乱戦の章
Data.10 弓おじさん、初イベント
アンダーⅩバトルロイヤル。
それは初期職レベル10以下のプレイヤーのみが参加できるイベントだ。
ルールはその名の通りバトルロイヤル。
参加者同士が戦い、最後まで生き残った一人だけが勝者だ。
大体この手のゲームは100人ほどで戦うが、今回は参加を表明したプレイヤー全員が一つのマップにぶち込まれる。
具体的な人数は明かされていないが、参加プレイヤーは数万とも言われている。
それだけの人数を戦わせるマップはもちろん完全新規。
通常のネクスタリスの世界とは切り離されたイベント用のマップが用意されている。
そのマップに関する情報は完全に非公開だ。
事前に下見することも出来ない。
プレイヤーはバトル開始と同時にマップのどこかに飛ばされ、あとはどんどん狭くなっていくエリアの中で戦い続けるしかない。
勝利に必要なのは三つの要素。
一つはもちろんプレイング。
極力戦わずに生き残ることを目指すのか。
敵をどんどん倒して勝ち残ることを目指すのか。
どちらが正しいのかはわからない。
でも、俺の中で答えは出ている。
今回のイベントは『俺が自分で決めたルール』に従って戦う。
二つ目は装備とスキルだ。
イベントには身に着けている装備のみを持ち込める。
替えの装備やアイテム類は持ち込めない。
スキルは獲得しているものをすべて使うことが出来る。
レベルは10以下に制限されているから、そのレベルに達するまでどれだけのスキルを集められたかが勝負を分けるだろう。
人の後ろについて行って経験値だけ分けてもらうみたいなプレイじゃ、スキルは増えないからな。
俺の場合、スキルは多い方だと自負している。
最後はイベント限定のアイテム収集。
基本バトロワゲームでは銃やアーマーを動きながら集めることになるが、今回のイベントは武器も防具もスキルも最初から持っている。
その代わりに用意されているのが『回復チップ』と『ステータス強化チップ』、そして『特殊アクションチップ』だ。
『回復チップ』はそのままHPやMP、状態異常を回復するチップ。
『ステータス強化チップ』は手に入れるとイベント中のみステータスが強化される。
『特殊アクションチップ』は使い捨てだが、一度だけ特殊なアクションを可能にする。
公式サイトの例だと、高く跳べる『ハイジャンプチップ』、速く走れる『高速ダッシュチップ』、相手から見えなくなる『透明チップ』、バリアを生み出す『バリアチップ』などがある。
どれも強力な効果だから、チップをどれだけ集められるかは勝敗に直結する。
俺のプレイスタイルと収集要素はかみ合わないが、なるべく集めるようにしないとな。
「さて、そろそろイベント開始かな」
イベントへの参加を申請しているプレイヤーは、どこかの街で待機していなければならない。
もしフィールドに出ている場合は、自動的に棄権となる。
すぐ帰ってこれると思って冒険に出たけど、案外いいところまで進んでしまった時に役立つ機能だ。
ボスの前まで来て強制的に戻されるのも萎えるからな。
『アンダーⅩバトルロイヤルに参加されるプレイヤー様にご報告します。100秒後にイベントマップへとワープします。装備の確認などはお早めに』
システム音声が脳内に響く。
周りにもイベントに参加するプレイヤーはいたようで、みんなビクリと体を震わせている。
ライバルがわかりやすくて結構だ。
一応、装備とステータスの確認はしておくか。
ちなみに俺の装備はゴリラ戦後から変わっていない。
◆装備
頭部:―
右手:スパイダーシューター
左手:(スパイダーシューター)
両腕:森の賢者の拳
胴体:初心者のシャツ
脚部:初心者のズボン
両足:初心者のクツ
装飾:―、―、―
これを見たプレイヤーは誰もが指摘したくなるだろう。
「どうして初心者装備を変えないの?」と。
理由は簡単、着心地の問題だ。
俺は……この装備に慣れてしまった。
もちろん店売り装備は性能が低いとは言え、初心者装備よりはマシだ。
ステータスを重視するなら絶対に買い替えるべきだろう。
特に何も装備してない頭部には何かを装備するべきだ。
だが、俺はそうしない。
これから一度キルされたら終わりのイベントに参戦するからこそ……しない。
今まで頭に何もつけていなかったのに、いきなり何かついたら違和感がある。
弓の狙いがブレるだろう。
本番に履きなれないクツなんて履きたくない。
間違いなく動きにくくなる。
微々たるステータスのプラスに騙されない。
俺は着心地で装備を選ぶ……。
なんか、VRゲームのプロみたいだ。
今までのゲームに着心地なんて概念なかったからな。
そして、10レベル分の強化ポイントを振り、スキルと装備の補正も表示した最終ステータスがこれだ!
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:射手
Lv:10/20
HP:50/50
MP:50/50
攻撃:45(+30)
防御:44(+36)
魔攻:10
魔防:6
速度:11
射程:140(+90)
スキル:【弓術Ⅰ】
【インファイトアロー】【バウンドアロー】【クリアアロー】
【不動狙撃の構え】
防御の+6の分は初心者装備のものだ。
シャツ、ズボン、クツでそれぞれ+2。
3つ合わせてで+6となる。
【クリアアロー】
威力は低いが透明な矢を放つ。
クリアアローはレベル10到達特典で獲得したスキルだ。
見えない矢なんて勘が鋭い人でもない限り避けようがない。
しかし、威力が低く敵を一撃で仕留められないし、矢を受ければどの方向から飛んできたかは見破られる。
消費MPも案外多く、何も考えずに使っていいスキルではない。
ダメージを稼ぐよりも、見えない攻撃を受けているという精神攻撃に使うべきだな。
『ワープまであと10秒……9……8……』
さあ、いよいよだ。
勝ち残って見せるさ。
『ゼロ!』
一瞬で街の景色が消え、目の前にはだだっ広い草原が広がる。
ワープは成功のようだが……ここはマズいぞ。
狙撃に有利な高台でもなければ、隠れる場所もない!
最悪のスタートだ!
こういう場合はとりあえずうつ伏せになって草に隠れるんだ。
いや、最初なんだから建物を探してチップを集め……。
「あ」
ほ、他のプレイヤーだ……。
草原から山に入ろうと俺に背を向けて走っている。
油断しているわけではない。
この距離なら攻撃は飛んでこないという常識に則った正しい判断だ。
俺以外に対してなら……な。
慣れた手つきで弓を構え、俺は矢を放った。
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