第13話 その後…


 暗い地下室でサユハが目覚めた。手も足も縄で頑丈に縛られてて、身動きを取ることができない状態で。

「あれ?私なんで…ここはどこよ!?誰か助けてー!」

 この部屋には明かりも何もなく、サユハはじたばたしていた。

「あっそうだ!カスタムブーツ、蹴力強化」

 サユハが足を思い切り開いた。すると、足首で巻かれていた縄は簡単に引き千切れた。動きが少し自由になり、サユハは落ちていた硝子の破片で手を縛り上げている縄を切って解いた。

「ふぅ…これでひとまずは大丈夫っと」

 サユハは立ち上がり、辺りを見回したが、もちろんそこは光と呼べるものは一切なく、サユハにはどんな部屋にいるのか全くわからない。

 サユハは手探りで壁ずたいに歩き、何とかこの部屋の扉まで辿り着いた。だが、もちろんのこと鍵は閉まっている。

「なんでこんな暗いとこに閉じ込められなきゃいけないのよ。こうなったら…カスタムブーツ、蹴力上昇」

 サユハは扉を手加減無しで蹴り飛ばす。が、扉はびくともしない。

「いったーい!!ちょっと!なんでこの扉こんなに固いのよ!?」

 誰に言い放つ訳でもなくサユハは言い放った。サユハは仕方なくその場に座り込み、ただ時間を待つことにした。

 それからどれくらいの時間が過ぎたのか、サユハには分かる術はない。この暗闇に支配された部屋では時間という概念が存在しないからだ。そんなさなか。唐突に扉が開き、サユハは立ち上がった。

「大丈夫か?」

 そう言葉を発したのはリャクトでもレロイでもなく、ローブを身に纏う男だ。

「は、はい。ありがとうございます。助けてくれて…」

「気にするな」

 男がすぐにその場を立ち去ろうとした。

「あ、あの!あなたは誰ですか?せめて名前だけでも…」

「人に語る程の名など持ち合わせてはいない」

 男は何事もなかったかのように歩を進め、地下から一階への階段を登って行った。サユハにはその男が何故自分が監禁されていたのかも、何故助けてくれたのかも、到底理解できるものではない。

 サユハは男より少し遅れて階段を進んだ。サユハは一階の広い部屋に着いたが、男の姿をサユハの目が捉らえることはない。サユハは店をそそくさと後にし、まず目に入って来たのは弱々しく座り込んだリャクトの姿だった。

「リャクト!!」



―――――――――――――――



 サユハの声に俺の意識は急速に引き戻された。俯いた顔を上げるとサユハが俺の元に心配そうに走ってくるのが見えた。

「ちょっと大丈夫!?そんなとこに座り込んで…何やってたのさ?」

「なんでもない…」

 俺は普通に声を発したつもりだったが、声は搾りだされたかのように出された。

「なんでもなかったらこんなとこに座ってる訳ないじゃない!」

「煩いな。少し黙ってくれないか?」

「わかったわよ。でも、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫じゃない」

「じゃあ、なんでもなくないじゃん!」

「黙れって言っただろ」

 サユハは心配そうな表情を浮かべながらも黙った。

「あっ!まさか、傷無しメワンにやられたの?その傷…」

 サユハは俺の傷を見つめ、何かに気付いた。

「あぁ。あの野郎、バーヌさんを襲いやがった。それよりお前、眼鏡をかけたスーツ姿の男にほいほい付いてかなかったか?」

「マーゲールさんのこと?私は別にほいほい付いてった訳じゃ…ただ道に迷ってたから案内してあげただけだもん。それでお礼にってお茶をご馳走になったらいつの間にか地下の部屋にいて…」

「やっぱり…結局ほいほい付いてった訳だ。お前のために言っておくがあいつには気を付けろよ。奴は笑いながら人を殺せるような人間だからな」

「えっ!?でも、そんな危ない人には見えなかったけど…」

 サユハは心底驚いていたが、俺の言葉を半分信じていないようだ。

「だから、気を付けろって言ってるんだ」

「うん…わかった」

「さて」

 俺は腹を押さえつつ立ち上がった。腹には休むことなく、激痛が走り続けている。歩くのでさえ辛いが、俺の体が取り返しのつかなくなる前に治療院へと歩を進めた。

「ちょっと…大丈夫なの?歩いたら余計傷が…」

「だからってこのままじゃどうしようもないだろ」

「そうだけど…」

 サユハはそれから黙って付いて来た。幸い、治療院はここからすぐ近く、俺は体を引きずるように治療院ヘ向かった。治療院は夜中だと言うのに電気が付いている。

 治療院の中は一つの広い部屋を入院用のベッドが置かれた場所と診察用の場所にカーテンで区切ってある。治療院の入院室にはここの治療師らしき白衣を着た老人とジガンがバーヌさんの横たわるベッドを囲んでいて、他に入院している患者がいる様子はない。

「リャクト!大丈夫なのか?」

「おいおい、この状況を見て大丈夫なように見えるか?」

「なんじゃ?また急患か?全く、こんな夜中に二人も来るなんてこの平和な街じゃありえんことじゃな。忙しくなるのぉ」

 白衣を着た老人はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。老人は目を懲らして、俺の腹に視線を集中させた。

「こりゃ…内出血か。それにしても一体どうすればこんなことになるんじゃ?儂は長年色んな患者を見てきたが、こんなのは初めてじゃな。君、そこに座りなさい」

 老人はバーヌさんの隣のベッドを指差した。俺がゆっくりとベッドに腰を下ろすと、老人は俺の腹に手を這わせ、傷の状態を探り始めた。

「こりゃ酷いな。治るまでは時間がかかるが、安静にしていれば直に治るじゃろ。ほれ、こっちへ来い」

 俺は老人に導かれるままに診察室へ向かった。俺と老人は診察室の椅子に腰を下ろし、老人は早速俺への治療を始めた。



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