第6話 ドギ一家
「はっはっは!漸くチャンスが巡ってきたぞ!お前にコケにされた恨みを晴らすチャンスがな!」
この言葉使いの汚い声は聞き覚えがある。
「こいつらだったのか。街を出るときに感じた視線は。で、えーっと…名前なんて言ったっけ?」
「ドギだ!ドギ・サナヒ様だ!おのれ、一度じゃ飽き足らず二度までも俺様をコケにするとは…」
ドギは怒り心頭という言葉がお似合いの様子だ。考えてみれば、俺はドギという男が怒っている姿しか見たことがないかもしれない。
ドギの他にも背の低い子供と刀を携えた青髪の男、それにもう一人紳士を気取っている男がいる。
「名前なんてどうでもいい。今いいとこなんだ!邪魔するな!」
「うるせぇ!こいつの命が惜しくないのか?」
ドギはサユハの首元に宛がった手斧を更に近付ける。
「あぁ。おい、サユハ。お前が勝手に捕まったんだから自分でなんとかしろ」
「ちょっと!こんな状況でどうすれっていうのよ?」
バンッ!
俺がドギ向けて放った銃弾は手斧を持った右手に命中した。ドギは手斧を落とし、サリスは解放されてドギ達から離れた。
「これならなんとかなるだろ?捕まった責任くらいは自分で取れ」
「わかったわよ。なんとかすればいいんでしょ?」
サユハは身構え、ドギ達に戦いを挑もうとしている。
「俺はあいつとやる。ナウラでもジガンでもいいからあの小娘を相手してやれ」
「相手にすれって言われてもなぁ…タリィ、ナウラ、どうする?」
俺は気を取り直し、双頭獣との戦いに専念することにした。
「よし、仕切直しだ」
俺は牽制のために二発の銃弾を放った。予想通りに叩き落とされたが、俺は瞬時に双頭獣の足元まで潜り込んだ。双頭獣も俺の行動を読んでいたのか、すぐに踏み潰されそうになる。が、俺は後ろに跳んでかわした。
それと同時に二つの銃にそれぞれ違う力を込める。
「自然弾・炎の種」
「自然弾・氷の種」
右手の銃は冷気を纏い、左手の銃は熱気を纏う。
俺はまず冷気を纏った銃弾を双頭獣の体目掛け放つ。銃弾は冷気を纏いながら双頭獣に命中し、命中した辺りが凍り付いた。
次に左手の熱気を纏った銃弾を放つ。銃弾が体に命中すると、今まで体を包んでいた氷が掻き消されて今度は炎が体を包む。
「自然合弾・氷炎の武」
「グワアァァァ!」
「どうだ?冷やされたものを急激に熱される痛みは?」
双頭獣はあまりの痛さなのか、片膝を地面に付き、体を手で押さえ悶え苦しんでいる。
「グ、グワァ!!」
突如、ドギが悶えている双頭獣の体をつたって首元まで走っていく。
「ふん。貰った!」
ドギはすでに振り被っていた大斧を振り抜こうとしている。双頭獣は俺の放った銃弾の痛みのせいで身動きを取れずにいる。
俺はすぐに銃に力を込めた。
「自然弾・風の種」
銃はたちまち風を纏いだし、俺は大斧の刃先に狙いを定め、銃弾を放った。銃弾は大斧に到達し、命中した。その瞬間、人をも吹き飛ばす程の突風がドギを捉らえ、吹き飛ばした。
「タスケテクレタノカ?」
「ふん、勘違いするな。まだ決着が付いていないのに、死なれちゃ困るだろ?それにお前は俺の獲物だ。他の奴に手出しされるのが嫌なだけだ」
「コノショウブハモウワタシノマケダ。コレイジョウヤッテモ、ワタシニカチメハナイ。ヒタイノホウセキヲウチヌケ」
双頭獣は素直に負けを認め、俺に意図が掴めない頼みをしてきた。
「はっ?なんでだ?勝手に勝負を終わらせるな」
「イイカラハヤクシロ!」
「ったく、わかったよ」
俺は額の宝石目掛け、銃弾を二発放った。銃弾は額の宝石に命中し、宝石を砕く。その瞬間に双頭獣はみるみる縮んでいき、なんと人の姿に変貌を遂げた。
その風貌は綺麗な顔立ちに漆黒の髪と美形を思わせるものだ。
「おいおい、冗談はよしてくれよ。喋れるかと思ったら、次は人に早変わりってか?」
「残念だが、冗談でもなんでもない。私は元々人間だ。だが、あの額に埋め込まれた宝石が双獣一族の力を最大限に引き出す代わりに二度と元には戻れぬ呪いもかけられるものなのだ」
真剣で、しかし冷静な表情のまま、言葉を紡いだ。
「ったく、これで一千万Reはパァだな。何のために戦ってたんだか…」
俺は少し落ち込みながら来た道を引き返そうと歩を進めた。しかし、ドギがそれを言葉で制止してくる。
「おい、帰る気か?そう思ってるってことはてめぇもしかしてまた俺様のこと忘れてるんじゃないだろうな?」
「いやいや、忘れちゃいないぜ」
そう言ったものの、すぐにはそいつの名を思い出せずに僅かに考え込んだ。
「えーっと…何だっけな…あっ!土器だろ?」
「土器じゃない!ドギだ!てめぇふざけるのもいい加減にしろ!」
「別にふざけてるつもりは…なぁ?」
「私にもお主がふざけてるとしか思えぬ」
双頭獣の人型の男は呆れて、俺に冷たい視線を投げかけてきた。
「そりゃないだろ?俺はこんなに真面目だってのに……そういえばお前、名前とかないのか?」
「私か?私はレロイ・トーレと申す。お主の名は?」
「レロイか…そんな名前してるのか。俺はリャクト。リャクト・シャール・F」
「てめぇにはやっぱりしっかりとドギ一家の怖さを教えてやらなきゃいけねぇな!おい、ジガンかタリィ!どっちでもいぃから手ぇ貸せ!」
ドギは拳を強く握り、その拳は怒りに震えていた。
「私は嫌ですよ。今は読書の最中ですから」
「お前、基本的に戦うの嫌いなんだろ?俺だって嫌だぜ。今、そっちのお嬢ちゃんとナウラのがいいとこなんだから」
ジガンは視線をタリィに向けずにサユハとナウラの戦いを眺めたままだった。
「そんなのどうでもいいでしょう?どうせ、ナウラが勝ちますから。だから早くドギの加勢をしてあげなさい。その方が少しは楽しめると思いますよ?」
「そりゃ確かにそうだな。なんかタリィに上手く丸め込まれたような気が…」
「そんなのただの勘違いですよ」
タリィの口元が僅かに笑う。
「わかったよ。ドギ!今行くぜ!」
結局、ジガンが加勢することになり、ジガンはドギの元まで面倒くさそうに歩み寄っていった。
「レロイ。少し手伝ってくれないか?」
「あぁ、私は構わぬが……」
「あのジガンとかいう刀を持った青髪の男は頼んだぞ」
「承知した」
レロイが一度だけ頷く。
「おい、さっさと終わらせてくれないか?俺は疲れてるんだ。えーっと…」
「ドギだ!お前絶対わざとだろ!?だが、もうそんなことはどうでもいい。昨日は手も足も出なかったが、今度は本気でやってやるぜ」
ドギは大斧を構えて向かってきた。俺はあの隙だらけの構えに呆れつつ、銃弾を二発ドギに向けて放った。
ドギは大斧の刃の部分で銃弾を防ぎ、更に速度を増して向かってきた。大斧の届く所まで間合いを詰め、ドギはその勢いのまま大斧を振り抜いた。
俺はそれをしゃがんでかわし、銃口を顎に向けようとしたが、ドギはさっき俺が撃ち抜いた右腕を無理矢理に動かして右手の手斧を振り払った。
俺は後ろに跳んでかわし、銃弾を二発放った。頭を狙ったがドギは頭を伏せて、間一髪でかわした。俺が着地すると同時に、時間が止まったかのような静かな沈黙が流れた。
俺がふと、ジガンとレロイに視線を送ると、二人は何故かほのぼのとした雰囲気で話していた。
「どうする?俺は戦うつもりないんだけど…そちらさんは?」
「私も戦う必要性を感じぬ。お主、話のわかる男だな」
「そうか?じゃあ二人の熱戦でも観戦してますか」
「そうであるな」
ジガンとレロイは意気投合していた。ドギもその二人の雰囲気に気付いた。
「こらぁ!ジガン!!なんで戦わねぇんだ!?」
「なんでって…そりゃ戦う必要ないからだろ」
「必要ある!そいつはこの男の仲間だぞ」
「仲間なの?」
ジガンはドギからレロイに視線を移した。
「仲間?私がリャクトのか?そんなわけなかろう。先程まで命懸けの戦いをしていたのだぞ?」
「そうだよな。ドギ!仲間じゃないってさ!」
「くっ…」
「さっさと決着付けようぜ。ドギ」
「確かにさっさと終わらせるか」
俺は二つの銃に力を込めた。
「自然弾・雷の種」
銃は電気を帯び、銃口が光りだす。
それに気付いたドギは手斧を俺に向かって投げると同時に走りだした。俺はすぐに手斧を撃ち落とした。
次の瞬間にはドギが目の前に到達していて、大斧を振り下ろそうとしていた。ドギが大斧で切り裂く寸前に、俺は大斧の柄を撃ち抜いた。大斧の刃の部分は俺の後ろに飛んで行き、壁に突き刺さる。
「終わりだな」
「く、くそっ!」
「あーぁ、やっぱり。そりゃ負けるよな」
ジガンは勝敗を予測していたのか、納得していて表情は満足げだ。
「ほほぅ。お主には結末がわかっていたと?」
その問い掛けにジガンは視線を俺とドギからレロイに移した。
「まぁな。あいつが何者か知ってれば、誰にだってわかることさ」
「どういうことだ?」
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