来てしまうのか……と思ったが、ボス部屋に入るには『専用のカギ』が必要なようだ。

 流石に対策はしてるな。


 それにダンジョン攻略において最も恐ろしいのは、正解のルートを先に選んでしまうことだ。

 行き止まりの方には宝箱があったかも、特別なイベントがあったかも……。

 そう思うと人は正解を投げ出し、ダンジョン内をぐるぐると駆け回るのだ。

 すべての探索を終えるまで……。


 俺もそうすることにしよう。

 レイヴンガーの初陣も飾らないといけないしな。

 3分待ってクールタイムを終えた【ワープアロー】を使って初期位置に戻った俺は、順路通りの攻略を開始した。


 謎解き要素はこれまた王道の水位上げ下げタイプ。

 スイッチで水位を変化させるたびに行ける場所が変わる。

 元ゲーム会社勤務として言わない方が良いのだが、めんどくさい部類の謎解きだ!


 出てくるのは海と同じく海洋生物モチーフのモンスターだ。

 しかし中には、海で見かけなかった魚人系のモンスターもいる。

 魚人系は水中でも地上でも機敏なため、非常に厄介だ。

 手に武器を持っていて投げてくることもある。

 まあ、遠くから攻撃してる俺に届くことはない。


 レイヴンガーも問題なく戦力になっている。

 どの敵に対しても接近戦を仕掛けるのでノーダメージとはいかないが、平気な顔して泳いでいる。

 魚同士の対決になると、地上で動きが鈍くなるデメリットはお互いさまになる。

 素のステータスが高いレイヴンガーが負けることはない。

 魚人系相手でも1対1なら地上でも勝てる。


 さらにモンスターには、種族によって受ける攻撃に対する得意不得意がありそうだ。

 ガーは魚なので水系の攻撃は気にもしていない。

 しかし、モンスターの集団に紛れ込んでいた電気クラゲに触れてしまった時は大ダメージを受けた。

 魚で機械だから電気には弱すぎる……みたいなシステムもありそうだな。


 また、ガーはかなり俺から離れて戦いに行く。

 俺が見逃していた遠くの敵に一匹で戦いを挑んでダメージを負っていることが多々あった。

 ユニゾンはあまりプレイヤーから離れられないはずだが、もしかしたら『陣取り』の時のように俺の射程で範囲が伸びているのかも知れない。

 あのイベントのゴーレムやAI戦士は、ユニゾン実装のためのテストだったのかもな。


 ガーを自分の近くで戦わせたいなら、命令を『プレイヤーの近くで戦え』に変えればいい。

 しかし、俺は近くに敵を寄せ付けないように戦うので噛み合わない。

 俺が射撃を続けている間、ガーが周りを泳ぐだけになってしまう。


 結局、敵を見つけ次第戦う設定に戻したが、この戦い方を続けたことである利点が見えてきた。

 AI制御のガーは敵に対してプレイヤーよりも敏感に反応して食ってかかるのだ。

 つまり、敵を見つけ出す広範囲センサーとして非常に役に立つ。


 俺にとって一番怖いのは、知らない間に接近されていること。

 ガーはそのリスクを減らす役目を見事に果たしている。

 たまに戦わなくてもいい敵に食ってかかるのはご愛嬌。

 俺が遠距離射撃で助けてあげればいい。

 噛み合ってないようで、案外相性は良いのかもしれない。


 その証拠に特に大ピンチに陥ることもなくボス部屋のカギを手に入れ、ボスの部屋へと乗り込んだ。


「あ、ボス部屋は海水で満たされてるのか……」


 つまり、海弓術もレイヴンガーも本気を出せる。

 ボスは『ソルジャースクイッド』という10本の触手にそれぞれ違う10個の武器を持つ巨大イカだった。

 せっかくだから完成した海弓術・七の型を使って仕留めるか。

 いや、でもここは狭すぎるか……?


「ガー! ガー!」


「あ」


 たくさんの武器を振り回すイカの連続攻撃も、水の中のレイヴンガーを捉えることは出来ない。

 そして、そのプニプニして切れにくそうな体も、貫通能力に優れたガーの突進には耐えられない。

 あまりに相性が良すぎた。

 『ソルジャースクイッド』は赤い流星に瞬殺された。


 イカの体が光となって散った後、その破片が一つの石に変わる。

 目当ての『竜宮石』をアイテムボックスにしまい、俺たちはボスを倒したことで出現したワープ床からダンジョンの外に飛んだ。


 この海最後の冒険にしてはアッサリしてたが、内容は悪くない……。

 なんてことを考えていたら、激しい潮の流れに体を持っていかれ岩礁にぶつかった。


「痛たた……。この激しい潮流はまた蒼海竜か?」


 俺の予想は外れた。

 目の前に『大型スクランブル!』の文字が現れ、危険を知らせるようなアラートが鳴り始めた。


『ポセイドンクラーケン出現! 周辺のプレイヤーは全力でこれを討伐せよ!』


 イカの次はタコか!

 それに『大型スクランブル』だって?

 道理で海の荒れ方が尋常ではないはずだ。

 何かに掴まっていないと、どこまでも流されていきそうだ……!


 それに周辺のプレイヤーって……港町にも海にも結構な数のプレイヤーがいたはずだ。

 『ポセイドンクラーケン』はその全員で協力する必要があるほどの強さってことなのか……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る