Data.4 弓おじさん、誕生する
ウィンドウで職業を『射手』に切り替える。
まだゲームを始めたばかりだから、いくらでも職業は切り替えられる。
「うお……これは……」
ステータスを見ただけで不人気の理由がわかった。
数値の振り分けが中途半端すぎるんだ。
魔法家のステータスと比べてみるとよくわかる。
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:魔法家
Lv:1/20
HP:20/20
MP:80/80
攻撃:3 防御:3
魔攻:22 魔防:16
速度:6 奇跡:0
スキル:なし
戦士の魔法版という表現がよく似合う。
得意なことは魔法攻撃で、HP的に撃たれ弱いが魔防の高さのおかげで魔法攻撃に対してはある程度の耐久を発揮する。
実にわかりやすいステータスだ。
固有ステータスの『奇跡』は確率で魔法を暴走させて威力と効果を上昇させる。
また、確率でスキルによるMP消費をゼロに抑えられる。
確率頼りのスキルはあまり信用されないが、効果自体は強力だ。
それに対して『射手』スキルがこれだ。
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:射手
Lv:1/20
HP:50/50
MP:50/50
攻撃:15 防御:8
魔攻:10 魔防:6
速度:11 射程:0
スキル:なし
物理方面は戦士の劣化。
魔法方面は魔法家の劣化。
唯一勝っている速度も飛びぬけているわけではない。
そもそもこのゲームの戦闘はターン制ではなく、完全にアクションだ。
速度の上昇によって得られる効果は『足が速くなる』『体が軽くなる』などらしい。
手数を増やしたり、攻撃を回避しやすくはなるが、正直プレイヤースキル次第なところはある。
つまり……俺にはほぼ無意味なステータス。
最後の希望は……固有ステータスの『射程』だ。
祈るようにその説明を読んでいく。
「数値×1メートル射程が伸びる……だけ?」
このステータスだけ数値と効果の関係性がハッキリしてるな!
他は具体的にどういう計算式で、どれだけの効果があるのかボカしてるのに。
まあ、そこは置いておこう。
結局これはどうなんだ?
良いのか? 悪いのか?
このゲームはレベルアップによって手に入る『強化ポイント』を消費してステータスを上げる。
一回のレベルアップで手に入る数値は『5』だ。
つまり、極振りすれば一回で5メートル射程が伸びる。
10レベルで50メートル伸びるってことか……。
しかも、これはあくまでも武器本来が持っている射程にプラスされる数値だ。
もともと長射程の武器と組み合わせれば、数百メートル先から攻撃することも可能だろう。
もし、そんなことが出来るならばモンスターを一方的に倒せてしまうのではないか?
息を切らして走る必要もない。
その場にどっしりと構え、ただ攻撃に集中できる。
VRMMOのフィールドマップは広い。
相手はどこから攻撃されているのかもわからないうちに倒される。
また、ドロップアイテムは倒したプレイヤーに自動的に引き寄せられ、横取りは出来ない。
遠くの敵を倒したからといって、アイテムを回収できないなんてことはない。
「これは……見つけてしまったか? 最強の戦術を……!」
射程に極振りするとなると、攻撃は武器やスキルに頼ることになる。
確実に他のプレイヤーより火力不足に陥る。
しかし、そこは問題ではない。
こちらは一方的に攻撃するんだ。
倒せるまでチクチク攻撃を繰り返すのみ。
もし攻撃が通らないほど硬い敵がいても心配はない。
こちとら元ゲーム会社勤務だ。
RPGには確実に存在することを知っている。
防御力無視のスキルがな!
まあ、このゲームに存在するかは知らないが、MMOというのは何年もアップデートを重ねていくものだ。
確実にインフレしていき、いずれそういったスキルも実装されるだろう。
俺は案外楽観的なんだ。
なにより、このひらめきが正しいのかを自分で確かめたい。
いつからか、ゲームで気になることがあったらすぐ攻略サイトで調べるようになっていた。
自分で探求する心を忘れていたのかもしれない。
今は子どもの頃のようにワクワクするぞ。
「俺は……射程を極めてみるぞ!」
そうと決まれば、本職は『射手』で決まりだ。
装備もそれ用に変更しよう。
◆装備
頭部:―
右手:初心者の弓
左手:(初心者の弓)
両腕:―
胴体:初心者のシャツ
脚部:初心者のズボン
両足:初心者のクツ
装飾:―、―、―
射手には『銃』『手裏剣』『ブーメラン』なども装備できたが、射程が一番長いのは『弓』だった。
だから俺は弓でいく。
とはいえ、俺は人生で一度も弓を握ったことがない。
公園でちょっと練習していくか。
ここには練習用の的みたいなのも設置してある。
見よう見まねで矢をつがえて、弦を引きしぼる。
キリリリリ……シュッ! ストンッ!
おお? 的のど真ん中に命中したぞ!
何か補正でもかけられているのだろうか?
それとも名前に『弓』の字が入っているだけあって、俺と弓には運命的な何かがあるのか?
もう一度やってみよう。
キリリリリ……シュッ! ストンッ!
やはり、狙い通りのど真ん中だ。
これは実戦でも使えそうだ。
ストン! ストン! ストン!
的に当たる音が気持ちいい。
弓を装備していると、背中の矢筒に無限に矢が供給される。
矢の補給とか、残り数とかを気にしながら戦う必要はないな。
ストン! ストン! ストン!
実に体に馴染む。
本当に運命なのかもしれない。
そろそろ、実戦に
パーティを組もうかと思ったけど、今はデスペナルティもないし、ソロ狩りというのも試してみたい。
なにより、ゲームは自由に気楽に遊びたいからな。
さあ、弓の初陣だ。
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