#64 後処理
「そういえば、これどうするんですか?」
「……確かに、頭が痛い問題だな」
スタンピードが終戦したことによる歓声が未だに冒険者の中で上がっている中、僕はクラウスさんに気になっていた事を尋ねてみた。
ちなみに、これというのは、戦場になった街道の事で、大量の魔物の死骸を始め、街道自体も魔法などで付けられた傷が残っているのが現状だ。
「普通だと、こういうスタンピードで倒した魔物ってどうするんですか?」
「討伐証明はギルドカードで出来るから問題ないのだが、この量の魔物を運ぶのが一苦労でな…… そろそろギルドの職員が回収しにやってくると……」
「皆様! お疲れ様です! 戦った方達には簡単な食事が用意されてますので、外壁付近まで是非お越しください! 皆様が食事をとっている間に、街の宿にも通達が届くかと思いますから、食事をとり次第戻っていただいて構いません! 魔物の回収は我々が行います! 最後に、領主様からの言葉を預かっていますので代弁させて頂きます! 『今回のスタンピード、魔物を退けられたのは君達のおかげだ。 本当に感謝している、ありがとう。 感謝の意を込めて、魔物の討伐報酬とは別に報酬を用意しているから、後日受け取って欲しい。 今後も、共にこの街を守っていける関係が続く事を強く願っている』との事です!」
その言葉を聞き終えた冒険者や衛兵の人達から、再び大きな歓声が上がった。
皆、「領主様、サイコーだぜ!」「この街が好きだー!」などと叫んでいるので、いかにニコラスさんがこの街の皆に認められているのかが伝わってきた。
冒険者達はそのまま、盛大に騒ぎながら外壁の方へ向かい始め、衛兵の人達は、ギルドの職員達に混ざって、魔物の回収作業を手伝うみたいだ。
「さて、それじゃあ私も手伝いますか」
「……ミリーも魔物集めるの?」
「そりゃあそうよ。 私には収納魔法があるからね」
「あ、それなら僕も手伝いますよ」
「あら、いいの? 結構大変な作業よ?」
「そうなんですか?」
「えぇ、1匹ずつ回収していくから、かなり時間かかると思うわ」
ん? 1匹ずつ?
その言葉を聞いてギルド職員の方を見てみると、いくつかの大きな袋を持った職員さんのところに、大柄で力がありそうな職員の人達が魔物を担いでいって、袋に放り込む姿が見えた。
あれは確か、魔法袋…… 一般的にはマジックバックと呼ばれているものだ。
確かにあれだと時間かかりそうだけど、収納魔法ならあんな事しなくても大丈夫じゃないか? よし、聞いてみよう。
「収納魔法ならそこまで時間かからないんじゃないですか?」
「え?」
「だってほら、こうやって……」
そう言いながら僕は、僕達が戦っていた左側の戦線に微弱な魔力を波紋のように飛ばすことで、魔物の死骸に僕自身の魔力を通した。
「こうして……『アイテムボックス』」
そうしてから収納魔法を発動すると、僕の魔力の残滓が残った魔物の死骸は、1つ残らず僕のアイテムボックスの中に収まった。
「「「「「は!?」」」」」
その光景を見たクラウスさん達やギルドの職員の人達が驚きの声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って。 今のは何?」
「え? 収納魔法ですけど、何かおかしいところありましたか?」
「いやいや! あれだけいた魔物を一瞬で全て回収する方法なんてしらないわよ!?」
え、そうなのか?
以前、ソルムの村から帰る途中に倒した魔物を回収した時とか、最近の討伐依頼でもちょくちょく使っていたけど、その時、ノアルには何も言われなかったぞ?
「ノアル? この収納魔法の使い方って珍しいの?」
「……ショーマ以外が使う収納魔法、見たことない」
「あ、そうなんだ」
「はぁ…… まぁいいわ。 で、どうやったの? 収納魔法は1つずつしか収納出来ないと思っていたんだけど」
「えっと、収納魔法って、収納したい物体に自分の魔力を通す事で対象にしてるという事は分かりますか?」
「えぇ、それは何となく分かるわ」
「それで、この前エリアヒールを使う機会があったんですけど、その時に僕の魔力を波紋のように飛ばして、周辺の人達の傷が治ったのを見て、収納魔法でも同じようなことが出来るんじゃないかと思ったんです」
「なるほど…… 確かに今、考えてみると簡単に出来そうな気がするわね。 なんで今までやって来なかったのかしら……?」
「ちなみに、鑑定魔法でも同じようなことが出来ました。 ただ、頭に入ってくる情報量が多すぎて酷い頭痛に襲われたので、いっぺんに色々な物を鑑定するというのはあまりやらない方がいいと思いますよ」
「そうなのね…… 全く、色々と試すのはいいけど、少しは気をつけないとダメよ?」
「あはは…… そうですね。 身を以て知ったので、今後はもう少し気をつけます」
そんなやり取りをした後、僕とミリアンヌさんはかなりのペースで魔物を回収していき、10分とかからずに全ての魔物を回収することが出来た。
僕達が収納した魔物は、また後日に少しずつ解体場に預けてくれればいいと言われたので、いったん預かっておく事にする。 アイテムボックスの中に入れておけば腐ったりする心配がないだろうし。
「おー、あっという間に片付いた! しっかし、魔物がいなくなったら尚更地形の荒れが目立つなー。 特にギルマスがぶった斬った所とか。 ギルマスー、これどうすんの?」
「うぐ…… そうだな…… 土魔法を使える者達に頼むしかないか……?」
「そうか、金かかりそうだなー」
「う…… そうだよな…… はぁ、これは始末書ものかー……」
魔物の回収を終えて戻ってくると、その間待っていたユレーナさんとゲイルさんがそんな事を話していた。
「ユレーナさん? 良ければ僕がやりましょうか?」
「ん? あぁ、そういえばショーマも土魔法使えるんだったね。 直してくれるってんならありがたいけど、他にも土魔法使える奴を集めないと、この規模はどうしようもないだろう?」
「いや、土魔法は使いませんよ? 使うのは僕の鍛冶師のスキルです」
「は? いや、でもあれは武器を作るためのスキルだろう? 違うのかい?」
「別に武器作りだけじゃないですよ。 あくまでこのスキルは鉱物の形を変えられるスキルなので…… 説明するより見てもらった方が早いかもしれませんね。 とりあえず平らにすればいいですか?」
「あ、あぁ。 だけど、本当に大丈夫なのかい? 確かあんたのそのスキルは魔力使うんだろう?」
「確かにそうですけど、消費する魔力は素材によって増減するんですよ。 今回は普通の土の形を変えるだけなので使う魔力もそこまでではないと思います。 ちょっと時間はかかるかもしれませんが」
「……ショーマ? ……ノアルに出来ることある?」
「うーん、そうだね…… じゃあ、時間がかかると思うから、街の方に戻って食事を摂って、それから宿の方に行って色々と手続きとかしてもらっていいかな?」
「……ん、分かった。 ……ショーマの分の食事、取っておくように言っておく」
「そうしてもらえると嬉しいね。 頼んでもいいかな?」
「……任せて。 ……ショーマも早く戻って来てね?」
「分かった、なるべく早く終わらせるよ」
さて、もう一作業だ。 早い所おわらせてしまおう。
*
「んぅ……?」
窓から差し込む光、更には自らの上半身にかかっている何かの重みを感じ、僕は眠りの世界から徐々に覚醒していった。
首だけを起こして自分の身体を確認すると、胸元の辺りに頬ずりするような形で頭を乗せ、身体の半分以上を僕に重ねている体勢でノアルが寝ていた。
相変わらず、ノアルは少し朝が弱い。 そして、なぜか前日の夜は少し間を開けて寝たはずなのに、朝起きるとぴったりとくっついて寝てたり、今朝のように僕の上でノアルが寝てたりするのだ。
ノアルの寝顔を見ながら、少し寝ぼけた頭で昨日の夜の事を思い出していく。
あの後結局、僕のスキルである、鉱物支配を使っての地形修復は特に問題なく終わらせることが出来た。
元通りになった地形を見て、一番地形を破壊したという事で残って見ていたユレーナさんには、とても喜ばれたし、他にも残っていたギルド職員や「宿も一緒だし、面白そうだから残るぜ!」と言って残ったゲイルさんにも驚かれると同時にかなり感謝された。
ちなみにクラウスさんとミリアンヌさんはニコラスさんの所へ報告やら手伝いやらをするために、マイヤさんも負傷者を診たいという事で、一足早く街の方へ戻っていた。
そんな地形修復をする中で、唯一問題があったとすると、かなり時間がかかってしまい、街に戻るのがかなり遅くなってしまった事だろう。 恐らく、日付が変わるか変わらないかくらいの時間だったと思う。
それから、僕達のためにわざわざ残してくれていた食事をゲイルさん、ユレーナさんと一緒にぱぱっと食べ、「明日、ギルドに顔を出しておくれ! その時に街道を直してくれた報酬も渡すからさ!」と言ってくれたユレーナさんと別れた後に足早に宿へと戻ると、かなり遅い時間だというのにミルドさんが出迎えてくれた。
ミルドさんは僕とゲイルさんに、「おかえり、そして、街を守ってくれてありがとうな」とだけ言い、疲れている事を察してくれたのか、深くは聞かずに部屋へと案内してくれた。
ミルドさんにお礼を言ってから、僕とノアルが泊まっている部屋に入ると、寝間着姿のノアルが机に突っ伏して寝ているのを発見し、少し悪い事をしたなぁ、と素直に反省した。
多分、ベッドに入ったら寝てしまうと考えて、椅子に座って待ってたんだろう。
揺さぶったり、声をかけても起きなかったので、起こさないようにゆっくりとお姫様抱っこでベッドに運び、寝かせてあげた。
それから僕も寝る時の格好に着替え、生活魔法をかけて体を綺麗にした後、ノアルの横のスペースに寝転がり、そのままあっという間に眠ってしまったんだったな。
今は、8時くらいだろうか? ちょっと寝過ぎてしまった。 これからギルドに行かなきゃいけないし、そろそろ起きないと。
「ノアルー、朝だよー。 起きてー」
「ぅうー…… 」
上半身に乗っかっていたノアルごと体を起こす。 そのままノアルはズリズリと滑り落ちていく。
体勢が変えられたことで、流石に目が覚めたのか、少しだけ目を開き、こちらを見上げてくる。 眠そうだな。
「おはよう、ノアル」
「……ん、おはよ。 ……そういえば、どうやってベッドに?」
「起こさないように僕が抱えて運んだよ。 帰り遅くなっちゃってごめんね」
「……しょうがない。 ……あ、じゃあ、一つお願い」
「ん? なに?」
「……待たせた罰として、昨日の夜と同じように抱っこして」
「えぇ…… まぁ、それで気が済むならいいよ。 はい、落ちないように掴まってて」
「……ん」
ノアルは僕の首に両手を回して掴まり、僕はノアルの膝の裏と背中に腕を入れてしっかりと支え、ノアルを抱え上げる。
その体勢上、自然と顔が向かい合う形になり、ノアルが僕の顔を正面から覗き込んで来る。
「……ふふ、こんな風に抱っこされたの久しぶり」
「これは、起きてる時にやるのは恥ずかしいね……」
「……そう? ……ショーマの顔を近くで見れるから、ノアルはいい気分」
「そういうこと、あんま面と向かって言わないで欲しいよ……」
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。 本当、朝から何やってるんだろうか……
「……ショーマ?」
「何だい?」
「……昨日の戦い、カッコ良かった。 ……また惚れ直した」
「……! あ、ありがと…… ノアルも、凄かったよ」
「……ん、ありがと。 ……嬉しい」
何の羞恥プレイだろう、これは……
朝からとんだビックリイベントだけど…… 悪くないと思っちゃう辺り、大分ノアルに絆されてるよね……
まぁ、なにはともあれ、こういう日々が僕にとっては一番幸せなのかもしれないな。
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