第14話 トルテラシティへ
二週間が経ち、治療院は俺一人だけが未だにベッドを埋めていた。バーヌさんは外傷が多かったものの、どれも軽いもので致命傷はなく、すぐに退院していった。
俺の傷は腹の方はすでに完治しかけているが、腕は漸く動かせるようになった程度だ。ルリナとレロイの見舞いはもうすでに毎日の日課になっていた。
「リャクトー!元気にしてた?」
「昨日来たばっかで元気にしてたはないだろ」
「お主、日に日に良くなっているみたいだな」
「あぁ、やっと腕も動かせるようになったしな」
俺は包帯の取れた腕を軽く動かして見せた。
「あとは腹が完全に治れば退院していいらしい」
「そうか…ではあと五日くらいと言ったところか」
「まぁ、そうだな」
サユハは俺の顔を見て何かを思い出した。
「あっ!そういえばさぁ、レロイ君からちょっと聞いたんだけど、リャクトとバーヌさんってなんか深い関係なんだって?」
「あぁ、バーヌさんには世話になったからな」
「えっ?どんな風に?」
サユハは更に問い質してくる。
「バーヌさんはな、まぁ俺の親父みたいなもんだ。昔にな、捨てられた俺はあの人に拾われて、育ててもらった恩があるんだ。あの時はまだ五歳くらいだったかな」
言葉を紡いでいる最中に俺の脳裏にバーヌさんとの過去が蘇ってきた。
「そうなんだ。お父さんかぁ…」
サユハは物思いにふけ始めた。父親との想い出にでも浸っているのだろう。
「そういえば、なぜお主の銃は弾が切れぬのだ?前々から気になっていたのだ」
「それはな、戦道の一部だ。戦道を発動したら銃弾は無制限になるんだ。そういう風にしてた方が楽だし、銃弾だってそんなにたくさん持ってる訳じゃないからな」
「そうなのか」
「ところで、あれからマーゲールの奴は現れたか?」
「えっ?見てないけど…」
「ならいいんだ。だけど、警戒しておけよ。今まで姿を消してたあいつが本格的に動きだしたみたいだからな」
すると、ここの治療師である老人が歩み寄ってきた。
「随分賑やかじゃないか。だが、ここは仮にも治療院だ。少しは静かにしてくれないか?」
「静かにって患者は俺一人だろ。それでどうかしたのか?」
「あぁそうじゃった。お前もう明日には退院していいぞ。お前たちがいると、煩くて仕方ないからさっさと出ていってくれて結構じゃ」
口ではそう言いつつも、老人はほんのつかの間寂しそうな表情を見せた。
「いいのか?」
「お前はもう普通にさえしてれば、普段の生活に戻っても大丈夫じゃ。ただし、無理はするなよ。また傷が開く恐れがあるからな」
「はいはい」
老人はそれを告げると、診療室に戻っていった。
「良かったね。リャクト」
「まぁな」
「では、また明日に迎えにくるぞ」
「あぁ、わかった」
そうして、サユハとレロイは治療院を後にした。俺はすることもなく、ただゆっくりと眠りについた。
次の朝を迎えていた。あれからどれくらいの間眠りについていたのかはわからないが、かなりの時間眠っていたのは確かだ。
「準備はできたかな?」
「いや、これからするとこだ」
俺はベッドから起き上がり、身支度を始めた。
「そうか…お前さんにとっとと退院してもらった方がこっちも助かるのじゃよ」
「何言ってんだか。一人者のくせして。俺がいなくなったら淋しいだろ?」
「淋しくなんてないわ。昔から一人者だったから一人は慣れとるんじゃ」
「ったく、強がっちゃって」
俺は老人との会話をしている間に退院の準備を済ませた。
「それじゃ、世話になったな」
俺は治療院を後にした。治療院の前にはすでにレロイとサユハが待っていた。
「おはよー!」
「お前はいつでも煩いんだな」
「私だって静かな時ぐらいあるわよ」
サユハはむくれたのか、顔だけを振り向かせた。
「ところで、リャクト。お主はこれからどうするつもりだ?」
「そうだな…一応この街を出て、トルテラシティにでも向かおうと思ってる」
「そのトルテラシティとは?」
「あぁ、お前は知らないのか。トルテラシティってのはここから少し離れたところにある大きな都市だ」
「そうなのか。だが、何故そこへ?」
「あそこの方が色んな情報が手に入るからだ」
レロイが納得を口にするより先にサユハが少し嬉しそうな声で呟いた。
「トルテラかぁ…楽しみだなぁ」
「サユハ、言っておくが遊びに行く訳じゃないんだぜ。そもそもお前、付いてくるのか?」
「もちろん!それにリャクトは勝手にしろって言ったじゃん」
「面倒だけは起こすなよ」
「当たり前じゃん!」
サユハは自信に満ちた態度を見せた。
そうして、俺たちはバシャーメルタウンを後にした。
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