30

 ソラはその場でくるりと回転すると、そのままの勢いで右足を空中に蹴り出して、思いっきりコンピューター室の中央にある古い小型の四角いコンピューターの箱に向かって、後ろ回し蹴りを繰り出した。

 ソラの(しゅっと言う)短い呼吸音と一緒に、とても激しい衝撃音がして、コンピューターの箱がハルの見てる目の前で吹き飛んで、そのまま真横に一直線に飛びながら、円柱の形をした部屋の壁にぶつかって粉々に砕け散った。

「お見事」とハルは言った。

 蹴り足を戻して、呼吸と姿勢を整えたソラは息を吐いたあとで、ハルを見て「どんなもんよ」とでも言いたげな表情でにっこりと微笑んだ。

 コンピューターの画面の中には、ソラに蹴り飛ばされて破壊されるその直前まで、ずっと、機械仕掛けの神ゼウスエクスマキナの文字が表示されたままだった。

 しかし、機械仕掛けの神様はソラに蹴り飛ばされて、壁にぶつかって粉々に砕けて破壊されてしまった。

 ハルの見ている前で、……『神様は死んだ』。

 フユがいなくなり、箱の中にいた心を持つ人工知能コスモスがいなくなり、機械仕掛けの神様がいなくなって、代わりにハルの元にはソラだけが残った。

 世界の終わり。ワールドエンドを作動させたのは、……僕だ。

 その決断に迷いはなかった。

 なら、その結果、ソラが僕の元に残ったのなら今はそれでいいとハルは思った。

 もちろんハルは消えてしまったフユのことが心配だった。でもフユと同時にコスモスも消えた。なんの確証もなかったのだけど、ハルにはなぜかきっとフユとコスモスは今もどこかで一緒にいるのだと、そんな気がしてならなかった。(それが二人にとっての新世界なのだと思った)

 ならフユは大丈夫だ。

 フユのことは、きっとコスモスがなんとかしてくれるだろうとハルは考えていた。(だから僕は、まずは僕たちが生き残ることを必死で考えなくてはいけないのだ)

「用件はこれで終わり? なら、早く先に進もうよ」とソラが言った。

「ああ。わかった」

 とハルは答えた。

 そしてハルとソラは、ソラの侵入してきた(天井に開いた四角い穴である)通気口の中を通って、壁の内側にあるコンピューター室をあとにした。

 誰もいなくなった部屋の中には、ソラによって破壊された、……心を失った、一台のコンピューターの残骸だけが残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る