Data.2 弓おじさん、はしゃぐ
カプセル型のVR装置を使い『Next Stage Online』の世界にダイブ。
まず目に映ったのは蒼い宇宙のような景色。
ときおり0と1の羅列が星のように流れていく。
ほう、なかなか電脳世界感あるじゃないか。
『Next Stage Onlineの世界へようこそ。まずはプレイヤーの名前を決めてください。これは後から変更することは出来ません』
そうか、まずは初期設定が必要なんだな。
特に名前入力なんかは昔から変わらない。
俺としたことが、すぐにゲームが始まると思っていた。
名前は……そうだな。
俺の名前は長井弓児だから、キュージィってのはどうだろうか?
うーん、『ジィ』というのが『爺』を連想させるか?
いや、考えすぎだ。
俺はおじさんではあるが、おっさんでも爺さんでもない。
心は若い。細かいことは気にしない。
「キュージィでお願いします」
『かしこまりましたキュージィ様。次に自分自身となるキャラクターの見た目を設定してください。こちらはゲーム内の施設を利用し、後々変更することもできますが、対価を要求されます』
見た目はゲーム開始後も変えられるんだな。
しかし、こういうおしゃれ要素は攻略に関係ない分、割高な対価を求められるのが常だ。
ここはずっと使っていくつもりでキャラクターを作ろう。
まず男か女か……。
ここは男にしておこう。
可愛い女の子をクリエイトする自信はあるが、俺自身がその子を演じる勇気はない。
それにゲームで女の子を演じ続けると、リアルでも女の子っぽくなったという話も聞く。
生半可な気持ちで足を踏み入れていい領域ではないな。
おじさんらしく、渋い男を作り上げよう。
ほうほう、パーツが多いなぁ。
まずはオートクリエイトで大雑把に組み上げてもらって、そこから改変していこうか。
幸いオートの欄に『渋い男』という選択もあった。
それをタッチする。
うむ、なかなか良い男が現れた。
細マッチョでくすんだ茶髪。
ヒゲが生えていないのが清涼感を感じてまたグッドだ。
これでも良いくらいだが、少しばかし変更を加える。
目つきを少し優しめにして、ゴツ目の顎をシュッとさせる。
よし、日本人好みの顔立ちになった。
派手な見た目ではないが、だからこそ飽きずに長く『俺』として活躍してくれるだろう。
「これでお願いします」
『かしこまりました。では、早速Next Stage Onlineの世界ネクスタリアへキュージィ様をお送りしましょう』
「え? もうですか? 確かこのゲームには職業システムが……」
『それらもあちらに着いてからご説明いたします』
ガイドさんがそう言うなら従うまでだ。
さあ、こんどこそ冒険の始まりだ。
◆ ◆ ◆
暗闇を抜け、視界が開けた。
どうやら俺は街中の公園にいるらしい。
芝生の上で何人ものプレイヤーが様々な武器を振るっている。
彼らも俺と同じルーキーだろうか?
このゲームはまだ発売されて一か月経っていないからな。
新規プレイヤーが大量にいてもおかしくはない。
『ここは公園です。街中でありながら武器やスキルを存分に使っていただけます。他プレイヤー様に攻撃が当たることはありません。しかし、見られてしまうので秘密にしたいものを試すのはオススメしません』
なるほど、公園は新しく買った武器や手に入れたスキルを試す場所なのか。
よく見れば俺と同じ初期装備をつけている人以外にも、カッコいい剣とかド派手な魔法を見せびらかしている人もいる。
いいねぇ、オンラインゲームは人の装備を見るのも楽しいと聞く。
俺も早くカッコいい装備を手に入れて、羨望のまなざしを浴びたいものだ。
『では、この三つの中から初期職を選んでください。職はステータスのほかに装備できるアイテムや、覚えられるスキルに差があります』
青く半透明のウィンドウが目の前に展開された。
そこには『戦士』『魔法家』『射手』の文字。
『初ログインから三日間は自由に職業を変更していただけます。思う存分自分に合う職業を探してみてください。また、この三日間は初心者系装備は破壊されても再生します。デスペナルティもありません。敗北を恐れずに戦ってみてください』
至れり尽くせりだな。
最近はどこも初心者には気を遣っている。
ちょっとした不満ですぐに引退されてしまうからな。
『以上で説明は終了です。ここからはご自由にNext Stage Onlineをお楽しみください。何か疑問がございましたら、ヘルプをご利用ください』
初心者のことを気にしつつ、チュートリアルが長くないのもいいな。
こういう月額課金のゲームでは少ないが、無料のソーシャルゲームなどはチュートリアルが長いだけでアンインストールされることもあるとか。
恐ろしい話だ。
「さて、何から始めようか」
声を出すことに違和感はない。
喉の震え方、舌の動きもリアルと変わらないな。
「まずは職業を決めるか」
と言いつつ、もう決まっている。
俺はまず『戦士』を試す!
武器は『片手剣』と『盾』だ!
まずRPGと言ったら、この装備だろう。
前衛職でみんなを守りながら、バッサバッサとモンスターを切り伏せる。
うーん、カッコいいぞ俺。
「ステータスも確認しておこう」
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:戦士
Lv:1/20
HP:80/80
MP:20/20
攻撃:22 防御:16
魔攻:2 魔防:2
速度:8 気合:0
スキル:なし
ほう、得意不得意がハッキリした美しいステータスだ。
中途半端が一番弱いのはゲームの常だ。
戦士は前衛として必要な物が揃っている。
しかし、『気合』というステータスだけよくわからない。
調べて見るか。
『ステータス『気合』は戦士の固有ステータスです。HPが一定の割合を下回った時に、攻撃と防御が上昇します。上昇値は気合と残りHPの割合によって決まります』
なかなか良い効果じゃないか。
粘り強く戦う戦士のイメージにピッタリだし、単純に強力だ。
それに固有ステータスということは、『魔法家』や『射手』にはまた別のステータスが存在するという事か。
そちらも確認してみようか……。
「あのー、すいません」
「あっ、俺ですか?」
「はい!」
声をかけてきたのは初心者装備で身を固めた女の子三人だ。
キャラクターの見た目が美人なので、おじさんちょっとドキッとしちゃったな。
「何か用ですか?」
「あの、あなたも初心者……ですよね?」
「ええ、今ステータスを確認していたところです」
「やっぱり! もしよかったら私たちとパーティを組んでくれませんか? 一度戦闘に挑戦したいんですけど、それなら四人でしっかりパーティを組んだ方が良いかなって」
「構いませんよ。しかし、なぜ俺に?」
「見た目がカッコよくて強そうだったので!」
ふっ、やはりわかってしまうか……。
どうやら俺の実力は隠しきれるものではないらしい。
いきなり見せつけてしまうかもしれない。
元ゲーム会社勤務の実力を……な。
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