第7話 サユハVSナウラ

「相手すれって言われてもなぁ…タリィ、ナウラ、どうする?」

 ジガンは少し困ったという表情を浮かべ、ナウラとタリィに交互に視線を送った。

「言っておきますが、私は嫌ですよ。どんな相手でも女性を相手にするのは私の道理に反しますからね。ジガン、あなたがやればいいでしょう」

「なんで俺がやらなきゃいけねぇんだよ。あんな小娘とやっても面白くもなんともないだろ。ナウラ、お前に任す!」

「えぇー。なんで僕がやらなきゃいけないのさぁ?あんなの誰がやったって一緒じゃないか。見るからに弱そうだし…」

 ナウラはサユハに視線を向けた。

「なんですって!?あんたなんかに言われたくないわよ!子供のくせに……あんたの方が私より弱そうじゃない!」

 サユハの言葉にナウラの表情から幼さが消えた。

「何だって…?」

「あーあ、言っちゃったよ」

 ジガンは面白そうに笑みを浮かべた。

「ですが、これで誰がやるか決まりましたね」

 サユハと戦う相手が決まったことで、タリィは壁に寄り掛かり本を読み始めた。ジガンは笑いながら腕を組み、戦いを見守っている。

「結局、私の相手はその子供なの?」

「子供…だと……?」

ナウラは小刻みに体を震わせ、怒りを露わにしている。

「だって、どっからどう見ても子供じゃない」

「僕はもう二十一歳だー!」

 ナウラは怒りをあらわにしてサユハに向かっていく。それと同時に腰に携えたナイフを手に取った。

「えっ?二十一ってことは私より二つも年上じゃない!」

 サユハが驚いている内に、ナウラはすでにサユハの目の前まで到達していた。サユハは蹴り飛ばそうとしたが、ナウラは身軽にサユハの蹴りをかわした。

 ナウラの速さにサユハはナウラを見失った。

「あれ?」

「終わりだ!」

 ナウラはすでにサユハの後ろに回っていて、サユハの首目掛け跳んでいた。

「ヤバッ!特殊仕様の靴(カスタムブーツ)、速度強化!!」

 サリスはナウラが首を切り裂くより少し早く距離を取った。

「ふーん。君みたいなのでも戦道は使えるんだ」

「私にだって戦道くらい使えるわよ!」

「じゃあ僕も戦道を使ってあげるよ」

 ナウラの口元がにやりと笑い、サユハに向かって走り出す。サユハとナウラの距離はあまり離れていなく、サユハが構えるよりも早くナウラはサユハにナイフで斬り付けようとしている。

 サユハはとっさに右腕を盾にして受け止めようとした。だが、サユハにはナイフの太刀筋が見えなかった。ナウラはまだナイフを振り抜いてはいないからだ。

「無音の小刀(サイレントナイフ)」

「えっ?」

 次の瞬間にサユハの脇腹から傷が現れ、血が溢れ出した。ナウラはすでにサユハから離れ、満足そうな表情を浮かべている。

「くっ…」

「あーぁ、可哀相に。それにしても、ナウラも相変わらずスピード命だな。ま、だからこそあいつが怖くもあるんだがな。あいつのサイレントナイフはからくりがわからない限り、あのお嬢ちゃんんはただ餌食になるのを待ってるしかないな。それにしてもナウラの奴、いい加減子供って言われると豹変する性格直せよな。だから、いつまでたっても子供なんだよ」

 ジガンは楽しそうに呟いた。

「どうだい?少しは僕を子供呼ばわりしたことを後悔したかな?」

「後悔なんてするわけないでしょ。だって子供は子供じゃない」

 サユハは苦しそうにしつつも笑って見せる。それがナウラの勘に障ったのか、満足した表情が曇りだす。

「ふん。そう言っていられるのも今のうちだよ?後でたっぷりと後悔させてあげるから」

「やってみなさいよ!」

 今度はサユハが先に仕掛ける。サユハはナウラに一気に詰め寄った。

「カスタムブーツ、蹴力強化!」

 サユハはナウラ目掛け、蹴り上げる。だが、やはりナウラの姿は既になく、サユハの蹴り上げは空振りに終わった。しかし、ナウラはすでにサユハの左側に回り込んで、今にもナイフを振り抜こうとしている。

「受け止めるのがダメなら…」

 サユハは後ろに跳んだ。が、時すでに遅かった。

「…サイレントナイフ」

 そのナウラの呟きは、今度はサユハの左足を切り裂き、血が流れ出した。

「ぐっ…なんで…」

 ナウラは余裕の笑みを取り戻す。

「さぁなんででしょう?」

 ナウラは容赦なく、すぐにサユハに向かっていった。

「ひとまず逃げるしかなさそうね。カスタムブーツ、速度強化!」

 サユハはナウラが来る前に駆け出した。

「遅い遅い!」

 サユハは申し分ない速さで逃げたのだが、ナウラには通用しない。

「サイレントナイフ!」

 ナウラはサユハに並んだ瞬間にいきなり立ち止まった。サユハは走ったまま、ナウラとかなりの距離を取ったのだが、無情にも右腕に斬り付けられた痕が浮かんできた。

「痛っ!なんで…こんなに距離を取ったのに」

 それから、サユハは幾度となく斬り付けられたが、勝機を見出だすことはなかった。

「さぁ、もう終わりにしよう」

「はぁはぁ…」

 サユハには疲れの色が見え始め、体中にはナウラに付けられた沢山の傷痕が刻まれていた。

「おい、ジガンかタリィ!どっちでもいぃから手ぇ貸せ!」

「私は嫌ですよ。読書の最中ですから」

「お前、基本的に戦うの嫌いなんだろ?俺だって嫌だぜ。今そっちのお嬢ちゃんとナウラがいいとこなんだから」

 ジガンとタリィは半分、喧嘩のような言い合いをしていた。

「絶対に諦めないんだから!」

「負け犬の遠吠えかい?せいぜいほざいてればいいさ。それじゃあ行くよ」

 ナウラはサユハに向かっていく。その速さは衰えることを知らず、序盤よりも更に増している。だが、サユハもナウラの速さに大分慣れてきているようだ。

 ナウラがサユハに到着する前にサユハはナウラの姿を見て、あることに気付いた。

「あっ、そっか!カスタムブーツ、跳躍強化!」

 ナウラがサユハに到着する寸前にサユハは真上に跳んだ。サユハの跳躍は高く、そして速かった。

 すぐに天井に到達し、サユハは体制を変えて天井を蹴り、ナウラに向かって跳んだ。ナウラは動くことなく、ただ黙って立ちすくんでいる。

「カスタムブーツ、蹴力強化!」

 ナウラが漸く動き出そうとする。が、サユハが勢いそのままに踵落としを喰らわせた。踵落としはナウラの右肩に直撃し、その衝撃はナウラを貫いて地面にヒビを入れた。

「ぐはぁ…!」

 ナウラはその場に倒れ、力尽きて動くことはなかった。

「はぁ…はぁ…」

サユハは両手を膝に突き、呼吸を整えていた。

「しかし、よくわかりましたね。サイレントナイフのからくりとナウラの弱点が」

「まぁね。ナウラって子の戦道は太刀筋を二つに分身させるんでしょ?見える太刀筋と見えない太刀筋に。だから、近付いた瞬間に見えない太刀筋だけを振り抜くことで腕を振らずして相手に斬り付けることができる…ってことでしょ?それに理由は分からないけど戦道を使った後に必ず動きが止まって隙ができるのよね」

 サユハは自信あり気な表情で答えた。呼吸もすでにしっかりとしている。

「うーん、八十点というところですかね。一太刀で二閃と言うのは合ってますが、二つとも見える太刀筋ですよ?ただ、ナウラが分身した方の太刀筋を操り、一瞬で振り抜くことで見えなくしただけのことです。そうすれば、分身した太刀筋ですから実際に腕を振り抜く必要もないというわけです。ですが、分身した方の太刀筋に意識を集中させているために動きが少しの間、止まってしまうのです。まぁ、考え方としては片腕が二本あるような感じですね」

「いいんですか?味方の戦道をそこまで詳しく話しても…」

「女性には優しくが私の信念ですから」

 タリィは満足そうな笑みを浮かべた。

「は、はぁ…なんか優しいの意味が違うような…」

 サユハは気を取り直し、リャクトのところへ歩み寄った。リャクトは既にドギを圧倒的な力で捩伏せていた。

「まぁな。あいつが何者か知ってれば、誰にだってわかることさ」

「どういうことだ?」

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