#63 終戦
ショーマ達がゴブリンジェネラル等と戦っている頃、戦線の中央では、今回のスタンピードにおけるボスモンスターであるゴブリンキングと対峙する冒険者達がいた。
「ゴブリンキングか…… ミリー、鑑定はどんな具合だ?」
「レベルは85で、以前倒したのと同じくらいね。 ただ、前とは違って、スキルに再生が追加されてるわ」
「げっ、再生持ちかよ。 厄介だなー」
「作戦はどうしますか?」
対峙しているのは、この街だけではなく、この世界でも両手で数えられる程しかいない金ランクパーティーの4人である。
「作戦は以前、ゴブリンキングと戦った時と同じだ。 ゲイルが牽制、私とミリーは火力、マイヤは余裕があれば攻撃、基本は防御を頼む。 ゴブリンキングが再生持ちという事と、不意をつかれないよう、周りのゴブリンにも警戒はしておくように」
「了解よ。 さっさと終わらせてしまいましょう」
「腕がなるな! やっとまともな相手が出てきて嬉しいぞ!」
「街には危害を加えさせません。 恨みはありませんが、ここで倒させてもらいます」
クラウスは片手剣に大きめの盾、ミリアンヌは杖、ゲイルは以前、ショーマにもらった短剣、マイヤは魔石が組み込まれた戦棍をそれぞれしっかりと構える。
「グルァァァァァァァァ!!」
「まずは俺からだぜ!」
戦場に轟く咆哮を上げたゴブリンキングは、大剣を構えて、突っ込んできたゲイルに攻撃を繰り出す。
「そんな大振り、当たる訳ないだろ!」
すんなりと攻撃をかわしたゲイルは、そのままゴブリンキングの腕や体に傷をつけていく。
「おぉ! 流石ショーマが作った短剣だな! ゴブリンキングに簡単に攻撃が通るな……って、おっと危ねぇ!」
「ガァァ!」
本来、ゴブリンキングの体はかなり硬く、並大抵の武器や実力では傷付かないのだが、鉄をも斬り裂くショーマの短剣に、使い手であるゲイルの力量が合わさり、割とすんなり攻撃が通っている。
ゴブリンキングは自分に傷をつけたゲイルをターゲットにし、大剣や、その丸太のような腕を振り回して攻撃を繰り出す。
だが、それは悪手としか言いようがない。
敵を引き付ける事がゲイルの役目であり、また、一流のシーフであるゲイルの動きによって、いつの間にかクラウス達が攻撃しやすい所まで誘導されていたのだった。
「フッ!」
「『イグニートランス』!」
「グギャァァァ!」
クラウスの剣撃によって、ゴブリンキングの剣を持っていない方の片腕が切断され、間髪入れずに飛んできたミリアンヌの火魔法がゴブリンキングの胴体に大穴を開ける。
だが、追撃はまだ終わらない。
示し合わせたように、クラウスとゲイルの前衛2人が離脱し、同時によく通る声が戦場に響き渡る。
「『ジャッジメント』!」
「グルァァァァァァァァ!!?」
ゴブリンキングの真上に出現した魔法陣から、特大の光の柱が降り注いだ。 光魔法の最大攻撃力を誇るジャッジメントという魔法だ。
10秒程、降り注いだ光は徐々に薄れていき、光が消えた後に残っていたのは、体の所々が黒焦げになり、片腕を失い、胴体に大穴を開けたゴブリンキングだ。
「マイヤのアレを受けて原型止めてるのかよ! 相当硬いな」
「あぁ、腕も相当硬かったな。 お前の短剣は割とあっさり通っていたようだが」
「あぁ、俺も驚いた! 流石ショーマの作った短剣だよな~。 リーダーも作ってもらったらどうだ?」
「終わったような会話をしているけど、どうやらまだみたいよ?」
シュゥゥゥゥゥ……!
ゴブリンキングの方を見てみると、ゴブリンキングの体から白煙が上がっており、同時に謎の音も出始めていた。
すると、黒焦げだった体はあっという間に元の色を取り戻し、斬り飛ばされた腕も、胴体に開いた大穴も何事もなかったかのように元通りになってしまった。
効いていないと言わんばかりに、ゴブリンキングが嘲笑うような表情を浮かべる。
「凄い再生力ですね……」
「減った魔力は2割といったところかしらね。 思ったより減ってないわ」
「再生持ちの魔物は魔力が尽きるまで攻撃をし続けるか、体内にある魔石を破壊するかしかないからな。 地道に削っていくしかないだろう」
「ミリーの魔法も急所は避けてたみたいだしなぁ。 そうするしかないかー」
「作戦はさっきと同じだ。 攻撃パターンを変えながら端から削っていくとしよう。 それでは……」
「ハッ!!」
「ギャギャ!?」
ビュン!! ガキィィィィン!!
クラウス達が再び攻撃を仕掛けようとした所に、4人の後ろから明瞭に響く声と、可視化する事が出来る程の鋭い斬撃が、ほぼ同時に飛んできた。
ゴブリンキングはその斬撃を驚きながらも自らの大剣で受け止めたが、その勢いに負け、少し後ろに退がらされた。
「ほう! 今のを受け止めるのかい! これは中々の獲物じゃないか!」
斬撃を飛ばした本人は、カラカラと笑いながら、剣を肩で担いでクラウス達の元へ近寄って来た。
「はぁ…… ギルドマスターよ。 いきなり来られて斬撃を飛ばすのはやめてもらいたいのだが」
「すまないね! 奴の力量がどんなもんか測りたかったんだよ!」
「相変わらずねぇ…… というか、貴女がここに来て大丈夫なの?」
「お前さん達の後ろにいた奴等を全部片しておいたよ。 本当は最初からここに来たかったんだけどね」
そう言って、ユレーナは自らの後方を指差す。 そこには生きている魔物は1匹たりとも残ってはいなかった。
「おー、流石ギルマスだな!」
「ありがとうございます、ユレーナさん」
「いいんだよ。 それで? 戦況はどんな感じなんだい?」
「奴の再生能力がかなり強くてな。 端から削っていって魔力切れを狙おうかと思っていたが、貴女が来たなら話は別だ。 ……デカい一撃を頼んでいいか?」
「お、そんな事言われたら遠慮しないけど、いいのかい?」
「ああ、私やミリーでも出来なくはないが、流石にそこまで隙を見せてくれるかは分からないのでな。 早く終わらせるためには貴女に頼むのが一番だろう」
「分かったよ。 それじゃあまずは、隙を作る所からだね」
ユレーナは愛用の曲刀を構え、ゴブリンキングを見据える。
ゴブリンキングは余裕の表情を浮かべ、クラウス達5人を見ている。 自分が勝利することを1mmたりとも疑っていないようだ。
「よし! それじゃあ行くぜ! マイヤ!サポート頼むぞ!」
「お任せください」
ゲイルは先程と同じように、猛スピードでゴブリンキングに向かって突っ込んで行く。
だが、先程と違ってゴブリンキングはゲイルに対して然程の注意を向けなかった。 確かに、自分に傷を付けられる存在ではあるが、再生能力の前では無力であると考えたのであろう。
真に警戒すべきは、その後ろにいる剣士2人と魔法使いだと。
「無視してんじゃ……ねぇ、よ!!」
「グアァ!??」
だが、その認識は間違っていた。
ゲイルは走り込んできたスピードをそのままに、さらに回転を加えた強烈な蹴りをゴブリンキングの脇腹に叩き込んだのである。
このような攻撃が、ゲイルが脳筋だと言われる所以である。
シーフに相応しいスピードを持ちながら、前衛職に引けを取らない身体の頑丈さがゲイルの取り柄なのである。
その身体から繰り出された蹴りの威力にゴブリンキングは驚くのと同時に、かなりのダメージを内臓に負った。 いくら再生能力があるといっても、内臓の役割などは普通の生物と然程変わらないため、そういった攻撃は同じように効くのである。
「まだまだだぜ!」
「ギャギャァァ!!?」
ゴブリンキングが体勢を崩した所へ、ゲイルは近付き跳躍すると、その短剣をゴブリンキングの目に突き刺した。
その攻撃の痛みに苦悶の叫びを上げたゴブリンキングは、ゲイルに向かって大剣を全力で振り下ろした。
本来であれば、未だ地面に足をつけていないゲイルにその攻撃をかわす術はないはずだが、ゲイルは全く焦っていなかった。
仲間によるサポートがあると信じているためだ。
「『シールド』!」
ゲイルのすぐ横に、マイヤが発動させたシールドの魔法が現れる。
ゲイルはそれを足場にし、横に跳ぶ事で、ゴブリンキングの振り下ろしを見事にかわした。
「サンキュー、マイヤ! 助かったぜ!」
「それは良かったです」
「グルァァァ!!」
怒り狂ったゴブリンキングが、暢気な会話をしているゲイルとマイヤに接近し、攻撃を仕掛けようとする。
しかし、それはゲイルとマイヤの狙い通りで、結局のところ、先程と変わらない結果になる辺り知能はそこまで高くないのだろう。
「『スプラッシュエッジ』!」
いつの間にかゴブリンキングの横に回り込んでいたミリアンヌが、高圧水流の刃でゴブリンキングの片足を切断する。
堪らず膝をついたゴブリンキングの所に、クラウスが駆け寄り、追撃を仕掛けようとする。
そこに向かってゴブリンキングは大剣の攻撃を繰り出すが、かわされるか盾で受け流されたりと、その攻撃は全く届いていなかった。
「甘いな」
パキィィィィン……!
「グルァ!?」
更にそれだけでは済まされず、ゴブリンキングが振り下ろした大剣の腹の部分に強力な一撃を加えられ、ゴブリンキングの大剣は見事に根本付近から叩き折られてしまった。
武器も破壊され、足や目も失ったゴブリンキングに、最早抵抗する手段は残されてはいない。
「これで終わりだよ!」
ゴブリンキングから少し離れた所でユレーナが剣を振り下ろす。
それにより飛ばされた魔力の刃は、通過した地面をも切り裂きながら、ゴブリンキングを通過した。
「グル…………ァ………………」
刃が通過した位置は、ゴブリンキングの身体の中心。 すなわち、ゴブリンキングの身体は、縦に真っ二つに両断されたということだ。
身体の中心部にあった魔石ごと両断されたゴブリンキングは、再生能力を発動する事無く、活動を停止した。
「ふぅ、久しぶりに全力で攻撃したねぇ」
「そのようだな」
ユレーナが飛ばした斬撃は、ウロナの森の近くまで届いており、斬撃が通過した地面は見事に斬り裂かれていた。
「助かったのだけれど、貴女、これどうするの? 流石に考えてやった事なのよね?」
「……あ」
「……え、まさか貴女、考えていなかったの?」
「い、いや、そ、そんな事はないぞ? まぁ、な、なんとかなるだろう」
「……はぁ」
正直なところ、ユレーナは、久々の戦闘で気持ちが昂っており、後先のことはあまり考えていなかったのである。
ダラダラと冷や汗が出てきたが、深く考えるのはやめた。 ボスを倒したとはいえ、まだスタンピードは続いている。 まずはそれを解決する事が先決だ。
「あ、皆さーん! お疲れ様ですー!」
と、そこへ少し離れたところからこちらに向かって声をかけてくる者達がいた。
そちらを見てみると、沢山の冒険者の集団と、その先頭にいるショーマとノアルの姿が目に入ってきた。
どうやら、向こう側で行われていた戦闘は終わったらしい。
その集団と合流すると、皆、ゴブリンキングの死骸に驚いていたようだが、直ぐにユレーナやクラウスの方に向き直り、言葉を待ち始めた。
それを見たクラウスとユレーナが、つぎの行動を示すために口を開いた。
「そっちはもう終わったのかい?」
「はい。 一応の警戒として、ギルンさん達とあと数人残っていますが、恐らく大丈夫だと思います」
「そうか、ならば後は向こうの衛兵達に協力しよう。 動ける者は付いてこい!」
「「「オーーーー!!」」」
冒険者達は、疲れを感じさせない動きで魔物達を殲滅しようと動き出す。
その数十分後、突然起こったスタンピードの魔物群は、1匹残らず討伐され、街側の死者0という、他に類を見ない戦果をあげ、今回のスタンピードは終戦を迎える事となったのである。
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