第32話 蘇った男
「えっ?嘘ぉ?なんで生きてるのさぁ」
「レロイ…君?」
サユハの目には泪が溜まっている。
「大丈夫か?サユハ」
「本当に…本当にレロイ君なの?」
サユハの目から泪が零れ落ちた。
「あぁ。心配かけて申し訳なかった」
「もう!邪魔しないでよぉ!こうなったら二人とも殺してやるんだからぁ」
エナビィはレロイの手を無理矢理槍から離し、距離を取った。サユハは苦しそうにしながらも起き上がった。
「来るがよい」
エナビィはレロイに向けて突きを何度も繰り出す。レロイは槍を見極め、軽々とかわしていく。
レロイは最後の突きの時にかわして、距離を詰めてエナビィの腹を殴った。
「くぅ…」
「どうした?これで終わりなのか?」
槍の先端が動き出し、レロイの背中に向かっていく。
「レロイ君!」
「あぁ、わかっておる」
槍がレロイの背中に刺さる直前で横にかわし、槍を掴む。
「一度見せてもらっておる技を二度も喰らうはずがなかろう」
「ちょっとぉ!離してよぉ!」
レロイはあっさりと槍から手を離した。
「諦めろ。もう戦う理由はない」
「なんかその勝ち誇った言い方がムカつくぅ。諦める訳ないじゃん」
エナビィが突きを繰り出そうとした瞬間に夜空に花火が上がり、エナビィの動きが止まる。
「エナビィ!合図だ。帰るぞ」
「えぇー!ちょっと待ってよぉ。まだ勝負が付いてないんだからぁ」
「ダメだ」
ラディムは冷たく言い放つ。
「いいじゃんかぁ。お願いラディムぅ」
「エナビィ!!」
ラディムの怒鳴り声には怒りよりも冷たさの方が強く含まれていた。
「ひぃ!わかったよぉ。帰るってぇ」
エナビィの表情は少し脅えている。
「こっちこい」
「はぁい」
エナビィは人形の肩に槍を刺し、持ち上げられるようにして肩に戻った。
人形の足元には先程の兵士、百人が全員倒れていた。人形はエナビィとラディムを肩に乗せ、歩き去っていった。
「レロイ君、おかえり」
「ただいま」
サユハがいきなりレロイに抱き付いた。
「よかった…心配したんだからね?あの人たちがレロイ君は死んだって言うし、レロイ君が全然帰って来ないから私、本当に死んじゃったのかと思って…」
サユハの目から泪がぼろぼろと零れ落ちる。
「本当にすまない」
「ううん」
サユハは抱き付いたまま、首を横に振った。
「レロイ君がちゃんと帰って来たから許してあげる」
―――――――――――――――
「ひとまず、サユハのところに戻るか」
急に窓の外が一瞬だけ光った。
「花火か……なんだって今頃に」
「て、敵だー!」
「ちっ」
今までいなかったはずの兵士が現れた。その兵士の叫び声に次々と兵士が集まってきて、あっという間に通路を塞いでしまった。
「どうするかな。この状況じゃ話すら聞いてもらえないだろうし…」
「何をぶつぶつ言っている!?逃がさないぞ!お前はもうここで終わりだ!」
「あいつと同じ逃げ方は気に入らないが、それしかないか」
「捕まえろー!」
バンバン!
俺は銃で走り出そうとしている兵士の足元を狙った。兵士たちは銃に怯み、走り出すのをやめた。
「て、抵抗するな!こっちはこれだけの人数がいるんだぞ!?逃げられる訳がないんだ!諦めて降参しろ!」
俺は窓まで歩いていき、窓の淵に足をかけた。
「ま、まさか…よせ!ここは二十階だぞ!?」
「じゃあな」
俺はかけた足で外に飛び降りた。それと同時に両手で銃をホルスターから抜いた。
俺の体は重力に従い、どんどん加速しながら落下していく。
俺は両手の銃に力を込めた。
「自然弾・風の種」
銃はみるみる風を纏っていく。俺の体が向かっていく下には会議塔の広場が見える。
俺は地面に接触する寸前で銃弾を地面に向けて放った。銃弾は地面に命中し、その瞬間に銃弾を中心に突風が巻き起こった。
その突風は俺の体を受け止めるように吹き荒れ、俺は地面に着地した。
「死なずに済んだか」
まず俺の目に入ってきたのはレロイの姿だった。
「なんだ?やっと帰って来たのか?」
「お主、やはり冷たいな。サユハは泣いて喜んでくれたというのに」
俺はサユハに視線を向けると、サユハの目は少し充血していた。
「俺に泣けとでも言うつもりか?元々、俺はお前が死んだなんて思っていなかったし、信じちゃいなかったんだ。こいつは少し心配し過ぎなんだよ」
「だってさぁ……」
サユハは目を擦り、呟くような声を出した。
「まぁいい。とりあえず、これ以上面倒なことが起こる前に帰るぜ」
「承知した」
「うん!」
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