第31話 ローブマン


 政府の要人は腰を抜かし、マーゲールに命ごいをしている。が、マーゲールはそれを無視し、俺から視線を外そうとしない。

「おい、お前が企んでいたことってのはこんなことか?」

「前にも言ったと思いますが、私は何も企んでなどいませんよ。クックック…」

 マーゲールは楽しそうに笑みを浮かべたが、それは作られたような表情でどことなくぎこちない。

「てめぇが何を企んでいようと俺には関係ないが、ただお前を見ると異常に腹が立つんだよ。それにあの日のことも思いだしちまう」

 俺は片手を強く握り締めた。強く握り過ぎなのか、自分でも拳が震えているのがわかる。

「そうですか。まだあの娘のことを背負っているのですか?全く、あなたも意外とそういうところがあるんですね」

「煩ぇ!てめぇに何がわかるんだ!?てめぇに…」

「わかりますよ。あの娘は非常にいい人材でしたからね。ただ、馬鹿だったせいで手に入れそこねましたが」

 マーゲールは指で眼鏡を押し上げる。

「もう何も喋るな。俺は今ここでお前と決着を付けて少しでもあいつに報いたいんだ」

「むく―――」

 バンッ!

 俺は瞬時に右手で銃を抜いて、マーゲールに向けて銃弾を放った。俺は完全にマーゲールの額を狙ったが、銃弾はマーゲールの頬を掠めただけで平然としている。

「喋るなって言っただろ?」

「いいでしょう。少しだけ相手をしてあげますよ」

「行くぜ。セクレイドトゥレジア、第一種・付加銃発動!」

 俺は左側のホルスターから銃を抜いた。

 俺は両手の銃に力を込めた。

「自然弾・雷の種」

 銃はみるみる電気を帯び、銃口が光り出した。俺は銃口をマーゲールに向けた。

「喰らえ」

 俺は銃弾を二発放った。銃弾は普段よりもかなりの速さでマーゲールに向かっていく。だが、マーゲールは一歩も動かずに軽々と二発の銃弾を右手だけで掴み取った。

「今度は私から行きますよ」

 マーゲールがゆっくりと歩み寄ってくる。

 マーゲールは右腕を振り、右手に持っていた銃弾を俺に投げ付けてきた。銃弾は銃によって放たれたかの如く、向かってきた。

 俺は伏せてかわしたが、すでにマーゲールが距離を詰めてきて、右手で俺の首を掴んだ。

「ぐっ…」

「どうしたんです?リャクト、あなたはこんなものなのですか?正直、悲しいですよ。こんなにも弱いあなたに失明にされたと思うと…」

「うる…せ…」

 マーゲールはその体格からは想像もできない程の力で俺の首を徐々に絞めてきた。

「リャクト、私はあなたに期待していたんですよ。なのにこんなに弱くなったあなたを目の当たりにすると失望するしかありませんね。少しだけのつもりでしたが、あなたはここで死んだ方がいいでしょう。本当はラディムに殺していただこうと考えていたんですが、私がこの手で殺して差し上げますよ」

 マーゲールは更に力を入れて、俺の首を絞め付けてきた。

 俺は意識が朦朧としながらもマーゲールに右手の銃の銃口向けて、銃弾を放った。マーゲールは銃弾をあっさりと掴み取った。

 それと同時に俺は左手の銃で銃弾を放った。マーゲールは仕方なさそうに俺から手を離し、瞬時にかわした。

 俺はその場に崩れるようにして倒れた。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ」

 俺はしっかりとした意識を取り戻すのに少し時間がかかり、それまではただただ呼吸を繰り返していた。

 漸く意識が戻り、立ち上がった。ぼやけていた視界が鮮明なってきた時、マーゲールは政府の要人二人の頭だけをすでに右手に持っていた。

「あなたが苦しんでいる間に私の仕事は済みました。さぁ、後はあなたを殺すだけですね」

 マーゲールは眼鏡を指で直した。

「そこまでだ」

 その声はローブを身に纏う男の声だ。その男はいきなり姿を現した。

「誰だ?」

「あなたですか…仕方ありませんね。そろそろ時間ですし、今日のところは引き揚げましょう。私はこれでも忙しい身でしてね。失礼します」

 マーゲールは二つの首を手に窓から飛び降りた。

「何!?ここは二十階だぜ?」

 俺は窓まで駆け寄り、下を見下ろした。だが、そこには既にマーゲールの姿はなかった。

「ちっ、逃げられたか」

「大丈夫か?」

「あぁ、俺は大丈夫だ。ところでお前、ローブマンだろ?ローブマンが何をしに来たんだ?それにお前とマーゲールは…」

「答える必要はない」

 ローブマンは感情のない声で俺の問い掛けを遮った。

「聞かせてもらうぜ。意地でもな」

 俺はローブマンに銃口を向けた。

「好きにしろ」

 ローブマンは俺に背を向け、通路を歩いていく。

 バンッ!

 俺は背中に向けて銃弾を放った。銃弾は確かにローブマンを捉らえたのだが、ローブには穴も空かずに銃弾だけがその場に落ちた。

 ローブマンはそんなこと気にも留めずにそのまま立ち去っていった。



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