#39 ショーマ、空を飛ぶ?

 時刻は夜の3時くらい。 交代で睡眠を取っていて、今はノアルが寝る番なのだが、あまり眠くないらしく、寝袋に入って蓑虫みたいになりながら、僕の作業をじーっと見ている。 窮屈じゃないのかな、その体勢……?


「ノアル?」

「……ん?」

「今から、ノアルが着ける装飾品作るんだけど、なにがいい?」

「……どんなのが出来るの?」

「ネックレスとかブローチとか、腕輪や指輪も出来るよ。 ただ、戦闘中にも着けたかないと意味ないから、ネックレスとかはちょっと邪魔になるかもね」

「……指輪がいい」

「了解。 デザインはどうする? なんか要望ある?」

「……ショーマに任せる」


 うーん、どうしようかな。 シンプルなデザインもいいかもしれないけど、ノアルが着ける物だし、ちょっとはお洒落に見える物の方がいいよね。


 という訳で作ったのは、鉄鉱石に分離スキルを使い、いらない部分を殆ど全て取り除いて作った純鉄に、魔石を少し混ぜた、少しS字にウェーブがかかった指輪だ。 パッと見は銀に見えなくもないし、今、僕が作れる中で見栄えがいいだろう。 あ、そういえば、ジストンさんの店で、色石なるものを買ったから、色も付けられるな。


「形はこんな感じでいいかな?」

「……ん、すごい良い」

「あと、付けようと思えば色も付けられるんだけどどうする? こんな感じの色があるんだけど」


 と言って僕は、色石をアイテムボックスから出して並べる。


「……これがいい」

「藍色だね。 ちなみにどうして?」

「……ショーマの魔力の色と同じ色」


 魔力の色? ああ、魔法付与をした時に拡がるあの色か。 あれが僕の魔力の色なんだ。


 ちょっと理由が照れ臭いけど、ノアルが望むならちゃんとその色で作らないとね。


 色石から分離スキルを使って、要らない部分を取り除き、残った方から少しだけ再び分離させて、指輪と合成する。


 出来上がった指輪は少し明るめの藍色で、仕上がりが少し不安だったが、わりかし良いのが出来たと思う。


「出来たよ、ノアル。 こんな感じで大丈夫かな?」

「……ん、とても綺麗」


 仕上がりには満足してもらえたので、続けて魔法付与も施してしまうことにした。 付与するのは防御力上昇と物理攻撃力上昇にあとはマジックファーの魔法を付与しておいた。


 魔石を混ぜたのは僕の魔力を魔石に貯めておいて、付与されたマジックファーの魔法を発動させることで、魔石から魔力を引き出すことができるようにするためだ。


 これでノアルの魔力が無くなっても、この指輪を使えば、僕の魔力を使って回復する事ができる。 魔力を込めた量としてはノアルの総魔力の3倍くらいだ。 これ以上込めると、素材が魔力に耐えられなさそうなので、ひとまずはこれくらいにしておく。


 ここまで話した指輪の説明をノアルにも聞かせた。


「……すごい。 ……本当にもらっていいの?」

「ノアルが受け取ってくれるなら受け取って欲しいな」


 台座に置いていた指輪を手に取り、ノアルに渡す。 が、ノアルは僕の差し出した指輪に対して、手の甲を出してきた。


「あれ?」

「………………」


 なにやら、期待した目でこちらを見ているノアル。


 あ……、着けてほしいって事かな? 女の子からしたら、そういう事に憧れたりするんだろうか?


 ノアルの右手を取り、中指に指輪を着ける。 右手の中指は運気が上がるって、たまたま見かけた指輪の通販番組で言っていた気がするので。


「……ありがとう。 ……大切にする」


 ノアルは自分の指に着いている指輪を見つめ、花咲くような笑顔で僕に感謝を告げてきた。


「どういたしまして」


 その後、ノアルの双剣も新しく作って+3にしたのと、いつでも腰に装備できるように鞘も作った。 戦闘のたびに僕がアイテムボックスから出すのもだし、ずっと手に持っておくのも大変なので。


 今までのは、もし壊れた時のためにアイテムボックスにしまっておくことにする。


 双剣に付与したのは、この前の2つに加えて、速度上昇の付与だ。 これで、ノアルのスピードに反応するのは前よりも難しくなっただろう。


 鞘は鉄鉱石の無駄な部分を殆ど全て取り除いて、純鉄にし、魔石を少しだけ合成して作った。 そして、これにも付与が出来たため、耐久値上昇と軽化、後一つは縮小という魔法付与をしておいた。 軽化と縮小は文字通り、魔力を流すと軽くなり、小さくなる。 戦闘中に邪魔にならないようにという配慮だ。


 そんな感じで僕達自身の強化を済ませたところで、辺りが明るくなってきた。


「明るくなってきたね。 出発の準備しようか?」

「……ん!」


 作業台や材料、僕の新武器、絨毯や結界石をまとめてアイテムボックスにしまい、身支度を整える。


 ノアルは昨日と違い、鞘付きの双剣を腰に装備している。


「それじゃあ、行こっか」





 しばらく歩いていると、前方の木々の隙間から、なにやら草原のようなものが見えた。


「お、もしかして、あれが出口かな?」

「……そうだと思う」


 おぉー、やっと森を抜けれるのか。 正直、かなり大変だった。


 結構なペースで進んでいた分、魔物との遭遇も多く、朝からの数時間でウルフ5匹と爪熊2匹を倒している。 昨日大量にいたゴブリンとは遭遇しなかったのは救いかもしれない。


 まぁ、新武器も試せたし素材も手に入ったから、悪いことばかりでは無かったかな。


 森を抜けれるとあってか、僕達の足取りも自然と軽く、早くなる。


 森を抜けると、そこは草原というより原野に近く、それがいくつもの丘になって広がっていて、鮮やかとは言えないかもしれないが、その広大な原野からは何故か力を感じることができた。


「すごいね……」

「……この原野は獣人国で1番大きい。 ……見かけによらず豊かだから、作物もよく育つ」

「そうなんだ」


 言葉がうまく出てこなかったのだが、とにかく凄い。 だが、いつまでも見惚れている訳にはいかたい。


「行こっか。 見通しもいいし、少し急ごう」

「……ん」


 ノアルの案内で、原野を駆ける。 走る途中で僕はさらに魔法を唱える。


「『スピードブースト』」

「……! ……体が軽い」

「対象者の速さを上げる魔法だよ。故郷まで、もう少し頑張ろう」

「……ん! 頑張る!」


 支援魔法の一つで、この他にもフィジカルブースト、マジックブーストがあり、それぞれ力と魔力を上昇させる魔法だ。


 上昇率としては、1.2倍程だが、体感だとめちゃくちゃスピードが上がっているような気がする。 元のスピードが高いノアルは、僕なんかよりも凄いことになってるんじゃないかな?


 森の入り口から見えていた、1番大きな丘の麓まで、15分程で辿り着くことが出来た。 あれだけ離れていたのに、あっという間に着いてしまった。


「このまま行ける?」

「……もちろん」


 走りながら問いかけても、余裕を持って答えてくる。 大丈夫そうだね。


 そのままのペースで丘を一気に駆け上がる。 確かに大きな丘だったが、5分もかからずに頂点に到着した。 その頂上からは……、


「あれが、ノアルの故郷?」

「……そう! ……でも、あれは……?」

「遠くてよく見えないけど……、戦ってる……?」

「……!! ショーマ!! 急ごう!!」

「分かった!」


 珍しく、余裕をなくした声と表情でノアルがそう叫ぶ。


「『身体強化』!!」


 ノアルが最高速度を出すため、身体強化魔法を発動する。


「ショーマ! 先に行く!!」

「僕も行くよ! なるべく付いていくから無理はしないでね!」

「ん!」


 ノアルが思い切り地を蹴ると、ドンッッ! と爆破にも似たような踏み込みの音がし。 次の瞬間、ノアルはかなり先の方まで一気に進んでしまった。


 ちょっと無茶かもしれないけど、僕も行かなきゃ……!


「上手くいってくれよー……『ウィンド』!!」


 かつて剣を飛ばした時のように、僕自身を風で包み、魔力を大量に使って丘の頂上から飛んでいく。


「うぐっ! シ『シールド』ッッ!」


 飛んだ瞬間に今度はシールドを体全体に張って、色んな圧力から身を守る。 お、重力による負荷も感じない。 風圧は防げても、重力はかかると腹を括っていたんだけど、嬉しい誤算だった。


 結果的にノアルは地上、僕は空から猛スピードで故郷までの距離をつめる。


 頼む、間に合ってくれよ……!

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