第30話 危機
「やってみるとは言ったものの、どうすればいいのよ?」
サユハが一人で悩んでいる間にも人々は襲われ、百人程いた兵士は半分まで減っていた。
「あっ、ねぇねぇラディムぅ。あの子、リャクトって言う人と一緒にいた子じゃない?」
ラディムはエナビィが指差す方向へ視線を移した。
「ん?確かにそうだな。それがどうかしたのか?」
「あたし、ちょっと遊んでくるぅ!」
「おい、そりゃないだろ」
「いいじゃん。ラディムはこの前の傷がまだ治ってないんだからこの人形頼んだよ」
エナビィは土人形から飛び降り、サユハのいる場所に向かった。
「あっ、こら待て!ったく、仕方ないな」
エナビィはサユハの目の前まで行き、勢い良く片手を挙げた。
「やっほぉ!こんなところで何してるのぉ?」
「あっ!この前のエナビィとか言う…」
「覚えててくれたんだ!ありがとぉ!」
エナビィはサユハの片手を両手で無理矢理掴み、握手する要領で手を上げ下げした。
「えっ?えーっと…」
敵だと思われるエナビィの意外な態度にサユハは戸惑っていた。
「ねぇ、ちょっとあたしの暇潰しに付き合ってくれない?一応、マーゲールさんの敵の仲間だしぃ、殺しちゃうかもしれないけどさぁ」
サユハは一歩だけ後退り、身構えた。
「おっ!早速やる気になってるねぇ。それじゃあ行くよぉ!」
エナビィは槍を組み立て、サユハに突きを繰り出す。サユハはなんとかかわしたが、脇腹を掠めた。
サユハは反撃に転じ、一気に距離を詰めて振り払うように蹴りを入れる。エナビィはそれを後ろに跳んでかわし、かわすと同時にその足に突きを繰り出す。
槍はサユハの足を貫き、更に巻き付いた。
「いた…ちょっと!何これ?外しなさいよ!」
「嫌だよぉだ」
エナビィは槍を引き、サユハは足を取られて倒れた。エナビィは更に槍を振り回し、サユハは地面を引きずり回された。
サユハは地面に捕まり、振り回しを止めた。
「たっのしーい!女の子はやっぱり軽いから簡単に引きずれるなぁ」
「はぁはぁ…」
サユハは息を切らしながらも立ち上がった。
「カスタムブーツ…蹴力強化」
サユハは思い切り足を引いた。
「うわぁ!」
槍がエナビィの手から離れ、サユハの足元に引き寄せられた。
「ひっどーい!人の武器を持ってくなんてぇ」
「煩いわよ。少し黙れないの?」
「ムカつくこと言うんだねぇ」
エナビィはサユハに駆け寄り、屈んで槍を手にした。と同時に引き、サユハは倒れた。倒れたサユハに歩み寄っていき、腹を踏み付けた。
「弱いのに生意気なこと言うからだよぉ」
「くっ…生意気なのはあんたでしょ?」
「煩いぃ!」
エナビィは足を上げ、もう一度サユハの腹を思い切り踏み付けた。
「ぐはぁ…」
「どう?これで少しはわかったよねぇ?力の差ってものがさぁ。もう面白くないから死んじゃっていいよぉ」
エナビィはサユハの足から槍を解き、サユハの胸に突き立ててから一度引いた。
「これでおしまい。バイバイ」
エナビィは槍を勢い良く下ろした。サユハは死を覚悟したのか、顔を反らして目を閉じた。
しかし、サユハの胸を貫く寸前で誰かが柄を掴み、槍はサユハの服を浅く刺した所で止められた。
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