第29話 星敬祭、当日


 昼間はサユハに振り回され、色々なものを見て回ったが、見物客同士の小競り合いがあったくらいで特に何かが起こった訳ではなかった。

 日も暮れて、辺りが闇に包まれる頃には星敬祭の目玉である花火が上げられる時間になっていた。

「早く、早く!」

「ったく、わかったよ」

 俺はサユハに連れられて、会議塔の前にある広場までやってきた。

「昨日、人から聞いたんだけど、ここが一番花火が綺麗に見えるんだって」

「そうか」

「楽しみじゃないの?」

「いや、今まで何もなかったから何かが起こるとしたらこの花火が上がるときしかない。だから色々と周りを気にしてるんだ」

「リャクト気にし過ぎなんじゃない?ここまで来たらなんにも起こんないと思うよ。それよりね、この花火は毎年の恒例なんだって。なんか星に捧げるとか言ってたよ」

「そうなのか」

 俺の聞き流すような返事にサユハは不満げな表情を浮かべる。

「もー、せっかくリャクトのために昨日の内に聞き回ってあげたのに」

「俺のため?」

「そうだよ。この前はリャクトに無理言ったのに助けてくれたじゃん?そのお礼とリャクトがいつも楽しそうな顔してないから楽しんで欲しくてさ」

 サユハは少し照れた表情を浮かべていた。

「あぁ、ありがとな」

「えっ?いいよいいよ。あっ、ほらほら。花火が上がるよ」

 俺はサユハに促され、雲一つない夜空を見上げた。だが、いつまで経っても花火らしきものは上がらない。

「あれ?どうしたのかな?」

 周りにいた人々も徐々にざわめき始めた。

「みんなぁ!元気にしてるぅ?残念だけど、みんなが期待してる花火は中止だよぉ。代わりに私たちがこの星敬祭の目玉だよぉ」

 聞き覚えのある声が突然響いてきた。その声と共に土でできている巨大な人型の人形が現れた。

 その両肩にはこの前に会ったエナビィとラディムが乗っていた。

「おい、なんだよそれ。もっと違う言い方があったろ」

「別にいいじゃんかぁ。マーゲールさんに言われた通り派手に暴れればいいんでしょ?」

「だったらいいけどな」

「ちっ、やっぱりな。俺の予想通りになった訳だ」

「えっ?何々?」

 その土人形は暴れ出し、広場にいた人々に襲い掛かっていく。人々は逃げ惑い、広場は完全に混乱していた。

「キャーーー!助けてーー!」

「逃げろーー!」

「くそ!なんてことしやがんだ!」

「誰かー!怪我人だ!医者ー!医者ー!!」

「なんじゃ?」

「ったく、今度は一体何をやらかす気だ」

「ちょっと!リャクト、一体どうなってるの?」

「俺にわかる訳ないだろ」

 その内に会議塔から百人程の兵士が到着した。

「リャクト、早くどうにかしないと!」

「ちょっと待て!今、考えてるんだ。少し黙っててくれ」

「う、うん」

 俺は頭の中で様々なことを巡らせた。そうして、一つの推測が浮かんだ。

「ちっ、そういうことか」

「えっ?そういうことってどういうことよ?」

「サユハ、ここはなんとかしてくれ。政府の兵士たちもいるから大丈夫だろ?」

「う、うん。やってみる」

 サユハは戸惑いながらも首を縦に振った。

「じゃ、頼んだぜ」

「リャクトはどうするの?」

 走りだそうとした俺をサユハの声が止めた。

「会議塔に乗り込む」

「えっなんで?」

「とにかく、お前はここをなんとかしろ。いいな?」

「うん!」

 俺はこの場をサユハに任せ、会議塔へ向かった。

 広場の騒ぎのせいなのか、会議塔の入口にいたはずの兵士はいなく、会議塔の中にも兵士どころか人すらいなかった。

 俺は昔に一度だけこの会議塔に来たことがあり、その時の記憶を頼りに会議塔を上へと進んだが、俺の記憶が頼りにならないところまで上ってきた。ここからは勘で進むしかない。

「さて、どうするかな」

「ぐわぁ!!」

「なんだ?」

 声は俺がいる通路の突き当たりの部屋から聞こえてきた。その部屋は扉が開いていたが、ここからでは中の様子はわからなかった。俺は急いでその部屋に向かった。

 部屋の中には五、六人の特殊戦道部隊と思われる死体があり、どれも見るも無残な姿をしている。

 この部屋で生きている人間といえば、政府の要人である人間が二人ともう一人だけがいた。

「またてめぇか、マーゲール」

「やはり私の予言は当たりましたね。近々会うという予言が」


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