第11話 アンジュ=サットンの長かった一日④
「目が痛いわ!!」
「我慢しろ!!」
あの後自分の髪を洗っているところを見せると言った彼に私は神田が洗ってくれればいいんじゃない?と提案した。中々いい案だと思ったのだが彼は赤い顔をしながら全力で否定してきた。しかし最後には相変らず赤い顔をする彼が面白くて駄々を捏ねまくった私の粘り勝ちとなった。
「お前マジでちゃんと覚えろよ⁉」
水の張られていない浴槽に頭を突っ込んでいる私は本気で怒る彼に笑いながら返事をする。だんだん私の一挙手一投足に慌てる彼が面白くなってくる。
「はい、終わり…」
洗い終わったらしい彼は私に合図して、シャワーを止めた。私が髪を絞っている間に脱衣所に出た彼は新しいタオルを投げて寄越す。顔にぶつかったそれから花の様な匂いがする。
「さっさと拭けよ…」
タオルを顔からよけて髪を拭き始める様子のない私に彼は呆れた様な声をかける。タオルから顔を出して拭き始めると彼は下の棚から取り出した何かから伸びる線を壁につなげる。
「これも覚えろ」
そう言って私に見せながらつまみを上げる。するとそれからすごい勢いで風が吹き出した。
「凄いわ!!あっいう間に髪が乾いていくじゃない!!」
髪に風を当てられながら私は叫ぶ。それを無視したまま彼は私の髪をぐしゃぐしゃ乱していく。髪はあっという間に乾いた。
「凄いわ…これ欲しいわ…」
ドライヤーと呼ばれるそれを握りしめながら呟く私からからそれを奪い取ると、元ある位置に戻し、同じ場所から櫛を取って私の髪をとかしてくれる。
それはできるのだけれどと思ったが口には出さなかった。すっかりサラサラになった髪からは良い匂いがする。
部屋に戻ってからはテレビにわぁわぁ反応し番組をころころ変えて彼に怒られた。外はすっかり暗くなっていた。しばらくたってから彼は寝るぞと私に声をかけた。大きなベッドのある部屋に案内され、ここで寝ろと言われた私はそれに素直に従う。ベッドからはタオルと同じ匂いがした。
人生で一番長い三日間だった。寂しさがすっかり消えてしまったわけではないけれど、彼のおかげでその感情は和らいでいた。彼がいなかったら孤独感から私は泣いてばかりだったと思う。まどろみの中で彼にまだお礼を言っていなかったことを思い出す。明日はお礼を言おう。そう決めたと同時に私は眠りに落ちた。
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