#38 故郷への道(2)
道から外れ、森に入った僕達は、かなりの頻度で現れる魔物を倒しながらノアルの故郷に向かって真っ直ぐ進んでいた。
それにしても、道から外れると、魔物とこんなに遭遇するとは思っていなかったな。
「ノアルの故郷って森からどれくらい離れてるの?」
「……んー、ノアルが全力で走って30分かからないくらい?」
ノアルのスピードでそれなら、歩くと結構かかる距離だな。
「魔物の大群は森の方から来たんだよね?」
「……そう。 ……村の見張り番が押し寄せてくる魔物の大群を見つけて、慌てて村中で防衛の準備をしたけど、ノアル達だけじゃ対処出来ないと思って、近くの大きな街に早馬を走らせもした」
「防衛って、自警団とかがいるの?」
「……自警団もいるし、獣人は戦闘スキルを持っている人が多いから、子供とか、お年寄り以外はほとんどみんな戦える。 ……ノアルも自警団の手伝いとかよくしてた」
「助けは期待出来そう?」
「……来てくれると思う。 けど、早馬でも1日はかかるから、救援が到着するのは早くても4、5日かかるから、それまでに村が無事だといいんだけど……」
「それなら、急がないとね。 明日で必ず着けるよう、今のうちに進んでおこう」
「……ん!」
ノアルが故郷から逃げて今に至るまで1週間程経っている。 なので、ノアルの故郷がどうなっているかは全く予想がつかない。
歩きながらその他にも話を聞いたところ、ノアルは自警団の中だと上の中から下くらいの位置で、ノアルより戦闘能力の高い人も何人かいるそうだ。
ノアルも最初は一緒に戦っていたそうだが、戦況の悪さから、戦えない人達と共に両親に逃されたらしい。
だが、逃げている途中で魔物に見つかり、そいつらをノアルが囮になって引き付け、そのまま魔物が出てきた方の森とは違う入り口から森に入り、迎撃しながら逃げ回っていたそうだ。
たった1人で誰かを守るために動く事はそうそう出来る事ではない。 と、個人的には思う。
だからこそ、命をかけてまで他人を助けようとするこの少女の力になりたいと思ったのだ。
急がないとな。 向こうに着いたら、僕が出来る事ならなんだってしよう。
*
「お、このスペースいいんじゃないかな?」
「……いいと思う」
あれから6時間程歩き、日が落ちてきたため、休む場所を探していたところだったのだが、いい場所を見つけた。
なので、まずは結界石を作ることから始める。
アイテムボックスから、鉄鉱石を取り出して、鍛冶師のスキルで形を変える。 イメージする形は正三角錐だ。 これなら固定する台座とかが無くても大丈夫だろう。
作ってみたところ、4つとも+3が付いた。 認識阻害を付与することは確定として、後は耐久値上昇と……、なににしようかな? お、これなんかいいかな?
吸着:魔力を流すと物体と物体の設置面をくっつけることができる。 流した魔力量によって、効果時間が変わる。
これならもし、魔物が結界石に当たっても、転がったりせずに済むだろう。
というか、魔法付与は探せば本当になんでもあるな……。 笑い声、とかなにに付与すればいいんだ? 今度パーティーグッズでも作ってみようかな?
まぁ、それは置いといて、結界石に魔力を流し、僕達がいるスペースの四隅に置いておく。
中からだと全く分からないので、ノアルを中に残して、結界の外に出てみると、ノアルの姿は見えず、周りの風景との違和感も無かった。 一応、ノアルにも同じように確認してもらってちゃんと発動している事を確認したが、うん、大丈夫そうだね。
結界石の準備が出来たので、次に絨毯を広げ、食事の準備をする。
ここまで歩き通しだったので、僕もノアルもかなり空腹だ。
サンドイッチとクリームシチューの準備をした後、ここに来るまでに、ウルフを10匹、ゴブリンを15匹、爪熊を3匹に、ブラッドスネークと言われる蛇の魔物を5匹ほど倒した事で、手が少し汚れてしまった。 なので、しっかりと生活魔法で綺麗にする。
「……美味しそう……、食べていい?」
「もちろんいいよ! 僕もお腹空いたから、早速食べようか。 ……いただきます」
「……? ……いただきます?」
「あぁ、これは僕の故郷の食前での挨拶で、作ってくれた人とか、動物とかの命を頂くことに感謝しますって意味なんだ」
「……ん、じゃあノアルも。 ……いただきます」
ノアルも僕の真似をして、顔の前で両手を合わせていただきますをした。
まずは、クリームシチューから口をつける。 うん、アイテムボックスから出したから、出来たてで美味しいな。 ちなみに、鍋は既にアイテムボックスにしまってある。 本当に便利な魔法だなぁ……。
「……あったかいし美味しい……」
「お気に召したかな?」
「……ん! とても美味しい!」
ノアルはクリームシチューと、サンドイッチに関しては味見せずに「……楽しみにしとく」と言っていたので、食べるのは初めてだ。 口にあったようで良かったなー。
「それにしても、魔物肉の旨味はすごいねぇ……、本当はもう少し調味料入れるんだけど、これなら全然いらないや」
「……お肉美味しい」
はぐはぐとレッドウルフの肉を食べながらノアルもそう言ってくる。
「サンドイッチはどうかな?」
僕はサンドイッチが載ったお皿から、照り焼きサンドを取って一口食べる。
「うん、これはこれで美味しい」
みりんが無かったので、照り焼きもどきだが、これはこれでいい味を出している。
「……! 美味しい……!」
お、ノアルが食べたのは生姜焼きサンドだな。 それ、僕も好きなんだよねー。
ご飯にも合って、パンにも合うって最強だと思う。
その後も僕達は、自分達で作った食事を心置きなく堪能して、とても満足感を得ることが出来た。
「ふぅー、お腹いっぱい。 ごちそうさまでした」
「……ごちそうさま。 ……ショーマありがとう、とても美味しかった」
「ノアルも手伝ったんだから、僕だけの力じゃないよ? だから、ノアルもありがとう。 美味しかったよ」
「……ん!」
さて、辺りはいつの間にか暗くなってきたので、光魔法の基本である、ライトを使う。
空中にふよふよと光の球を浮かばせ、それが、眩しすぎないように魔力を調節する。 この魔法もウィンドと一緒で基本の魔法だが、使い方によっては目眩しなどに使えるので、非常に便利な魔法だ。
さて、光源も準備出来たし、寝るまでに一作業しようかな。
「これから僕は色々と作業するんだけど、ノアルはどうする? 寝ててもいいよ?」
「……ん、じゃあ、先に少し寝ておく。 ……作業が終わったら、交代」
「分かったよ。 はい、これ寝袋ね」
「……ありがと」
ノアルはいそいそと寝袋に入り、絨毯の上に仰向けで寝そべる。 位置的には僕のすぐ横である。
「そんな近くて大丈夫? 結構色んな音するから寝にくいかもよ?」
「……まだ、あんまり眠くないから、ショーマの作業少し見とく」
「そっか、眠くなったらいつでも寝ていいからね?」
「……ん」
僕は、新しい武器を作るために、浮空石と鉄鉱石、魔石をアイテムボックスから取り出す。
作業をするために、鉄鉱石を使って台座を作る。 鉄鉱石は大量に買ったので特に問題はない。
*
その夜、僕は、新しい武器に魔法付与を施したり、その武器の試運転を繰り返し、その武器を使うために必要なスキルを取ったりと、かなり充実したものになった。
いつの間にか寝ていたノアルが、夜中に起きた時に、「……交代」と言われても、「もう少し!」と言って中々寝ようとしなかったので、終いにはノアルに少し怒られてしまった。
「……ちゃんと休まないとダメ」
「ごめん、ちょっと楽しくて夢中になっちゃった」
「……早く寝て」
「……はーい」
いつものジト目気味で、ちょっと眠たげな目を、更に細め、これ以上ないほどのジト目にして、ノアルはそう僕に言ってきた。
何故か分からないが、あの目で言葉を言われると逆らえる気がしなかった。
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