第10話同い年の母親とコンビ結成してみた
「ただいま。ショウちゃんが言った通りにしてきたよ。なんだか店員さんは長期割引とか途中解約不可とか言ってたけど……よくわかんないから言われるがままにしてきちゃった。それにしてもこの街もずいぶん変わったねえ。ショウちゃんが小学生の頃にこっそりえっちな本買いにいってた小さな本屋さんは潰れちゃってたし。ショウちゃんが中学生の頃に借りれもしないのにえっちなビデオのコーナーにこそこそしのびこんでたレンタルビデオのお店は漫画喫茶になってたし」
俺が小学生や中学生の頃に母さんに秘密にしていたと思ってたことは何もかも筒抜けだったみたいだ。いくらなんでも、今の母さんが、今の俺の求める女性そのものってことには気づいていないよな……それよりも。
「おかえり、母さん。ちょっと見せて……うわ、タブレットもスマホも母さんに買わせたんだ。両方の店とも。どうせ店員は詐欺に使われようとも、母さんが詐欺に騙されている真っ最中だろうと売り上げノルマが達成できればそれでいいんだろうな。まあいいか。アップした後の同人誌やプロレス雑誌にはフリマアプリで高値がついたし、ピピンも一台残してあとはマニアに売りつけちゃおう」
「それで、これから母さんはどうすればいいの、ショウちゃん」
「それより母さんこれ見てよ」
「えっと、なになに『一九九九年からのタイムトラベラーが昔のお宝を公開してみた』……ショウちゃんこれはまずいんじゃない。母さんが二十年前からタイムスリップしてきたことをおおやけにしちゃって。これって全世界に公開されているんでしょう」
母さんは、まるで自分のいけない写真が流出したような気になっているみたいだ。これはこれでリベンジポルノをしているみたいでゾクゾクするが、今回はそういうわけではないのだ。
「平気だって、母さん。今の時代、こういうなりきりなんて当たり前なのさ。自分がアニメのキャラクターって設定で演技している人間がたくさんいて、みてる人もそれを承知で楽しんでるんだ。このくらい、親の遺品を漁ってたら古いお宝が出てきたんでタイムトラベラーになりきってるんだなくらいにしか思われないってば」
「ショウちゃんがそう言うのなら……わ、すごい。視聴者数が何千も。ああ、また増えた。こんな短時間で何千人もがショウちゃんを見たってことなの?」
「俺が見られたってわけじゃないよ。動画にしたのは同人誌や雑誌のページとか、ゲーム画面だけだからね」
「え、それって、ただの本やゲーム画面が映ってるだけの番組を見る人がいるってこと?」
「そうだよ、母さん。ちょっと漫画家やプロレスラーの掲示板やSNSで宣伝すればこのくらいすぐさ。なにせ母さんが二十年前から持ち込んだものがものだからね」
「ふうん、いろんな趣味の人間がいるんだね」
「そうなんだよ、母さん。さっきも言ったけれど、いまや万人に受けるものを目指す必要はないんだ。ニッチなファンのコアな支持を得られればそれでいいんだよ。母さん、一九九九年ごろになって、テレビがなんだかつまらなくなってきたなって感じたことない?」
「それは……母さんは落語家さんとか芸人さんの話を聞きたいのに、途中でなんだかよく知らない人の笑い顔が挟まれてなんだかつまらなくなってきちゃったりしたことがあったな。それに、いちいち人が話しているのと同じ内容を字幕でも流されてなんだかありがた迷惑に思ったりもしたかな」
俺の思った通りだ。京大生だった母さんにしてみれば、普通の、いや、それよりもちょっと下くらいのレベルの人間にあわせたバラエティーなんてくだらなく思うのも当然だろう。そこに母さん好みのモノを用意してやれば……母さんどんな顔をしちゃうんだろうか。
「まあ、大多数の人間がそういうものを求めたからそうなったんだけど。でも母さんみたいなことを思う人間もいてね、そんなごく少数の人間のために番組を提供したい人間もいて、それが実現できる世の中になったんだよ。一人ででも。この部屋からでも」
「そうなの、すごいんだね、ショウちゃん」
「それで、母さんがさっきやった寿限無みたいな落語をやる。その後に母さんと俺が一九九九年の母さんが今の俺に説明するって形で動画配信したいんだ」
「で、でも母さんが二十年前から来たってことがばれちゃったら」
「さっきも言ったじゃないか母さん。そんなのキャラクターでやってるとしか思われないって。同年代のカップルが、彼女サイドを二十年前からタイムスリップしたっていうキャラクターに仕立て上げてお芝居やってるんだなとしか思われないってば」
「やだ、ショウちゃん。母さんとショウちゃんが同年代のカップルだなんて」
だから、俺のどストライクな顔とスタイルでそんな恥ずかしそうな顔をしてしなを作らないでもらいたい。よからぬ動画配信をしようという気になっちゃうじゃないか。
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