Data.7 弓おじさん、鍛える
今回の狩場は森のさらに奥深くだ。
浅いところの敵は簡単に狩れてしまうし、他のプレイヤーに見られる確率も高い。
ここはパーティ向けの狩場で、俺は適正レベルにも達していないが、どうせデスペナルティはない。
危険でスリリングな戦いを気楽に楽しめると考えれば、得したような気持ちにすらなる。
「さあ、やるか」
と言っても、やり方に変更はない。
木の上に登って敵を待ち、来たところを上から不意打ちする。
卑怯と言ってくれるなよ。
敵と結構レベル差あるから、俺は一撃で死ぬぞ!
とはいえ、この戦闘スタイルで敵に接近されることは少ない。
まだ俺の矢は敵を倒すのに十分な威力がある。
多くても3~5発弱点に撃ち込めば敵は倒せる。
怖いのは弱点が小さい敵だ。
特に細長く動きの速いヘビ型モンスターには苦戦した。
頭が小さいし、蛇行して動くもんだから当てにくい。
木にも登ってくるし、毒液を吐いて毒状態にされることもあった。
前回の冒険で手に入れたお金で、回復アイテムを大量に買っておいて良かった。
武器や防具を買おうかと思ったけど、手持ちのお金で買える店売り装備の性能などたかが知れている。
装備はモンスターからのドロップをあてにしよう。
「レベルは7か。強化ポイントを射程に振って……これで35だ。初心者の弓本来の射程と合わせて50メートル先まで届くようになったな。順調順調!」
スキルも集まって来てるし悪くない。
遊び始めてすぐに最強になっても飽きちゃうからなぁ~、なんてね。
地道にコツコツ、おじさんの好きな言葉だ。
カサ……カサカサ……カサカサカサ……
む、何かがこすれる音がする。
新手のモンスターだな。
でも、地上に敵はいなさそ……。
「あっ、うわああああああああああああ!!!」
恐れていたことが起こった!
木の上を住処にしているクモ型モンスターだ!
もうかなり接近されている!
俺、虫大っ嫌いなんだよねぇ!
このゲームはグロ描写を設定で抑えることが出来るが、虫系に関しては対策のしようがない。
虫が苦手な人のために違う3Dモデルを作るなんて手間を開発側はかけない。
くっ……作りこんでやがるなこのクモ!
毛の感じとか、目の感じとかすげぇリアルだ!
「それ以上こっちに来るなよ……! あっ、あーーーーーーっ!」
バランスを崩して枝の上から落っこちた!
でも、ある意味素早く敵から距離を取れたぞ!
「インファイトアロー!」
ギリリリリ……ビュッ! ザグッ!
ドスンッ!
俺が地面に激突するのとほぼ同時に、クモが矢で貫かれた。
虫だけあって耐久が低いのがせめてもの救いだったな。
こちらも腰をうったので少しダメージがあるが、死ななければ回復アイテムでどうにでもなる。
――ぴこんっ! 新たなスキル【弓術Ⅰ】を獲得しました。
◆獲得理由
『弓の道の第一歩』
弓をある程度使いこなした。
【弓術Ⅰ】
弓装備時、攻撃、射程を+10する。
どうやら、苦手な敵を倒したご褒美もあるらしい。
いわゆるパッシブスキルというやつだな。
単純だがどんな場面でも腐らない。
地味だけど嬉しい、縁の下の力持ちスキルだ。
それに俺もやっとゲームに弓の使い手として認められたようで気分が良い。
「さて、まだまだ鍛えるとしようか」
今の戦いで俺の新たな課題が見えた。
俺は遠くから敵を攻撃したいし、そのために火力と耐久面を削って射程を伸ばしている。
そうなると当然、敵は俺に近づいて攻撃したいわけだ。
それに対応するためには、敵の接近に敏感にならないとダメだな。
精神を統一して、俺以外の気配を察知するんだ……。
ほら、目をつむるとだんだん脳裏に敵の姿が浮かび上がって……。
「くるわけない」
いくらキャラクターの身体能力が現実以上だからって、そこまで人間離れしたことは出来ない。
スキルでもない限りね。
この場合、敵の接近に敏感になるというのは、音とか物の動きに注意することだ。
さっきのクモだって、移動の際にカサカサ……という葉のこすれる音を残している。
そこに注意がいっていれば、焦って木の上から落ちることはなかっただろう。
そもそも苦手なクモに怯えることはあっても……だ。
木の上ではなく、地上に降りて練習してみよう。
俺みたいな弱そうなプレイヤーがポツンと一人でいると、敵はすぐに狙ってくる。
その接近をいち早く察知して、その攻撃の手が俺に届く前に倒すんだ。
まず現れたのはオオカミ型モンスターの……群れだ。
あらら、複数同時はマズくないか?
向こうも数的優位に気づいて、隠れるどころか堂々と威嚇してくるぞ。
これじゃ練習にならないどころか大ピンチだ。
でも、これを全部倒せたらプレイヤーとしてかなり成長できそうだ。
レベル面でも、プレイング面でも。
「かかってこい、俺が相手だ」
このゲームはアクション要素が強い。
レベルもスキルも大事だが、ピンチの時でも冷静に立ち向かえるプレイング……体の動きこそが肝。
おじさんが渋くカッコよく切り抜けて見せましょう。
まずは余裕の表情で吠えている奴に一撃をお見舞いする。
頭部を撃ち抜き、一撃で撃破。
よし、一撃で倒せるならまだ何とかなる!
怒り狂った群れは突進してくる。
単純な動きだ。
恐れずに俺は矢をぶっぱなす。
一頭、二頭、三頭……群れの数が削れていく。
ここで群れは左右に分かれた。
おいおい、挟み撃ちは勘弁だぞ。
どうする?
どちらか一方を攻撃するか、交互に両方攻撃するか……。
ここは一方を素早く仕留めた方が良い。
狙う方向がコロコロ変わると精度が落ちる。
オオカミの横方向の動きに狙いを合わせるのに苦戦しつつも、右側にいた三匹を何とか仕留める。
残った左側は結構接近してきてるな!
焦りで狙いがブレる……。
落ち着け、俺はただゲームを楽しんでいるだけなんだ。
デスペナルティはない。負けたって悔しいだけだ。
「でも、男ならどんな時も負けたくないよな」
キリリリリ……シュッ! ザクッ!
オオカミの牙が俺に届く寸前で、最後の一匹を撃ち抜いた。
ふぅーっと大きく息を吐く。膝が笑っている。
さっきはゲームを楽しんでいるだけど言ったが、脳はそう思っていない。
オオカミたちはどこまでもリアルで、倒せなければこちらがその身を食い破られる恐怖があった。
でも、俺は勝ったんだ。
生き残ったんだ。
体が震えるほどに嬉しい。
これがヴァーチャルリアリティ……世界中のみんなが熱中するわけだ!
――ぴこんっ! 新たなスキル【不動狙撃の構え】を獲得しました。
◆獲得理由
『動かざる狙撃手』
移動せずに遠くの敵を多く仕留めた。
【不動狙撃の構え】
30秒以上移動しなかった場合、射程を3倍にする。
この状態で攻撃を行った際、30秒間その場から移動することは出来ない。
「こ、これはすごいスキルなんじゃないか?」
効果テキストが今までよりも長く複雑だ。
でも、何より目を引く『射程3倍』!
早速その効果を検証してみよう!
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