#37 故郷への道(1)

「はーい! それでは出発しまーす! 動きますので気をつけてくださいねー!」


 御者の男性がそう声を出し、馬車を走らせ始める。 おお、こんな感じで動くのか。


「……ショーマ、馬車は初めて?」

「そうだね、結構早くてびっくりしてるよ!」

「……ふふ、楽しそう」


 ちょっと子供っぽかったかな? でも、これはしょうがないよね、男の子だもの。


「お前達は仲がいいんだな」


 僕達の方を見て、ギルンさんがそう言ってくる。 周りの人からそう言われるとちょっと照れるな。


「ほんとっすよねー、獣人と人間が同じパーティーなのは珍しいっすよ。 ましてや、そんなに仲が良いのは俺っちは数パーティーしか知らないっす」

「他の獣人と人間が同じパーティーの人たちは仲良くないんですか?」

「仲が良いパーティーは少ないと思う。 他のパーティーはなんと言うか、ビジネスパートナーみたいなもんで、言っちゃ悪いが傭兵に近いかもしれんな。 パーティーも、一時的に組む事がほとんどだ」


 リットとヨーガさんがそう教えてくれた。


 ちなみに、リットが呼び捨てなのは、年が同じ事と、「同い年に敬語使われるのはむずがゆいっす!」と言われたので、呼び捨て+タメ口で話す事になった。


「2人はどういう経緯で知り合ったんだ?」

「……ショーマに助けてもらった」

「ほほう、どういう事っすか?」


 ノアルは自分が、故郷から逃げてここまで来たことと、僕と出会った経緯、今、馬車に乗っているのは、故郷に戻るためであることをギルンさん達に告げた。


「……なるほど、苦労をしたんだな。 ショーマ、同じ獣人として礼を言う」

「いえ、そんな。 当然の事をしただけですよ」

「ショーマっちは良い人なんすね~。 話聞いてて感動したっすよ!」

「獣人と知ってからも態度が変わらないというのは俺達にとっては嬉しい事だ。 良い出会いをしたな」

「……ん、助けてくれたのがショーマで良かった」


 なんか、皆に褒められてしまった。


「それにしても、魔物の大群か……、それも、複数の種族が同時に一つの村を襲うなど、スタンピード以外考えられないのだが、違うのか?」

「……スタンピードよりも規模は小さかった。 恐らく、4分の1くらい」

「それでも一つの村を飲み込むには十分過ぎるな……」


 ん? スタンピードとは? 地球のサブカルの中では確か、魔物とか、モンスターが大量発生するようなやつだったな。


「すみません、スタンピードってなんですか?」

「ショーマっち知らないんすか?」

「うん、冒険者になったのも最近だし、あんまりその辺りの常識というか知識が乏しいんだよね」

「そうなんすか! じゃあ俺っちが説明するっす! スタンピードっていうのは、ダンジョンとかの魔力が集まっている場所の魔力が暴走して、魔物が大量発生するような現象の事っす!」


 なるほど、僕の知ってた知識とそこまで差はないみたいだ。


「スタンピードが起きたら、それこそ国全体で対処しなくてはならない。 まぁ、冒険者にとっては荒稼ぎのできるチャンスと言えるかもしれんが、その分危険も多いから、起こらないに越した事はないな」

「そうなんですか」


 リットの言葉を引き継いで、ヨーガさんがそう告げた。


 うーん、話を聞いて、ますますノアルの故郷を襲った魔物の不可解さが増したなぁ……。


「……ギルン達はなんで獣人国に? ……里帰り?」

「いや、俺達の拠点はハゾットの街だから、里帰りという訳ではないな。 今回はギルドの依頼で向かっているんだ」

「ギルドの依頼ですか?」

「近頃の森での異常について分かった事があってな。 獣人国の冒険者ギルドの方にそれを伝えに行くという依頼だ。 その依頼に関しては俺達が適任だと思って引き受けた」

「……首輪のこと?」

「あれ? 知ってるんすか?」

「ゲイルさんから聞いたんです。 内密にという事は言われていますが。 ギルンさん達が、それに遭遇したパーティーなんですよね?」

「ああ、そうだ。 取り逃がしてしまったのは不覚だったがな」

「とんでもなく逃げ足が早かったな」


 この3人は、かなり腕が立つように見えるのだが、そこから逃げた連中もそれなりの実力者なのだろうか。





「……ショーマ?」

「ん? どうしたの?」

「……もうそろそろ、降りた方がいいかも」

「分かった」


 馬車に揺られて、6時間程経った所でノアルがそう声をかけてきた。


 この馬車は御者に話を聞いたところ、耐震の付与がされていて、客にも御者にも負担が少なくてずーっと走り続ける事が出来ていたので、もう50kmくらいは走ったのではないだろうか?


「すいません、そろそろ降りるので、停められそうなところで停めてもらっていいですか?」

「あいよ!」

「降りるのか?」

「はい。 色々と話を聞かせてくれてありがとうございました。 道中お気をつけて」

「お前たちもな。 最近森は物騒になってきたから気をつけることだ」

「ハゾットに帰ったら、また話したいっす!」


 馬車が停まり、出入口が開けられる。


「この辺でいいかい?」

「はい。 ありがとうございました。 また、乗る事があるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」

「そうか! いつでも利用してくれや! それと、気をつけてな!」

「そちらもお気をつけて」


 ギルンさん達や御者に別れを告げ、馬車から降りる。


「……案外、早く着いた」

「ノアルがハゾットまで3日かかったのは、真っ直ぐ向かってなかったからじゃないかな?」

「……今思うとそうかも」

「ここからどれくらいで行けそうかな?」

「……休み無しで行ったら真夜中には着くと思うけど、危ない」

「そうだね、日が落ちるまでは進んで、日が落ちたら適当な場所で野宿しようか」

「……ん、了解」


 僕達はそう決めて、道から外れ、森の中を進む。


 道から外れても、道無き道という訳では無く、それなりに先は見える、が、同じ景色なので気を抜くと方向感覚を無くしそうだ。


「地図貰ってきておいて良かったね」

「……ノアルは分かる」

「え、そうなの? なんで分かるの?」

「……なんとなく?」


 ノアルさん、まさかの地図いらずだった。 まぁ、目的地に近づいてきているというのもあるだろうが。


「……ん! なにかいる」

「早速、魔物が出たね」


 同タイミングで僕達は一体の魔物を感知した。 進行方向の木の陰にそいつは佇んでいた。


「熊?」

「……爪熊」

「あれが爪熊なんだ」


 確かに、手が大きくて、そこに付いている爪がとても大きい。 ちょっとした短剣くらいのサイズはあるな。


「倒せる?」

「……問題ない」

「そっか、じゃあ、ノアルは右、僕は左からいこう」

「……ん」


 僕は、念話を発動させて頭の中で合図をする。 それと同時に、僕達は爪熊の左右から攻撃を仕掛けた。


「グルゥ!?」


 爪熊は急に現れた僕達に驚いたのか、動きを止めている。 その隙を見逃さず、ノアルが爪熊の片腕を斬りつける。


「『ウィンドカッター』!」


 僕は少し遅れて、魔法と一緒に爪熊に攻撃を仕掛ける。


「ガルァ!」


 僕より先に爪熊に襲い掛かった魔法が爪熊の爪とぶつかり合う。 一瞬の均衡の後、ウィンドカッターは爪熊の爪によってかき消された。


 ただ、腕を振り切っているため、今は完全に無防備な状態である。


「グル!?」


 すぐさま、もう片方の腕を振り上げようとしたのだろうが、その腕は動かない。


 先程、ノアルが腕を動かすための筋や腱を切っておいてくれたおかげだ。


 そのまま、僕とノアルは、爪熊の体を斜めに深く切りつけ、2人で奴の体に十字の傷をつけた。


 爪熊の目から光が無くなり、倒れる。 問題なく倒せたみたいだ。


「……ナイスコンビネーション」

「うん、大分連携も取れるようになってきたね」


 ようやくパーティーっぽく、連携出来るようになってきた。 まだまだ、ノアルに頼ってる部分も大きいのだが。


「進めるうちになるべく進んでおこうか」

「……ん、了解」


 アイテムボックスに爪熊をしまい、僕達は再び森を進み始めた。

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