Data.5 弓おじさん、狩りへ

 街の外は狩場が豊富だ。

 とはいえ、レベル1のプレイヤーがソロでいけるところは限られている。

 マップをもとに低レベルの狩場を探し、たどり着いたのは森の中。


 まず出てきたのは、先ほど俺を苦しめた狂暴なウサギ型モンスターだった。

 もう首を噛まれるのはごめんだぞ。

 冷静に弓で狙って……。


 キリリリリ……シュッ! ザクッ!


 矢は小さな頭に命中した。

 ウサギが光の粒子となって消える。

 血とかは出ない。


 このゲームはゴア表現に関してもレベルの設定が可能だ。

 俺はもちろん最低にしてある。

 グロいのは大嫌いと言ってもいい。

 血とか見ると体の力が抜けてしまう。


 それにしても、あんなに苦戦した相手を一撃か。

 やはり、弓矢は俺に合っている。

 ヘッドショットを決めれば威力の低さも補えるだろう。


「この調子でレベルを上げていくか」


 レベルアップで強化ポイントをためて、一気に射程を伸ばしたい。

 ちまちま伸ばさないのは、よりハッキリと射程が伸びていることを実感したいからだ。

 その方がきっと楽しい。




 ◆ ◆ ◆




「はぁはぁ……! なかなか、厄介な奴がいるじゃないか……!」


 本当に初心者用の狩場なのか!?

 こんなにでっかいクマが出るなんて!

 思わず背を向けて逃げてしまった。

 クマは逃げる者を追いかける習性があるらしいので、現実ではやってはいけない。

 まあ、敵だと認識された後だと、逃げないとどうしようもないけど!


 しかし、クマという生物は足が速いな!

 追いつかれるぞ!

 デスペナルティはないが、無抵抗で負けるのはカッコ悪い。

 いっちょ抵抗して見ますか!


 キリリリリ……シュッ! シュシュッ!

 ザクッ! ザクザクッ!


 分厚い毛皮に覆われた胴体は狙わない。

 大体の生物の弱点である目と、俺を食おうと大きく開いた口に合計3発の矢を撃ち込んだ。

 HPバーは綺麗に3分の1ずつ削れて、クマは光となって消えた。


 今のはカッコいいぞ、俺。

 この活躍を最初に出会った女の子パーティに見せたかったものだ。


 ――ぴこんっ! 新たなスキル【インファイトアロー】を獲得しました。


 ◆獲得理由

 『危険な射的』

 近距離の敵を射撃系武器で撃破した。


 おっ、スキルも手に入ったな。

 しかも、なかなかカッコいい名前だ。

 レベルもちょうど5になったし、強化ポイントを振り分けてみるか。


 しかし、ここでは危険だな。

 さっきはカッコよく決まったけど、あんなクマに油断しているところを襲われたら勝てる自信がない。

 どこか安全な場所はないだろうか?


 そもそも、ここは本当に初心者用の狩場なのか?

 マップでもう一度確認してみよう。


「げっ、初心者用は初心者用でも、パーティ向けの狩場だったのか……。俺のミスだな」


 初心者でも複数人でパーティを組めば戦力は跳ね上がる。

 そりゃヤバい敵が出るわけだ。


 でも、そんな危険な場所だからこそレベルがサクサク上がって、スキルも獲得できたのかもしれない。

 もうちょっとここで鍛えたいな。

 結局人を強くするのは厳しい環境だ……なんて言ったら若者に嫌われそうだ。

 いや、おじさんだって嫌いだぞ。

 厳しいのはゲームだけにしてほしいものだ。


「おっ、そうだ!」


 ここは森なんだから、木の上で休めばいい。

 木の上に敵が出たら、その時はその時だ。


 近場の背の高い木を頑張って登る。

 枝が多くて足場が多い。

 これはおじさんにも登れるぞ。

 運動神経はダメダメだが、キャラクターの身体能力自体はリアルより上に設定されている。

 こういう焦らなくていい作業は問題なくこなせるな。


「ふーっ! なかなかいい景色じゃないか!」


 森の中でも背が高かった木に登ると、地平線の彼方に沈む夕日が見えた。

 なんだか、夕日ってノスタルジーな気分になるよな。

 あと、俺がログインした時のゲーム内時間は朝だったはずだ。

 かなり遊んでるんじゃないか?

 もうちょっと狩りを続けたいけど、そろそろお家リアルに帰る時間かも。


 とりあえず、手に入れたスキルの確認と強化ポイントの振り分けはやっておきたい。

 ウィンドウを開いて、ポイントをすべて射程に振る。

 迷いはない!


 ◆ステータス

 名前:キュージィ

 職業:射手

 Lv:5/20

 HP:50/50

 MP:50/50

 攻撃:15 防御:8

 魔攻:10 魔防:6

 速度:11 射程:25

 スキル:

 【インファイトアロー】


 5レベル分の25ポイントを振って射程は25メートル伸びた。

 『初心者の弓』のもともとの射程は15メートルだから、だいたい40メートル先まで矢は届く。

 もうすでに結構な射程になってるんじゃないか?

 木の上から地上の敵を狙い打つことも可能かも。


 そう思っていると、足元にさっきのクマ型モンスターが現れた。

 おそらくこの森で最強のモンスターにこんなに出会うとは、運が良いのか悪いのか。

 ちょうどいい、あいつを木の上から倒してみよう。


 と、その前にスキルの方もチェックだ。


 【インファイトアロー】

 射程は短いが高威力の矢を放つ。


 あらら、俺の野望と相反するスキルじゃないか。

 いやでも、その短くなっている射程をステータスの射程で補えば、普通に高威力の矢になるのか。

 むしろ合っているスキルと言えるな。

 早速使ってみよう。


「インファイトアロー!」


 ギリリリリ……ビュッ! ザグッ!


 撃ちだす音からして力強い矢は、毛皮の上からクマを貫いた。

 一撃では倒せなかったが、威力が上がっていることは間違いない。


 それにやはり射程も伸びている。

 登る時は気にしてなかったけど、この木はかなり高い。

 下を見ると足がすくむ。どうやって降りるんだ……。

 まあ、それは置いておいて……。


 今の俺の位置は地上15メートルを超えている。

 地上のクマを狙うと通常の矢で射程ギリギリだろう。

 加えて、矢の威力は射程ギリギリだとかなり落ちる。

 本来ならばクマの毛皮は貫けない。


 それが簡単に貫けて、さらに食い込む手ごたえ……。

 こう、なんというかクリーンヒットしたとわかる感覚がした。

 

 結論!

 インファイトアローの威力の高さは本物!

 短くなる射程はステータスで補える!

 MP消費も少な目で頼れるメインウェポン!


 良いスキルを獲得したぞ。

 アイテムとお金のドロップは渋いが、これだけで頑張った価値がある。

 さあ、街に帰って一回ログアウトしよう。

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