第23話母さんの古典落語『権助提灯』・其の5
「何なんですか、さとさん。しょう太君のところでよろしくやっていたのじゃあないですか。こんなに早くお戻りになっちゃって。それにそのろうそくは何ですか。ああ分かりましたよ、分かりましたってば。どうせ男はろうそくを垂らせば垂らすだけ喜ぶものだとお思いになっているんでしょうそうでしょう。言っておきますがそんなことはありはしませんよ。でもそうお考えになられているのならそれで構わないですからね、早く垂らしちゃってください。そして早い所しょう太君のところにお行きになってください」
「わかったよ、六助。そんなに一気にまくし立てないでおくれよ。はいよ、ろうそくだ。これでいいかい」
「はい、熱い熱い。僕はこれでもう十分ですから。さあさあぐずぐずしてないでここをお離れになってくださいな」
「了解だってば、六助」
「ちょいとさとさん、ろうそくをお忘れですよ」
「ああそうだったね、何だかどうでも良くなってきちまったよ」
「権助、ごんす……ってそこにいたのかい。何という準備の良さだろうねえ」
「はい、ご主人様。どうせすぐにとって返すことになると思いまして」
「思いましてとは随分な言い草じゃあないか。まあその通りだけれども」
「その通りとはまたしょう太さんのところですか」
「そうだよ、はいろうそくだ。それじゃあ出発だよ」
「出発してよろしいのですね、ご主人様」
「よろしいも悪いもないんだよ、権助」
「ありませんか、ご主人様……はい、しょう太さんのところへご到着ですよ」
「ああ、そうかい。じゃあいってくるとするかね」
「それではご主人様、ろうそくです」
「はいどうも、毎度毎度のことながら何だか申し訳なくなってきたよ」
「そんなことありません、お安い御用です、ご主人様」
「お前があたしに仕えていてくれてよかったよ、権助や」
「勿体無いお言葉でさあ」
「しょう太。その……またきたんだけれども……」
「あああ、またですか。またなんですね、さとさん。じゃあろうそく垂らしてください」
「了解だよ、しょう太」
「ああ熱い熱い。では六助さんにもお願いします」
「はいはい」
「権助、自宅だよ。それじゃあろうそくだよ」
「さいですか、ご主人様。それじゃあ夜道を照らしていくとしますかね……ご主人様、本宅に到着しましたよ。ああ、ご主人様ろうそくです」
「はい確かに」どうぞ」
「熱い熱い」
「だったらしょう太君にも頼みます。さあ、出ていってください」
「わかったよ、六助。出ていくよ……ごんす……」
「へえご主人様、ろうそくを拝借。それではいきますよ……ご主人様、到着しましたよ」
「ろうそ……」
「どうぞろうそくですご主人様」
「しょう……」
「さとさん、もう放っておいてもらえませんか」
「そうかい」
「ごん……」
「ご主人様、ろうそくをお願いします。それじゃあ本宅に戻りますよ……つきましたよ、ご主人様」
「ごん……」
「ご主人様、どうぞろうそくです」
「はいよ」
「六……」
「もう何もしないでください。とっとと出ていってください」
「権助や、またお願いするよ」
「ご主人様、もういい加減にしてくださいませんか」
「どうしてだい、まだ夜は開けちゃあいないよ」
「いえ、おいらにもろうそくを垂らしてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます