第14話母さんと寿限無の生放送解説
「そういえば、ショウちゃん。母さんが母さんのままで寿限無の説明をすればいいということはわかったけれど、ショウちゃんへはどんなふうにすればいいのかな。母さんと同じ年の息子ってのはSFが過ぎるんじゃないのかな」
母さんの言う通りかもしれないが、同い年の息子がいると言うことも込みの母さんのキャラクターにしてしまおう。
「ぜーんぜん平気だよ。母さんは二十年前からタイムスリップしてきて、同じ三十七歳の息子に落語についてレクチャーすればいいんだ。今回はライブの生放送でいくからね」
「ショウちゃんがそう言うのなら母さんはその通りにするね。だけど生かあ。母さんもテレビに映ったことはないから緊張しちゃう。でも、ショウちゃんのためなら頑張るからね」
「ありがとう、母さん。どう放送されているかはこのタブレット……液晶テレビに映るから」
それでは、動画『三十七歳の引きこもり息子に二十年前からタイムスリップしてきた三十七歳の母親が寿限無について説明してみた』の始まりだ。撮影は母さんが契約したスマホで。投稿する動画サイトはコメント表示が動画にされるニヤニヤ動画でいいだろう。
「はいどうも。三十七歳の引きこもり息子です。今日は僕のところに二十年前から三十七歳の母親がタイムスリップしてきて寿限無について話してくれることになりました。お、さっそくコメントをつけてくれた人がいますね。どうもありがとうございます」
『お前なんて知るか。俺が見たいのは俺の高校時代のアイドルだ』
『だれやこいつ。わいにネトラレ趣味はないんや。画面に映るのはかわいい女の子だけでいいんや』
『この引きこもり、世の中をナメくさった顔をしとるわ。これは犯罪を犯す顔ですわ』
『今すぐ画面閉じてワイのお姫様の寿限無を見直すわ』
「うわ、ショウちゃんなにこれ。画面の左から右に文字が流れてく……ちょっとどう言うことよ。わたしの可愛い息子のショウちゃんになんてこと言ってくれるのよ」
『悲報・ワイのあこがれのマドンナはすでに子持ち』
『↑いや待て、旦那がすでに死んでて子持ちの未亡人だとしたら……』
『↑主人が居なくなって寂しいの。でも、隣の部屋では息子が寝てるから静かにしようね」ってことやん。最高や』
『ショウちゃんとやら。今日からワイがショウちゃんのパパやで』
「母さん、これはこの動画を見ている人が画面の前でコメントを入力するとそのコメントがそのまま画面に表示されるっていうシステムなんだよ。画面の前の皆さん。母さんは二十年前からタイムスリップしてきたから、現在のネットのことがよくわかってないんです、ごめんなさい」
『二十年前からタイムスリップ? そんな漫画みたいなことが……でも、ワシはもうしわくちゃのおじいちゃんなのに、画面の中のワシのアイドルはまだ若々しい……』
『↑二十年前からタイムスリップしてきた見た目通りの実年齢なのか、ワシと同じ六十間近なのにこのロリババアっぷりなのかはどっちでもええんや。今こうしてライブ配信しとるってことが重要なんや』
『どうせ配信者(笑)によくあるなんちゃってキャラ作りやろ。母親と息子ってのもネタで、本当は仲の良いカップルだったりするんや。くそ、憎たらしい』
『↑配信後にはお母さんに甘える息子プレイとかするんやろなあ』
「やだわ、仲の良いカップルだなんて……そう見えるのかな、ショウちゃん?」
『なにがショウちゃんや。ワシはカップルののろけを聞きにきたんやないで』
『はよ寿限無の解説しろや。落語は二人でするもんちゃうで』
『↑あんまり前置きが長いと、ワイのたんこぶが引っ込んじまうで』
『↑寿限無ちゃんやんけ!』
「母さん、そう言うことだから、早く寿限無の解説始めてよ」
『そういうことやで、ショウちゃん。お前は進行役するつもりらしいが、だったらそれらしくしい』
『↑うーん、この上から目線』
『↑引きこもりを上から見るのは当然』
『↑下には下がいることを認識すると安心するからな』
「ショウちゃんがそう言うのなら……えっと、寿限無ってのは赤ん坊に長ったらしい名前をつけたことが原因で起こる笑い話なのね。寿限無を最初から最後まで聞いたことがないって人でも、話の筋くらいは知ってるんじゃないかしら」
『ワイは知っとるで、だから褒めてや、ワイの高校時代のマドンナちゃん』
『↑そのマドンナに、高校時代に直接寿限無を教えてもらった俺は勝ち組』
『↑なにそれ、超うらやましい』
『↑しかし、そのマドンナと直接話しているショウちゃんがワイらの目の前にいるんだが……』
「そうだね、母さん。俺もだいたいの話の流れは知ってたよ。でも、詳しくは知らないんだ。だから教えてくれるかな」
『えーなー。ワイも母さんショウちゃんと呼び合いてーな』
『↑配信してないところではあなたお前って呼び合ってるかもしれへんのやで』
『↑やめて差し上げろwww』
『↑アイドルのプライベートは秘密のままが一番やな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます