幕間 面倒な思考
(……面倒)
貴族間で普及が進む自動走行車両の排煙を横目に上の階層から侵入。エルミカたちは、屋敷の隅でメイドたちの動きを伺っていた。
エルミカにとって、今回のような依頼は慣れたものであり、そして大した成果が出るものでもないことを知っている。
当然それは今までの話であり、今回も同様の結果になるというわけではない。ましてや今回はノエルが加入し、直接干渉するという。であれば得られる情報は増えるだろう。
しかし、エルミカはノエルを信用してはいない。当然だ。むしろあのような形で私たちの前に現れ、迷い子であったくせに王族であると宣う彼女をなぜ信用しようとするのかわからない。
王族であるということが彼女が迷い子の馬車内で異様に落ち着いていた理由にはならいとは思うが、彼女にそれなりの度胸と思考力があるのは理解している。
故に、エルミカは彼女を警戒する。何よりエーミノク王国は謎が多く、その文明ですらもわからないほどにその内情は秘匿されているのである。
(……大戦のときも言われたわね。エーミノクにはあまり近づくな。エーミノクの国の者だと見た場合は手を出すな、と)
それほどまでに『知らない』というのは人間に警戒心を抱かせるのだろう。
細かく思考するのは面倒だ、といつも思う。けど、エリサが天真爛漫にふるまうというのならば、思考するのはエルミカの役目だ。ただ殺すだけの兵器であったならどれほど気楽なのだろうか……。
『エルミカ、そろそろ動けそうだよ!』
脳内にエリサの声が響く。
エリサの声に思考を遮断され、再開する気も失せる。
とりあえず今はこの依頼を片付ける。信用はしていないが、ノエルを放っておいてもそれはそれで面倒なことにはなりそうだ。『知らない』が警戒となりえるのならば、それはきっと、エリサが知ることで解消、もしくは殺すことによる抹消ができるだろう。
『もうパーティが始まったのね。であれば、私たちも動きましょう』
貴族たちはともかく、メイドたちであれば欺くのはいくらでもできる。であれば私たちはノエルからの連絡を待ちながら外堀を埋めていくとしよう。
エルミカはすぐ近くにいたエリサと合流し、行動を開始するのだった。
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