第24話 リャクトVSスナァ

「早速、お前を倒させてもらうってな」

「ちょっと待て。俺はもう疲れてるんだ。今日はもう帰って寝るから俺はやらないぜ」

「おいおい、そりゃないだろってな」

「そうだなぁ…じゃあやるなら代わりにこいつとやってくれ」

 俺は隣にいたサユハの背中を軽く押した。

「俺はあんまり女の子をいじめるようなことはしたくないってな」

 サユハは振り返り、俺の予想通りに怒鳴りだした。

「ちょっと!なんで私なのさ!?リャクト!」

「だってよ、お前今日は何もしてないだろ?」

「それはそうだけど、このこととは全然関係ないじゃない!」

「そうだってな。俺はお前と戦いたいんだってな」

「顔に似合わず野心家みたいだが、今は気分が乗らないんだ。悪いが今度にしてくれ」

「わかったよ。そういうことにしておいてやる!……ってな」

 スナァは言葉を発すると同時に殆どが刃で出来た刀身でその中心の片方にだけに柄がある奇妙な刃物を右手に持ち、俺の首筋に宛ててきた。

 その刃物は柄を挟んで刀身が対極に突き出し、片方は先に向かうにつれて外に軽く曲がっていき、もう片方は逆に内に曲がっていっている。

「おい、言ってることとやってることが矛盾してるぜ」

「たいした奴だってな。俺の総刃剣を首筋に宛てられて動じないとはってな。だけど、もう俺はやる気になってるんだってな。そこの女の子で我慢しておいてやるってな」

「えぇー!あたし?嫌だよ」

 サユハは一度自分を指差し、その後にその手を左右に振った。

「まぁそれもそうかってな。ディナイウィークスを相手にするなんて君みたいな小娘じゃ無理だからってか?」

「小娘?あたしが?冗談じゃないわよ!なんで見ず知らずの人に小娘なんて言われなきゃいけないのよ!」

 サユハは怒りをあらわにしてスナァへ向かっていき、スナァに振り払うように蹴りを入れるが、スナァはそれを軽々と左手で受け止めた。

 サユハは更に突くように何度も蹴りを繰り出した。スナァはそれを手で受け止めたり、かわしたりしていった。

 スナァは一度後ろに跳んでサユハとかなりの距離を取った。

「ありゃ?怒っちゃったってか?」

「はぁ、単純過ぎだぜサユハ」

 俺はサユハの単純さにただ呆れ返ることしかできなかった。

「ちょっと!待ちなさいよ!人に悪口を言っておいて逃げようだなんて虫が良すぎるじゃない!」

「逃げる訳じゃないってな」

「ちゃんと悪口を言ったツケを払っていきなさいよ!」

「そうだなぁ…まぁ、向こうはアーズとカリタスで十分だよな。じゃ相手をしてあげるってな。よろしくってな」

 スナァはサユハに対して軽く頭を下げ、一礼した。サユハはそんなことを気にも留めずに、向かっていく。

 スナァよりも少し手前でサユハが跳び、足を振り上げて踵落としを繰り出した。

 スナァが頭を上げる頃にはすでにサユハの踵が落ちてくる時だ。だが、スナァはサユハの足を左手で受け止めるように掴み、サユハは逆さになったまま持ち上げられた。

「酷いじゃないかってな。人がせっかく戦う相手に敬意を表しているところだったのにってな」

「煩い!早く降ろしなさいよ!」

 サユハは手足をじたばたさせ、抵抗している。

「わかったってな」

 スナァがサユハの足から手を離し、サユハはそのまま地面に頭をぶつけた。

「いったーい!酷いのはどっちよ!離すときは離すって言いなさいよ!」

 サユハは両手を重ねるようにして頭に当て、痛みと怒りの入り混じった表情で座っている。

「そんなこと言われても困るってな」

「もう怒った!」

 サユハは立ち上がり、怒りの篭った目でスナァに視線を向けている。

「さっきから怒ってたんじゃないのってか?」

「煩い煩い!容赦しないんだから!カスタムブーツ、速度強化!」

「おっ?」

 サユハは一瞬とは言えないが、かなりの速さでスナァに向かっていき、その勢いのまま右足でスナァの頭へまわし蹴りを入れたが、スナァは少し屈んでそれをかわした。

「カスタムブーツ、蹴力強化!」

 サユハはまわし蹴りの勢いを殺さずに一回転し、続いて左足で後ろまわし蹴りをスナァの脇腹目掛け、繰り出した。

 スナァは総刃剣でまわし蹴りを受け止め、更に反撃に転じてサユハに向かって総刃剣で突き出した。

「カスタムブーツ、跳躍強化!」

 サユハは片足だけで後ろに跳び、俺のすぐ近くで着地した。サユハの腹には少しだけ総刃剣を刺された傷が付いていた。

「サユハ、もうやめとけ。あいつはカリタス程強くはないし、変な喋り方をするが、仮にもディナイウィークスの一員だ。実力は確かだ。お前の敵う相手じゃない」

「そうだよ!それくらいわかってる!でも、戦うから!」

 サユハは俺に背を向けたまま答えた。

「やめとけっていってるだろ。これ以上戦うとお前が死ぬぜ」

「でも!」

 サユハは俺に視線を向けてきた。

「じゃあここで死ぬか?」

「でも…私、このままじゃ嫌なの!私、自分でわかってるんだ。自分が弱いこと…だから少しでも強い人と戦って強くなりたいの!」

 サユハの表情には悔しさが滲みでていて、その両手は震える程強く握り締められていた。

「ちっ、しゃーねぇな。わかった。戦いたいだけ戦ってこい」

「うん!」

「話し合いは終わったってか?それじゃ、続きを始めようってな」

 スナァがサユハに向かってくる。サユハも向かっていき、二人が近付いた瞬間にスナァが総刃剣を振り払った。

 サユハはそれをしゃがんでかわし、そのままスナァに足払いをした。足払いはスナァに命中し、その場で倒れるように体勢が崩れた。

 サユハは倒れていくスナァに足を振り上げ、脇腹に蹴りを入れた。スナァは脇腹に蹴りを喰らい、その場に倒れた。

 サユハは間髪入れずに立ち上がり、踵落としを繰り出した。サユハの踵落としがスナァに命中する寸前にスナァの姿が消えて、次の瞬間にはサユハの横で総刃剣を振り払おうとしている。

 俺はすぐにホルスターから両手で二つの銃を抜き、スナァに向けて二発の銃弾を放った。二発の銃弾はスナァの総刃剣がサユハを捉らえる寸前で総刃剣の刃に命中し、総刃剣の動きが止まった。

「どういうつもりだってか?五十三億さん」

「どうもこうもない。もう勝負はついてるだろ」

「確かにそうだってな」

 スナァは左の手首に視線を送ったが、手首には何も巻かれていない。

「おっと、もうそろそろ本当に時間だ。俺はここいらで失礼させてもらうってな。それじゃ」

 スナァは何事もなかったかのように去っていった。

「大丈夫か?」

 俺はただ立ち尽くしているサユハに歩み寄り、声をかけた。

「怖かった…あの瞬間に自分が死ぬって気がしたら、凄く怖くなって体が動かなくなっちゃった」

「そうか」

「ありがとう…リャクト」

「あぁ。よし、帰るぜ」

「うん!」


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