第2話母親とのプロレスごっこ
「と、とにかく母さん。俺の部屋から出ていってくれよ。じゃなかったら、俺にも考えがあるからな」
「へえ、面白いじゃない、ショウちゃん。その考えとやらを聞かせてもらいましょうか」
「当然、力づくだよ。母さんが俺の言うことを聞かないって言うんだったら、無理やりにでもこの部屋から出ていってもらうからな」
「いいでしょう、ショウちゃん。だったらかかってきなさい」
「ほ、ほんとうにいいんだな、母さん。言っとくけど手加減しないよ」
「何を言ってるのよ、ショウちゃん。子供の頃に『一人じゃ怖くて寝られない』って、泣きながら母さんの布団に入り込んできたくせに。それも毎晩。中学生になって母さんに『もうショウちゃんは中学生なんだから一人で寝られないとだめよ』と説得されて一人で寝るようになったみたいだけれど」
母さんと俺しか知らないはずのその秘密を知っているとは……やはりこの自分が俺の母親と主張する、色気があふれる俺好みの熟女は俺の実の母親らしい。それにしても、小学六年生の時に二人で同じ布団で寝た時の母さんはあったかかった。母親の子宮で育つ赤ん坊の気持ちだった。そんなことはとにかく……
「うるさいだまれ、母さん。子供の時ならいざ知らず、いい年した大人の男に力ずくで母さんがかなうものか。じゃあ、いくよ」
ドターン! バターン! ミシミシ!
「か、母さん。痛い! 痛いってば! 関節が曲がってはいけない方向に曲がってるから! お願い! 離して、離してください、母さん!」
「ふん! 女子プロ直撃世代をなめるんじゃないわよ、ショウちゃん。いい、約束する? 母さんを部屋から追い出したりしないって」
「する! しますから! 勘弁してください、お願いします」
「わかればいいのよ、ショウちゃん。よっと」
うう、母さんにこっぴどくやられてしまった。でも、母さんのおっぱいやお尻の感触は悪くなかったな。俺が十七歳だった頃は、三十七歳の母さんの体なんてババアくさくて嫌悪感しか感じなかったけれど……二十年たった今になってこうしてその体を身をもって味わうと、成熟しきった果実の魅力がなんともいえないと言うか……
「どうかした、ショウちゃん。ひょっとして、母さんやりすぎちゃった? だいじょうぶ、痛いところない」
「う、ううん、ぜんぜん平気だから。それよりも……母さんって、本当に二十年前の母さんなの」
「そうよ、ショウちゃん。二十年後の母さん……ショウちゃんにすれば今現在のお母さんかな。が、タイムスリップして一九九九年……ショウちゃんが部屋に引きこもり始めた年ね。の母さんのところに来てお願いしてきたのよ」
「お願いって、母さん」
「それはね、『もうわたしはいい年だからショウちゃんの面倒はみきれそうにない。でも、まだ三十七歳のあなただったらなんとかなるから』ってお願いされたの。そんなこと言われたら、断るわけにはいかないじゃない。で、オーケーしてこの時代にタイムスリップしてきたってわけよ」
「三十七歳の母さんだったらなんとかなるの?」
「それなんだけどね、五十七歳のお母さんに一九九九年からいろいろ持ってくるよう頼まれたのよ。ちょっと待っててね。今ショウちゃんの部屋の前から取ってくるから」
ゴソゴソ
「お待たせ、ショウちゃん。母さんなんのことかよくわからずに、五十七歳のお母さんに言われた通りのものを持ってきたけど……ショウちゃんなんのことかわかる?」
「これは……」
リンゴ社がジョブズを呼び戻す前に倒産寸前になって迷走していた頃に売り出したゲームハードのピピン! ソフトもこんなにたくさん! それに二千十九年現在の売れっ子漫画家が昔書いていた同人誌! さらには人気が絶不調だったあのころのプロレス雑誌には、今の人気レスラーのデビュー記事が載っている! これがあれば……
「すごいよ、母さん。これ、今ではプレミアがついて、高値で売れるんだよ。これだけあれば、ひと財産を築けるよ。さっそくオークションアプリでと……これであと十年は引きこもれるぞ」
「それはだめよ、ショウちゃん」
「だめって……何がだめなんだよ、母さん。プレミア骨とう品を現金化せずにどうするんだよ。こういうのは、好きな人は好きだろうけど、俺としてはそんなに……」
「ショウちゃんが母さんの持ってきたお宝グッズをお金にするのはいいけれども、それをそのまま使っちゃうのはだめってこと。ショウちゃんがそんなあぶく銭を手にしても、どうせ、エッチなことに使っちゃうだけでしょう。そんなことはお母さんが許しません」
「でも……」
「なにか文句があるの、ショウちゃん」
サッ
「ないです。ありませんから、背後に回って首を絞めようとするのは辞めてください、母さん」
「わかればいいのよ、ショウちゃん」
「だけど、使うのがダメならどうすればいいのさ、母さん。ただ増えた貯金通帳の残高を見てニヤニヤしてろって言うの」
「使うのがだめとは言ってませんよ、ショウちゃん。使い道が問題だと言っているの。ショウちゃんには、このお金で自分一人での生き方を身につけてもらいます」
「アフリカ人に食料をプレゼントするのではなく、食料の調達方法を身につけさせる的なこと?」
「そうよ、ショウちゃん。さすがじゃない。飲み込みが早いわ。さすが母さんの息子ね。それにしても、アフリカ人かあ。いい例えをするようになったじゃない。二十年もたって成長したみたいね」
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