第19話 特殊戦道部隊、ディナイウイークス


「ねぇ、ここなんてどう?」

「ダメだ。確かに隠れられるが、距離が遠すぎる」

 朝を迎えてからサユハと二人でルートの下見に来ていた。レロイは朝になっても帰って来なかった。

「リャクト、さっきから一個も見つけないで私にダメ出ししてばっかりじゃん」

「そりゃ、お前が安易に場所を選び過ぎだからだろ。もっと慎重に選べよ」

「はいはい。ごめんなさいね」

 サユハは投げやりに言葉を返してきた。

「本当にわかってるのか?場所が良ければ、襲撃だって簡単になるんだ。逆に言えば悪い場所を選べばそれだけ難しくもなるし、失敗することにだって繋がるんだからな」

「ちょっと!それぐらい私だってわかってるわよ!バカにしないでよ」

「ならいいけどよ」

 俺達は人込みの中を何度も見回しながら歩いているために端から見れば怪しい奴らにしか見えないだろう。

「あっ、あそこは!?」

 サユハが指差した場所に俺は視線を送った。

「そうだな…確かにここなら道幅が狭いから距離的にも大丈夫だろうし、隠れる場所も十分だな」

「でしょ!?さっすが私だなぁ」

 誇らしげにサユハは一度だけ頷いた。

「それじゃあお前は向こう側に隠れて、俺はこっち側に隠れる。で光永の星屑を運ぶ部隊が通り過ぎてから動き出す。それでいいよな?」

 俺は道の左右の狭い路地をそれぞれ指差した。

「うん」

 サユハは首を縦に振り、軽く頷いた。

「一応、襲う時の合図を決めておくか」

「なんで?」

「一応だ。俺とお前の襲うタイミングがずれると面倒になるだろ?だから、襲撃の時の合図くらいは決めておいた方がいいだろ。それと中止の時の分もな」

「そっか。それで、どんな合図にするの?」

 俺は視線を下に下ろし、考え込んだ。

「音は相手に気付かれるから…いや、でもすぐに襲撃すれば問題ないか。中止の合図は一発、襲撃の合図は二発、俺が銃声を鳴らすでいいか?」

 俺はサユハに視線を戻した。

「うん、いいよ」

「よし、じゃあ一通り決まったし帰るか」

「そうだね」



 結局、襲撃当日になってもレロイが帰ってくることはなかった。

「よし、もうそろそろ時間だ。サユハ、準備はいいか?」

「バッチリだよ」

 サユハは握った手を軽く出し、親指だけを立てて屈託のない笑顔をしている。

「それじゃあ行くか」

 俺とサユハは宿屋を出て、予定していた襲撃場所へ向かった。

「じゃあ、お前は配置に付いて来るのを待ってろ」

「リャクトは?」

「俺は運ぶ部隊がしっかり来てるか見てくる」

 俺はサユハだけを置いて、襲撃場所を離れた。

 ルートを逆戻りに隠れながら進むと、月明かりに照らされた馬車がゆっくりと向かって来ている。俺は部隊の人数を確認するため、馬車がはっきりと見える位置まで向かい、隠れながら馬車を確認した。

「……! ちっ」

 俺は自然と舌打ちをしてしまった。

 部隊の中には俺が一度だけ会ったことがあり、アンダーマーケットでも賞金首にされている人間がいた。その男は男にしては長い髪型で黒のロングコートを羽織っている。

 俺は急いでサユハの待っている襲撃場所まで戻った。

「どうしたの?そんなに慌てて…」

「今回の襲撃は中止だ」

 俺は少し荒げた息を整えてからサユハに返答した。

「なんで?今更中止だなんてさ、見に行った時になんかあったの?まさか気付かれたとか?」

「俺がそんなヘマする訳ないだろ。相手の部隊に予想外の人間がいた。なんであんな奴が…」

「それって誰?」

「カリタス・マクベストル。特殊戦道部隊の中で最強でありながらも少数の精鋭部隊、ディナイウィークスの一人だ」

「でぃないうぃーくす?」

 俺はサユハの風人としての常識のなさに呆れつつも、顔には出さなかった。

「あぁ、入れ代わりの激しい部隊でな、人数は七人構成だ。それで奴はディナイウィークス史上で二番目に強いと言われてる人物なんだ。あいつとやり合うなら俺でもある程度覚悟を決めていかなきゃいけない」

「そうなんだ…リャクトでも大変なんて相当強いんだね。それでそのディナイウィークス史上一番強かったのってどんな人?」

 この状況でのサユハの質問に再び呆れて、それを隠さずに俺はため息を吐いた。

「確か…なんとかベクタンテだったような…しっかりした名前までは覚えてないな。とにかく、ひとまずここから離れるぜ」

「う、うん。わかったよ」

「しゅ、襲撃だー!」

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