5 バベルの塔

 バベルの塔


 少しして電車内に眩しい太陽の光が差し込んでくる。どうやらトンネルを抜け中央区にはいったようだ。巨大な灰色の塔を中心として天高くそびえる幾つもの高層建築が窓の外に見える。その灰色の塔は別名管理者の塔と呼ばれている管理者たちの暮らす街の中心に位置する街で一番高い建物だった。その塔を見るとアリスはいつも嫌な気分になった。いつ見てもいい気分はしない。でも心を揺り動かす衝動のようなものがあることも事実だった。それは畏怖なのかもしれないし、これだけの建造物を実際に作り出した技術に対する純粋な感動なのかもしれない。


「まるでバベルの塔みたいだよね」とアリスは言った。

「不吉なこと言うなよ。あの塔が崩れたらこの街はおしまいなんだぜ」


「わかってるわよ。ちょっとそう思っただけ。別に深い意味なんてないよ」と言ってアリスはレインににっこりと笑いかけた。


 オレンジ色の電車はゆっくりと中央駅で停車する。ここまで来るとどうしても緊張してしまう。どうしよう? とりあえず気持ちを落ち着かせないと……。えっと、こういう時はやっぱり深呼吸かな、深呼吸。


 ふー、ふー、とアリスは一人で深呼吸を二回した。


「お前なにやってんの?」


「別に私がなにしようとレインには関係ないでしょ?」


「うん。まあ、そうだけどさ」


 レインは全然緊張している様子がない。本当にいつも通りだ。勉強している印象もあまり受けない。これだから天才は嫌いだ。人の流す汗と涙をなんだと思っているのか。きっとそんなものに価値なんてまったくないと思っているのだろう。


「このまますぐに会場までいくのか?」

「当たり前よ。ただでさえ予定より遅れてるんだから」


「ふーん」

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