Data.11 弓おじさん、キルキルキル!

 放たれた矢は吸い込まれるように丸出しの後頭部にヒット。

 プレイヤーは一撃で光となって消えた。


『1キル! ファーストキル!』


 同時にシステム音声が響く。

 やった……俺がプレイヤーを倒した!

 正直、ゲームとはいえ人を撃つのは気分のいいものじゃないと思っていた。


 でも、それは違った。

 やっぱりこれはゲームだ。

 純粋に勝利を喜べる!


 昔初めて遊んだバトロワゲームで、初めて誰かをキルした時の感動となんら変わりはない。

 下手くそなエイム、不器用な立ち回り、雑な撃ち合い……。

 それでも誰かを倒せたことを喜んだ。

 あの感覚はVRゲームになっても一緒だ。


「早く戦利品を漁らないと!」


 キルされたプレイヤーがいた位置には宝箱が出現する。

 宝箱にはキルされたプレイヤーの所持品が入っている。

 つまり、今回の場合は空っぽだ。

 この人もワープしてきたばかりだったし、アイテムを拾うタイミングはなかったからな。

 俺としたことが浮き足立った。


 あと、当たり前だけど装備は奪えない。

 苦労して手に入れた装備をこんなに簡単に奪われるなら、このイベントに参加する人はいないだろうからね。

 奪えるのはイベント中に手に入ったチップのみだ。


「さて、草原に長居はしたくないな……」


 草原は山に囲まれている。

 射程を生かすなら高台を取るべきだ。

 敵に警戒しつつ山を登ろう。

 もし敵を見かけたら、可能な限りキルする。

 これが今回の俺のルールだ。


 もし敵を見逃して、あとあと移動中にバッタリ出会うと俺が不利になる。

 長射程は接近戦では意味をなさないし、不意打ちにもまったく対応できない。

 敵の位置を先に把握して、先手を打って仕留める。

 この基本戦術だけは崩したくない。


「お、建物があるぞ……。敵は見たところいないし、アイテムを集めるか」


 山の斜面に立つ四つの木造の家。

 扉は開いていないから、まだ漁られてはいない気もする。

 しかし、扉は閉めればいいだけの話。

 この推測は絶対ではない。


 そっと家の外壁に張り付き、窓から中を覗く。

 チップがいくつも転がっている。

 エサとして放置してあるというのは考えにくい。

 序盤はそういう小細工をする前に、ステータスを強化してキルを狙った方が合理的だ。

 ここは漁られていないと判断してよさそうだな。


 扉をあけて中に入る。

 そして、そのまま開けておく。

 これで誰かが来た後だとわかり、敵は警戒して簡単には入ってこない。


 チップを全て回収する。

 【攻撃+10】が2枚。

 【固有+10】が3枚。

 合計で5枚、すべてステータス強化チップか。


 固有というのは職業固定のステータスのこと。

 戦士は『気合』、魔法家は『奇跡』、射手の場合は『射程』だ。


 この大きさの建物で手に入るチップはこれくらいか。

 二階も全部見たし、次の建物に……。


 いやっ、森の中に誰かいる!


「流石に何万人も参加してると接敵しやすいな……!」


 運よく窓から偶然見えた。

 開いた扉をジッと見ている男がいる。

 まだ俺の存在には気づいていないな。

 さて、どう仕留めたものか……。


 相手の武器は『銃』。

 それも結構カッコいい銃だな。

 リアルな銃というより、ビームとか撃てそうなSF系の銃だ。


 射程はこっちが勝っていても、弾速は向こうの方が速そうだ。

 いきなり飛び出して撃ち合いになると負けるかも。

 距離を取って一方的に攻撃したい。


 だが、今動いたら足音がして家の中にいるのがバレる。

 普通のゲームと違って、ゆっくり歩けば足音がしないわけじゃない。

 そのうえ、この家は木造だ。

 歩くと床がきしんで、二階にいることすらバレかねない。


 このゲームは建物を攻撃で破壊することが出来る。

 高威力の射撃が可能なら、建物の中にいる俺を外から撃ち抜くことも可能だろう。


 ここでのんびりしていたのは失敗だった。

 VRバトルロイヤルにはVRバトルロイヤルのセオリーがある。

 特に建物の中にいるリスクは通常より増している。

 引きこもりの芋戦術には向かい風だな。


「だが、スキルを上手く使えば切り抜けられる」


 音をたてぬように体をひねり、弓を構える。

 開いているベランダを通し、見えざる矢【クリアアロー】を隣の家の窓に向けて撃つ!


 キリリリリ……シュッ! パリパリパリンッ!


 派手な音を立てて窓が砕ける。

 相手プレイヤーからしたら、なぜ窓が割れたのかわからない。

 当然、注意はそちらに向く。

 この隙を【インファイトアロー】で撃ち抜く!


 ギリリリリ……ビュッビュッ! ザグッザグッ!


 二本の矢がプレイヤーの頭と胸を貫いた。

 どちらも人体の弱点だ。

 プレイヤーはなすすべなく光となって消えた。


『2キル!』


「ふぅ……」


 これは俺の作戦勝ちだな。

 緊張したけど、倒した時の高揚感もまた特別なものだ。

 さて、落とした宝箱からチップを回収しよう。


 もう一人を倒したら……な。


 さっきから気になっていた。

 倒したプレイヤーがやたら背後を気にしていることに。

 おそらく、発見はしたものの倒しきれなかった敵に追われているのではないか?

 死体が落とした宝箱をエサにそいつをおびき出す。

 でも、30秒経って誰も来なかったら……考えすぎということにする。


 と、思っていたら剣を持ったプレイヤーが姿を現した。

 金属製の鎧で全身を固め、盾まで持っている。

 なるほど、道理で大胆なわけだ。

 この防具ならば、矢を数発受けてもびくともしないと考えたんだな。


「残念ながら、こういう矢もある」


 【ウェブアロー】で鎧のプレイヤーをベタベタにする。

 相当重い防具のようだ。

 網に絡まったまま倒れたらもう起き上がれまい。

 あとは鎧の隙間を上手く撃ち抜いて終わりだ。


『3キル!』


「初イベントにしては活躍できてるな。頑張ってるぞ、俺」


 流石にもう敵はいないと思いたいけど、さらに数秒待つ。

 ……よし、誰も来ないし音もしない。

 プレイヤー二人分のチップを回収し、まだ探索していない建物のチップも集める。

 内容の確認は後だ。

 ここはあまり得意な地形じゃない。

 すぐに離れて、さらに山の上を目指そう。

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