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電車が動き出してからずっとレインはドアのガラス越しに外を眺めている。しかし本当に外の景色を見ている訳ではないだろう。レインの意識はどこか遠いところに旅立っているのだ。少なくともアリスには理解できないくらい遠いところに。今の私じゃレインと同じ風景を見ることはできない。でもいつか必ず追いついてやる。いや、追い越してみせる。レインの横顔を横目でじっと見つめながらアリスはそんなことを考える。
アリスは街に住む者の義務である年に一度の定期試験でレインに勝ったことが今まで一度もなかった。悔しいがレインは頭だけはいい(馬鹿だけど)。事実なのでそれは認めよう。でも今日は負けない。それだけの準備をきちんとしてきた。やれるだけのことは全部やった。所詮は点数だが評価は評価だ。能力で追いつけなくても数字上で追い越してやる。才能で勝てなくても努力で勝利してやるんだ。
アリスは隣に立っているレインの顔をさっきからちらちらと盗み見ている。
レインは背が高く、アリスも女子としては背は高いほうなのだけど、並んで立つと少し上を見上げるような感じになる。それも少しむかつく。ぶかぶかの黒いズボンに黒のスニーカー。深緑色のゆったりとした上着に、寝起きで羽織っただけだと思われるよれよれの白色の無地のシャツを着ている。まあ、そこそこかっこいい。
しばらくすると視線に気がついたのかレインが不意にアリスに視線を向けた。
「なによ」とほほを膨らませてアリスが言う。
レインはじーっとこちらを見つめている。なんだろう? 理由はわからないがそんなにじっと見られるならもっと気合のはいった格好をしてくればよかった。アリスの服装は上下ともそっけない黒の上着と黒のロングスカートだった。
「アリス、お前さ」なに、なんなの? アリスはちょっとだけどきどきしていた。
「結構、胸おっきいよな」言った瞬間に思いっきり腹にパンチを入れてやった。声にならないうめき声とともにレインは体を丸くする。本当は顔を殴りたかったが電車の中なので我慢した。我ながら偉いと思う。
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