第12話 リャクトVSメワン
俺は両手に銃を取り、メワンに向けて銃弾を放った。メワンは右腕の義手でそれを防ぎ、向かってきた。
「ケッケッケ。お前となら愉しめそうだなぁ」
メワンが義手を軽く振り払うと、肘の辺りから鋭い剣のような刃を三本出した。一つは左斜めを向き、一つは右斜めを向き、そしてもう一つは腕に沿って生えているようだ。
メワンはすぐに俺の元まで駆け寄ってきて、義手を振り回すように払った。俺は後ろに跳んだが、メワンはすでに俺の右腕に斬り付けた後だった。
俺は後ろに跳んだ際に反撃しようとした。が、右腕が反応を示さず、痛みだけを生み出していた。俺は左手の銃で一発だけ銃弾を放った。だが、それすらもメワンはわかっていたかのように義手で受け止めた。
「どうだぁ?内部殺手(イナァキル)を喰らった痛みはぁ?痛いだろぉ。ケッケッケッケ、ケーッケッケッケッケッケ!!!」
「少し黙れ」
「そりゃあできない相談だなぁ。俺ぁ今、愉しくて仕方がないからなぁ。ケーッケッケ!」
俺が腕を動かそうと試みたが、腕は微かな反応すら示すことはなく、俺は左腕一本で戦いに臨むことになった。
「セクレイドトゥレジア、第一種・付加銃発動」
俺は左手の銃に力を込めた。
「自然弾・雷の種」
銃はみるみる内に電気を帯び、銃口は光を発し始める。
メワンはすぐに俺の様子に気付き、阻止しようと走り出した。俺の目の前まで来ると、メワンはその勢いのまま右の拳を突き出した。俺はメワンの拳を銃口で受け止めた。
義手の刃の一つは俺の顔の手前で止まった。俺は拳に銃口を当てたまま銃弾を放ち、メワンの体ごと弾き飛ばした。メワンは倒れ込み、苦痛の表情を浮かべている。
「痛いよぉ。誰か助けてよぉ……なぁんてねぇ。痛い訳無いじゃん。俺の義手はなぁ、特製の金属を使ってて電気なんかは通さないし、お前じゃ穴を開けるのだって不可能なんだぁ。ケーッケッケッケ!」
「早く立て。今からその義手に風穴を開けてやるから」
「ケッケッケ、できるわけないだろぉ。全く、お前はそんなもんなのかぁ?もっと俺を愉しませてくれよぉ」
メワンはどこか不満げな表情で立ち上がった。
俺は銃に力を込めた。
「力覇弾・貫通の類」
銃が何かしらの変化を行うことはない。
メワンはそれを察して右腕を右側に突き出す。
「できるならやって見せてくれよぉ。ほら!このまま動かないでやるからぁ」
「後悔することになるぜ」
俺はゆっくりとメワンの右腕の義手に照準を合わせ、引き金を引いた。銃口から一発の銃弾が放たれ、一直線にメワンの右腕に向かっていき、いとも簡単に撃ち抜いた。
「ぐはっ…!」
メワンは左手で撃ち抜かれた傷を押さえている。
「何だ、義手なのに痛むのか?」
「うるせぇ!お前、よくもやってくれたなぁ。許さねぇぜぇ!」
メワンは怒りを少しだけあらわにし、向かってきた。メワンは何度も右腕で斬り掛かってきたが、俺はすべて紙一重でかわした。
メワンはそれでも手を緩めずに首元を狙って右腕を振り抜いた。俺はそれも胸を反らして紙一重でかわしたが、メワンはすぐに切り返して拳を俺の腹に殴り付ける。
「しまっ…」
メワンの義手は俺の腹に直撃し、三本の刃はすべて突き刺さる。それと同時にメワンの拳が俺を吹き飛ばした。俺はなんとか堪えて倒れることはなかったが、腹を打撃と斬撃の痛みが襲い、激痛が走った。
「ぐはぁ……!」
激痛を感じた瞬間に俺は吐血してしまった。口の中は血だらけで味わいたくもない嫌な味が口に広がり、口の端から垂れた血を手の甲で拭った。
銃を手にしたままの左手で腹の傷を確かめたが、案の定かすり傷さえ付いていない。メワンは怒りが納まったのか、再び口数が増えている。
「今のは効いたろぉ?痛そうだなぁ。血まで吐いてるからなぁ。今のは少し愉しかったぜぇ。ケッケッケ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺はメワンの言葉など聞いている余裕すらない。
俺は銃に力を込めた。
「力覇弾・衝撃の類」
銃が何かしらの変化を行うことはない。
俺はその銃を真上へと投げ、銃は空高く舞う。メワンはチャンスだとでも思ったのか一目散に俺に向かってきた。
俺はさらに右手の銃を左手に取り、力を込めた。
「力覇弾・重力の類」
やはり、銃が何かしらの変化を行うことはない。
メワンがまだ少し距離のある場所まで来た瞬間に俺はメワン目掛け銃弾を放った。メワンは銃弾を義手で受け止めてやり過ごそうとしたが、銃弾が義手に触れた瞬間にメワンの動きが一瞬にして止まった。
俺はその銃をホルスターにしまうと、ちょうどタイミングを窺ったかのように銃が落ちて来た。俺はそれを受け取り、そのまま銃をメワンに向けて引き金を引いた。
銃弾はメワンの胸に命中したが、メワンを貫くどころか傷すら付かない。だが、メワンは銃弾の衝撃により、吹き飛ばされて一軒の店の壁に叩き付けられた。
「力覇激弾・衝重の技」
俺は間髪入れずにメワンに駆け寄り、銃口を頭ヘ向ける。
「死ね…」
「全く持って情けないですね、メワンさん。これではせっかく私が用意した素晴らしい舞台が台無しではないですか」
男の声が反対側の店と店の間の路地から聞こえてきた。暗闇に覆われた路地から姿を現したのは眼鏡を掛けたスーツ姿の男だった。
俺はそいつを一日たりとも忘れたことがなかった。いや、忘れるはずがなかった。
「やっぱりな。こんなイカれた奴がサユハを誘拐したりする訳がないと思ってたが、お前が裏で手を引いていたのか…マーゲール!!!」
「お久しぶりですね、リャクト」
「まだ生きてやがったのか。お前もしぶといな。俺はてっきりあの火事で死んだと思ってたぜ」
言葉を発しつつ、マーゲールは歩み寄ってきた。
「あれくらいでは、私は死になどしませんよ」
俺は銃口をメワンからマーゲールへと移した。
「おや、そんな物騒なものを私に向けるのは止めて頂きたい。今日はあなたとやり合うために来た訳ではありませんので」
「だったら、これ以上近寄るな。本気で撃つぜ?」
「撃てるものなら撃ってみればどうです?」
マーゲールは指で眼鏡を押し上げた。
俺は何の躊躇いもなく、引き金を引いた。だが、マーゲールは銃弾の軌道がわかっていたかのように紙一重で銃弾をかわした。
「それにしてもリャクト、あなた弱くなったのでは無いんですか?メワンさんくらいであれ程てこずるなんて。八年前のあなたの方が…」
「黙れ!マーゲール、てめぇにあの日のことを語る資格があるのか?」
マーゲールは一度立ち止まり、顎に手を当てて考え込んだ。
「そうですね…資格なんて考えたことなかったですね。それにしても、サユハとか言うあの女性は実に単純で誘拐するのがたやすかったですね。リャクト、あなたもあんなのと行動を共にしているから弱くなるんですよ」
バンッ!
マーゲールは俺が放った銃弾を今度は素手で掴み取った。マーゲールは掴み取った銃弾を地面に投げ捨てて、再び歩を進めてきた。
「お前にとやかく言われる筋合いはねぇよ」
「私はただ忠告してあげているだけですよ。あなたほどの風人が際限なく弱くなるのは私も望ましくないですし、悲しいではないですか」
とうとう、マーゲールは俺の手の届く範囲まで歩いて来た。
「では、メワンさんは返して頂きますよ」
「ダメだ。こいつを殺さなきゃ俺の腹の虫が治まらねぇ」
「だからと言って、今メワンさんに死なれるのは私も困るんですよ。彼は狂っていたとしても貴重な人材ですから」
俺は銃口をマーゲールの額に向けた。銃口から額まではわすが数センチしかない。
「マーゲール。お前も死にたいのか?」
「死にたい?それはリャクトが私を殺すということですか?」
マーゲールは作られたような笑みを浮かべた。
「何が可笑しい?」
「すみません。そんな冗談をあなたから聞けるとは思っていませんでしたからね。リャクト、今のあなたには私を殺すどころか傷一つ付けられませんよ」
「だったら試してみるか?」
俺は銃を握る手に力を入れた。
「言ったでしょう?私は今日、あなたと戦いに来た訳ではないと…」
「だが、俺はお前とやる気でいるぜ。お前にだけはなめられたくないからな。それに俺から言わせればお前が俺に傷一つ付けられねぇぜ」
「そんなことを言われても私はリャクト、あなたとは戦いませんよ。それにそんな安っぽい挑発などに私が引っ掛かるとでも?残念ですが、私はそんな挑発に引っ掛かってあげる程お人よしではないですよ。わかりまし―――」
バンッ!
マーゲールが話を遮るように俺は引き金を引いた。俺は銃弾が完全にマーゲールの額を捉らえたと思ったが、すでにマーゲールは俺の首筋に手に納まる程のナイフが宛てがっていた。
「何度も言ったはずですよ?私は戦う気はないと…それともリャクトが死にますか?」
「く…てめ…」
「おっと、動かない方が賢明だと思いますよ。やはり、ナイフを持って来たのは正解でしたね。さっ、メワンさん。起きてください。いつまでそうしているつもりですか?帰りますよ」
メワンは今まで気絶していたのか、動かなかったが漸く気が付いた。
「おっ、マーゲールじゃねぇかぁ。どうしたんだぁ?」
「どうしたじゃありませんよ。せっかくの素晴らしい舞台を台無しにしておいて…とにかく帰りますよ」
「あ、おぉ。わかったぜぇ。おいリャクトぉ、今回は俺の負けだが次はその命をもらうぜぇ」
メワンは立ち上がり、マーゲールと共に歩いて姿を消した。俺はメワンとの一戦で体が思うように動かなく、後を追う気にはならなかった。
俺はその場に座り込み、壁に寄り掛かった。メワンの腹への一撃を喰らったせいで腹は酷い内出血をおこしていた。俺にはもうサユハを助けに行くことは今の所はできそうにない。
俺以外、誰もいない大通りに静かな風が吹き抜けた。
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