Data.12 弓おじさん、塔の上

『5キル! 6キル!』


 まったく、すごいエンカウント率だ。

 みんな平地より障害物の多い山の中がいいんだろうな。

 考えることは一緒だ。


 しかしながら、俺を見つけるとまず距離をとろうとするプレイヤーが多い。

 これは射手が舐められているというより、人と戦うのを本能的に避けているんだろうな。

 普通のバトロワゲームはあくまでもキャラクター同士を戦わせてるけど、VRゲームは自分が戦ってる感覚が強い。

 人間相手となると戦闘に抵抗があるのもわかる。


 まあ、俺はそんなプレイヤーの背中をバンバン撃ち抜いてキルを稼いでいるわけだが……。


「ふっ、戦いは非情さ……。こういうセリフ、一回言ってみたかったんだよなぁ」


 そんなこんなで俺はなんとか生きて山頂にたどり着いた。

 山頂には石造りの塔がある。

 入り口の扉は開いていない。

 チップも辺りに散らばっている。

 他のプレイヤーはまだ来ていなさそうだな。


「ここをひとまずの狙撃ポイントにするか……」


 扉を開けて中へ。そして、今回は扉を閉める。

 塔の中にもチップは散らばっているな。

 回収しつつ螺旋階段をのぼる。

 屋上は山の全体を見渡せる絶景ポイントだ。

 そして、絶好の狙撃ポイントでもある。


「攻撃を開始する前に、回収したチップの確認をしておこう」


 ここまでで回収したチップは47枚だ。

 うちステ強化が30枚、回復が13枚、特殊が4枚。

 ステータス強化チップは【+10】だけでなく、レアな【+20】や【+30】もあった。

 その効果をすべて合わせると……。


 攻撃+70 防御+30

 魔攻+40 魔防+10

 速度+80 射程+200


 どうやら俺は本当に射程に愛されているようだ。

 本来のステータスにチップ強化を足して、さらに【不動狙撃の構え】が発動すれば射程は1000メートルを超える。

 つまり、1キロ先を撃ち抜けるようになった。

 流石にこれだけ射程が伸びると当てるのも難しそうだけど、まあ頑張るだけだ。


 回復は状態異常回復を拾えなかった。

 代わりにMP回復を多めに拾えているのが嬉しい。

 スキルは基本MPを消費するからな。


 特殊アクションチップは『高速ダッシュ』が2枚、近くに一瞬で移動できる『ショートワープ』が1枚、見えざる地雷を設置する『マジックマイン』が1枚。

 実は『マジックマイン』はもう1枚あったんだけど、試しに使って自爆するという結果になってしまった。


 ただ、威力は低いのに音がバカでかいという特性を知ることが出来た。

 この爆音を利用するべく、すでに塔の入り口に『マジックマイン』を設置済みだ。

 敵を倒すのではなく、敵が塔に侵入したことを知らせる警報器として使う。

 狙撃している隙に登ってこられたら困るからな。


「さて、準備は整った。ここからは俺のキリングショー……になるといいな」


 屋上から山肌を見下ろす。

 不用心にも木々が少ない場所を移動しているプレイヤーがいた。


 キリリリリ……シュッ!


 矢が刺さった音は聞こえない。

 ただ、そのプレイヤーが音もなく地面に倒れこみ、光となって消えた。

 頭の中に聞こえる『キル!』の音声を聞き流しつつ、次の獲物に狙いを定める。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!


 遠いと外すこともあるが、どこから攻撃が来たのかわからずに慌てているようなプレイヤーなら次の矢で仕留められる。

 問題は硬いプレイヤーと落ち着いているプレイヤーだ。

 特に矢の方向をすぐに見極めて物陰に隠れる人は手練れだ。

 確実に俺を倒すべき敵と判断し、塔に向かってくるだろう。


 ギリリリリ……ビュッ! ビュッ! ビュッ!


 しかし、近づいて来てくれれば当てやすくなるし、矢の威力も上がる。

 懐に飛び込まれない限り、俺は不利にならない。

 さらに塔の周りは隠れる物もない。

 矢を避けて塔にたどり着いたとしても、螺旋階段をのぼっているうちに撃てる。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


『50キル! キルリーダー!』


 ――ぴこんっ! 新たなスキル【狙撃の眼力】を獲得しました。


 ◆獲得理由

 『遠くを見る者』

 射程増加系スキルを使用し、遠くの敵に何度も攻撃をヒットさせた。


 【狙撃の眼力】

 現在の最大射程の分だけ視力を強化する。


 遠くの敵もよく見えるようになった!

 これが新しいスキルの力か。

 そういえば、ルールには『スキルは獲得しているものをすべて使うことが出来る』と書いてあったな。

 つまり、イベントの最中に獲得したスキルでも問題はないわけだ。

 これで命中率をさらに上げることが出来る。


 楽しい……!

 本当にすごく楽しい!

 楽しいのだが、あまりにもプレイヤーが俺の近くに集まりすぎじゃないか!?

 これじゃバトルロイヤルじゃなくてタワーディフェンスだ。

 なんでこんなことになってるんだ?


「あ、まさかエリアが……!」


 そのまさかだった。

 バトロワゲームは時間が経過するごとにエリアが狭くなっていく、エリアの外は常にダメージを受ける空間で、回復アイテムを使っても長くは生き残れない。

 このエリアのルールのおかげで、見つかりにくいところに隠れていれば勝てるなんてことにはならないんだ。


 俺は今回運が良かった。

 エリアの位置はランダムで決められるが、俺は偶然ずっとその中にいて外に出ることはなかった。

 逆にそのせいで警告が来ることもなく、キルに熱中するあまり……気づかなかった。


 エリアが俺のいる塔を中心とした狭い円に変わっていることに。


 みんな、むやみやたらに塔に向かってくるわけじゃなかった。

 このエリアの中で一番有利な位置にいる鬱陶うっとうしいプレイヤーを排除しようと立ち向かっていたんだ。


「これは……とんでもないヘイト稼いでるな、俺」


 かといって攻撃はやめられない。

 それは勝負を投げることだ。

 こうなったら、ちょい悪おじさんになることを受け入れるしかないな!

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