35 ……I need you(……I love you)

 ……I need you(……I love you)


「絶対に前を見ないでよ。ハル」

 狭い通気口を四つん這いの姿勢になって進みながらソラが言った。

「なんどもいうなよ。顔をあげたりしないよ」ハルは言う。

「どうだか。師匠もそう言って、何度か顔をあげていたみたいだし、……男の人って、そういうところ、あんまり信用できないんだよね」

 ソラはしゃべりながらもすいすいと通気口を進んでいくが、ハルは実際のところ、顔を上げるどころの騒ぎではなかった。ハルはなんとかソラのペースについて移動するだけで、いっぱいいっぱいだった。

「まあ、道順は私しか知らないわけだから、しょうがないことなんだけどね」ソラは言う。

「顔をあげたとしても、真っ暗でなにも見えないよ。それにソラはスカートの下にちゃんとスパッツを履いているじゃないか?」ハルは言う。

「そういう問題じゃないの。信頼関係の問題なの」

 敵対している情報士と機械技師の間に信頼関係なんてあるわけないじゃないか、とハルは思った。

 二人は通気口をしばらくの間、進んだ。

「あ、ついたよ。ここで一休みしよう」

 そう言って、ソラが消えた。

 一瞬ハルは焦ったが、どうやら通気口の先には大きな空間が広がっているようだった。

 ハルがその空間なの中に移動すると、ソラが天井のあたりを操作して、空間にオレンジ色の明かりを灯した。

 そこには確かにオレンジの光を灯すランプがあった。

「そのランプは?」

「これ? 私たちが『用意』したの。便利でしょ?」ソラは言う。

「この空間は?」

「私たちで『掘った』のよ。便利でしょ?」ソラは言う。

 ハルは思わず大きなため息をついた。

 それは確かに『機械技師たちのいつものやりかた』だった。

 ソラは間違いなく、機械技師の思想に染まっている、壁の向こう側の世界に所属している機械技師の一人なのだと、改めて、ハルは思った。

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