2018年度

1 GSK小説班議事録(大嘘)

―――それは光に迫る一撃だった。


人の身では回避はおろか知覚することすら叶わない死神の鎌。


あらざる者から放たれたそれは一人の少女―――メルティの白い首へ吸い込まれようとしていた。


メルティもまた人ではなかった。


その華奢な背中から生える不釣り合いな剛腕が絶死の一撃を何事もなく反らしてみせた。


(AffE)




逸らされた大鎌はしかし、石造りの古びた壁を傷つけることはなく、ぬるりと滑るようにかつて人であった者の手元へと帰っていく。


吹き込む隙間風が鎌を構える者の纏うボロ布をなびかせる。


ボロ布から覗く頭蓋骨の、その眼孔は振り向く彼女を静かに見据えていた。


(あなぐま)




突如として爆音が轟いた。濛々たる粉塵が巻き上がり、横殴りの衝撃が死神を襲う。


メルティは警戒して腰元の羽を羽撃かせた。土煙が払われ、異質な金属塊――十トントラックの姿が露わになる。


「メルティ!」


声変わりも迎えていないであろう涼やかな声。助手席の扉を開いて手を差し出したのは、矮躯の少年であった。


(喜常)




伸ばした少年の細腕に、少女の背後から生えた剛腕が捕まえる。同時にトラックの駆動音が砂塵を跳ね上げる。


引き込む少年の腕。割れた窓に引っかかるメルティの肢体。しかし、彼女の柔肌に傷はつかない。


彼女もまた、死神と同じ『』と呼ばれる化物である故。


「あいつは……!? 強いの……!?」


不死者でありながら不死者を殺す彼女――メルティに動悸切れ気味の少年の声が届く。


少年の声に対して少女は首を縦にふる。


「……まだ、勝てない……」


トラックの助手席に妙な体勢で座った彼女は、今日もまた任務失敗の報告をする。


を名乗る二人の旅は、まだ続く。


(Specter.D)

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