射程極振り弓おじさん

草乃葉オウル

立志の章

Data.1 弓おじさん、プロローグ

 会社を退職した。

 このご時世には珍しいレトロな雰囲気のゲームを作る会社だったが、時代の流れには逆らえない。

 世界はVR技術の粋を集めて完成したフルダイブ型VRゲームの数々に夢中だ。


 世はまさに大VR時代!

 無数のゲーム会社が立ち並び、みんながみんなVRゲームを作っていると言っても過言ではない。

 この話をすると決まって『そんなにゲームをたくさん作ってユーザーは分散しないのか?』と聞かれる。

 結論から言おう、分散はする。


 だが、ユーザーはマグロのような回遊魚なのだ。

 その時その時で話題のゲームに食らいつき、飽きたり不満がたまってきたら他のゲームに移る。

 そうして絶えず動き続け、常に多くの人との話題の共有を求める。


 人はゲームそのものより、ゲームを通した人との交流を求めている時代……。


 そんな時代にオンライン対戦すら搭載していないレトロゲーなど求められていない。

 いや、一部には需要があるから俺のいた会社はまだ存続しているのだが、経営は厳しい。

 誰かがプレイしてる動画を見て終わりって人が増えたからなぁ。

 まあ、その時代の変化に対応できないのが悪いと言われればそれまでだけど。


 ということで俺は早期退職をした。

 クビを切られるよりも自ら身を引く方がカッコいいからな。

 あんまり役に立ってなかった気がするし……。


 レトロゲーって作るのが簡単だと思われがちだが、この時代になるとむしろ難しい。

 かつてドットが廃れて3Dのゲームが当然になったのと似ている。

 時代の流れに逆らうには技術がいるんだ。

 俺みたいな昔を懐かしむだけの男はもういらない。


「そう、今日から俺も回遊魚の一匹だ」


 袋から取り出したのはVRMMORPG最新作『Next Stage Online』だ。

 メーカーの名前は……いや、やめておこう。

 同じ業界にいただけあって、会社の名前を認識すると純粋にゲームを楽しめなくなる気がする。


 とにかく、ハードにソフトをセットだ。

 俺の家にあるVR装置は自慢のカプセル型だ。

 まあ、自慢と言っても今はかなり安価で手に入るけどね。


「あれ? どこにソフトをセットするんだこれ?」


 こう見えて俺は仕事一筋で頑張ってきたから、あんまり装置を使ってやれてないんだよなぁ。

 そのおかげで貯金はかなりあるから、仕事をクビになってものんきにゲームを楽しめるわけだけど。


 場合によってはプロゲーマーや配信者で稼ぐのも悪くない。

 昔はいろいろ言われたが、今は立派な仕事の一つになっている。

 元ゲーム会社勤務の最強プロゲーマーってかっこいいかもな。


「あ、ここに入れるんだな」


 ソフトを装置にセットする。

 よし、電源を入れるぞ。


 ブゥゥゥン…………


 重低音って言うのかな?

 機械が動き始めたぞって音がする。

 心の中の少年がワクワクしているぞ。


 さあ、時間はたっぷりある。

 純粋な気持ちでゲームを楽しむとしよう。

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