第2話第三者視点

 コックス辺境伯家当主のオーウェンは、忸怩たる思いをかみしめていた。

 王家の支援要請を断らなければいけなかった事。

 王家がコックス辺境伯家の苦境を理解していない事。

 両方がオーウェンの心を重くしていた。


 コックス辺境伯家は、代々大魔境の魔獣から人界を護って来た。

 それだけに、魔獣の習性に熟知していた。

 今回の魔獣暴走が前兆でしかなく、次に大暴走が始まる事が明白だった。

 大暴走が始まるまでのわずかな期間に、今回の損害を補充しなければならない。

 王家に支援するどころか、コックス辺境伯家が支援を欲していたのだ。


 王家が支援を要請する気持ちも、オーウェンにも分からないわけではない。

 なんと言ってもミスリル・オリハルコン・ヒヒイロカネといった、想像もしていなかった、高価で有用な鉱山が発見されたのだ。

 だが発見されただけだ。

 全く開発されていないのだ。


 これが魔獣大暴走の前でなければ、直ぐに三鉱山を開発する事ができた。

 魔獣暴走で手に入れた素材と肉を、王家の支援に回す事もできた。

 だが今は無理なのだ。

 魔獣の素材は、大暴走に備えて直ぐに武器や防具に加工しなければならない。

 肉も携帯食糧に加工しなければならない。


 王家を支援する余裕など全くなかったのだ。

 その事は国王陛下に使者を送り、丁寧に説明した。

 王太子殿下をはじめとする、王族にも説明した。

 だが帰って来た使者の話では、残念ながら理解してもらえなかった。

 情けない話だった。


 多くの貴族にも、理解を求める使者を送ったが、はかばかしい反応はなかった。

 オーウェンは反省していた。

 もっと王国が安定していた時に、王家や貴族家に支援を仰ぎ、共に肩を並べて戦っておくべきだったと。


 だがそれはオーウェンの責任ではなかった。

 先代や先々代がやっておくべき事だった。

 だがそれを怠って来た。

 魔獣と戦って得られる素材を独占し、戦力の増強を主眼に統治を行っていた。


 それが間違っているわけではない。

 そのお陰で、多くの戦力を整え、最初の魔獣暴走を抑え込む事ができたのだ。

 だが大魔境は広大なのだ。

 一時的に王家や貴族に魔獣狩りの権利を与えても、なんの問題もなかったのだ。

 全ては後の祭りだった。


 そんな想いを抱えている時に、王太子殿下とキャロラインの結婚を行うので、王都に上るように使者が来た。

 オーウェンは絶望を感じた。

 この後どうなるかなど、容易に想像がついた。


 自分や長男ワイアットは、魔獣暴走対策と言って王都行きを断る事が可能だ。

 それだけの権限は有している。

 だがキャロラインだけは行かさない訳にはいかなかった。

 キャロラインを王都に行かせたくはなかったが、それでは申し開きもできずに反逆者にされてしまう。


 そこで一手打つ事にした。

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