第20話 ラディムとエナビィ

 恐怖がはっきりと窺える叫び声が、突然聞こえてきた。

「えっ!?」

 俺とサユハが声の聞こえた方に同時に振り向く。

「何!?俺たち以外にも狙ってた奴がいたのか。サユハ、俺に付いてこい!」

「う、うん!」

 俺はサユハを連れて隠れながらも急いで声の聞こえる方へ向かった。

 馬車のある場所まで着くと、馬車は確かに襲撃を受けている。だが、俺たちが着いた頃にはすでに部隊は壊滅しかけていて、カリタス一人だけが残っていた。

 部隊は特殊戦道部隊で二十人くらいの編成にもかかわらず、襲撃を仕掛けた方はたったの二人だった。

 一人は頭を覆い尽くすようにバンダナを巻いて背中に大鎌を携えている男だ。もう一人は露出の高い服を着こなし、腰まで伸ばした茶髪を二つにまとめていて、体に似通っていない長さの槍を手にしている女だ。

 俺はひとまず、戦況を見守ることにした。

「よう、残りはお前一人だぜ。カリタス」

「そうだよぉ。諦めて観念しなってぇ」

 二人の声から機嫌よさ気なことが窺い知れた。

「俺は諦めが悪い人間でな。それに一人でも貴様らみたいな賊に負ける気はないぜ」

「何こいつぅ。感じ悪いし、ちょっと調子に乗りすぎじゃない?ラディム、こうゆう人は懲らしめてあげなきゃねぇ」

「ちょっと待て、エナビィ。またお前がやるつもりか?さっきもあの変な奴殺したばかりだろ?俺にやらせろよ」

「えぇー、こいつはあたしがやるのぉ!」

「お前のせいで俺は今、苛々してるんだ。お前は少し見てろ。きっと見てても面白くなるぞ。それにお前じゃこいつはちょっとばかし荷が重過ぎる」

 バンダナの男の名はラディムという名らしい。ラディムの声から機嫌の良さが消えていた。

「なんでさぁ?こんな奴楽勝だよぉ」

「こいつは今のディナイウィークスで最強なんだ。はっきり言うが、お前より強いぞ」

 ラディムは真剣な眼差しでエナビィと呼ばれた女を見ている。

「わかったよぉ。見てることにするぅ」

 エナビィは少ししょんぼりして俯いた。

「俺はお前のその素直なとこは嫌いじゃないぞ」

「貴様か…」

 カリタスが一気に殺気立ち、背中に携えている剣に手を伸ばした。

「ちょっと待て。二人程いるネズミが気になって仕方ないんだ。おい!そこの二人。出てこい」

 その言葉は明らかに俺とサユハに向けられたものだ。

「ばれてたか。サユハ、出るぜ」

 俺とサユハはゆっくりとその三人の前に姿を現した。

「おっ!リャクト・シャール・Fじゃねぇか。こりゃ手間が省けそうで助かるな」

「リャクト・シャール・Fだと?」

 無表情だったカリタスの顔が一瞬だけ、変化したように見えた。が、驚きなのかなんなのかは俺にはわからなかった。

「じゃあ、あたしも戦っていいんだね?やったぁ!」

 エナビィは両手を挙げ、ぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。

「おい、リャクト・シャール・F。あの手足が獣みたいになるびっくり人間はお前の仲間か?」

「びっくり人間って…まさかレロイ君!?」

 サユハはすぐにレロイのことだとわかり、驚いた。

「あぁ。それがどうかしたか?」

「やっぱりお前の仲間だったのか。あいつならな…死んだぞ。正確に言えばこいつが殺したんだけどな」

「嘘…」

 サユハは目に涙を溜め、口に両手を当てている。それから、サユハはそのまま黙り込んだ。

「大丈夫だ、サユハ。あいつがこんな奴らにやられると思うか?」

 俺はサユハの頭に手を乗せた。

「……ううん!」

「だろ?きっと、そのうちふらっと帰ってくるから心配ないって」

「そいつはどうかな?ふふ…」

 ラディムは厭らしい笑みを浮かべている。ラディムのその表情は俺に苛立ちを覚えさせた。

「お前…おい、カリタス」

「なんだ?五十三億」

 カリタスが俺を賞金額で呼んだことに少し気に障ったが、俺はそれを無視して話を続けた。

「お前と俺は本来は敵同士だ」

「あぁ、そうだな」

「だけどよ、今は手を貸してやる。あのバンダナ男は俺に任せろ」

「ふん、いいだろう。貴様に手を借りるのは癪だが、俺も一人でこいつら二人を相手にするのは厳しそうだ」

「おっ、話はまとまったのか?」

 ラディムは背中に携えた大鎌に手を掛けた。

「それなら行くぞ」

「あっ!ちょっと待ってよぉ、ラディム」

 走りだそうとしたラディムはエナビィの声に反応して足を止めた。

「なんだよ?憂さ晴らししようと思ったのに」

「このカリタスって人、ムカつくけどあたしより強いんでしょ?だったら、あたしが戦っても負けるじゃん」

 エナビィは不安そうな表情を浮かべている。

「確かにそうだろうな。でも、俺がすぐに終わらせて助太刀してやるから心配するな。だからあいつはお前に俺を付けたんだろうし」

 ラディムの言葉がエナビィの表情から不安を消し去った。

「そっか!じゃあ頑張ってみるねぇ」


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