第49話 71組の秘密②
「時間遡行魔術·····なんかすげーヤバそうだな!よくわかんねーけど!」
そんな能力を持っていれば、もちろんその力を欲している人や組織など数えきれないくらいいるだろう。
加えてこのド天然と可愛らしいルックス、世界一の人材と言っても過言ではない。
そのせいで自由はなく、誰かに利用される運命だというのか。
なんという悲しい運命なのだろう。
私だったらその運命を呪うだろう。
鎖に囚われる事に耐えきれず逃げ出すに違いない。
誰だって自由を夢見る、ミサちゃんもきっと逃げ出したいんじゃないだろうか。
せめて最高の思い出をとまほろちゃんは言っていたけど、本当にそれだけでいいのだろうか。
私がその手をとってここから連れ出してしまうべきじゃないのか。
「ミサちゃんはその力があるから、卒業したらどこか行っちゃうんだよね?」
その部分に触れてはいけないと私は考えていたので、まさかこんな軽く茂明君が触れてきてしまうとは思ってなかった。
ミサちゃんはやっぱり少し寂しげに苦笑しながら小さく首を縦に振る。
「えへへ、そうなると思うよ~」
少し苦しそうな彼女を見ていられず私は眉を顰めて俯いた。
どんな顔をすればいいかわからない、それはまほろちゃんも一緒のようで顔を背けてしまっていた。
「別に上隠に限った事じゃない」
その僅かな気まずい空気を一言で壊してしまったのは神君。
「先輩、それはどういう意味だ?」
目を細めてその真意を問い詰めたのは来栖君だ。
神君は食事の手を止めて、私達の顔を1周ぐるりと見渡した後、 ゆっくりと語り始める。
「あくまでこれは俺の仮説だが·····」
そう前置きをしたという事は明確に答えが出ている話ではないという事。
しかし私は知っている。
いや、この場にいる誰もが知っているだろう。
神君の話は仮説であっても、その信憑性は高いだろうということは。
誰よりも先読みが得意なその頭脳が導き出した仮説ならば、仮説であっても説得力のあるものとなる事を。
だからこの場にいる皆はまるでこれから語られる事が真実であるかのように固唾を飲む。
無駄話をしようなどと思う人間はおらず、彼の言葉を真剣に聞く体勢は一瞬で整えられてしまった。
「71組というこの特殊なクラスは、やはりそういうクラスなんだと俺は思っている」
「そういうクラスって?」
「言わば監視対象になっている人間が集められたクラスという事だ」
監視対象という言葉で思い出したのはアイリスの事。
私は全く知らないのにも関わらずアイリスは私の事を知っていた、私の情報を持っていた。
それは多分私だけではなく、この場にいる全員の情報をアイリスは知っているのだろう。
アイリスの事を疑う訳では無いがそれと同じような情報を誰かが持っていてもおかしくはない。
「一般的な
得意気にドヤ顔を見せる涼平君だが、それに気付いているのはおそらく私だけだ。
「となると、71組にこれだけ集まっている事は普通に考えれば不自然だ。自然に集まったという訳ではなく、意図的に集められたというのはまぁ間違いないだろう。これはもう明白で、議論の余地もない」
それはここにいるみんなが納得で異論を挟む人ももちろんいる訳がない。
「まぁこれに関していえばいずれ誰だって気付くだろうから、おっさん達も無理に隠してる事でもないだろうが。ここで疑問が生じる」
今まで深く考えてはいなかったが、そこまで言われればその疑問に誰しもたどり着くだろう。
「何故一つのクラスに集める必要があったのか、という疑問だ」
特殊能力を得たとしてもそれをわざわざ一つに集める必要は本来はないのではないか。
例えば涼平君の特殊能力の超嗅覚、それ自体が何か問題を起こす可能性はかなり低いだろう。
まほろちゃんや来栖君、茂明君に関しても同じ事が言える。
殺傷能力がある訳でもないし、その能力が人を傷付けるとはとても思えない。
「わざわざ他のZクラスから離れた場所に校舎を造ってまで一種の隔離状態にしている理由があるとすれば、このクラスの人間に他の
「別の価値·····?」
「俺達が商品だとして、一般的な魔術士の価値は大体その魔力量で決まる。だがこのメンバーにはそれ以外の部分で大きな価値を持っている。それは日常生活の上では大して役に立たない能力かもしれないが、誰かの考え方としては利用出来る価値のある能力なのかもしれない」
「お、おいおい、商品って·····。俺達はそんな風に見られてるのかよ!」
「あくまで仮説だ。だがありえない話じゃない。例えば戦場、まほろの能力は敵の魔術士の場所を正確に割り出せる」
「·····確かに·····」
「茂明の能力なら微かな音で敵や危機を察知出来る」
「·····そうっすね」
「颯馬の能力なら夜の闇の中でも相手を熱探知する事が可能だ」
「·····」
「そんな能力を持っている人間を政府が、国が、世界が放っておくとは俺には思えない。実際、上隠の魔術には間違いなく世界中が食いついている」
神君が話せば話す程、その信憑性が上がっていく気がしてならない。
その仮説が正しいと、それは間違っていないと立証されていくような、バラバラのパズルがあっという間に組み上がっていくような、そんな話の展開だった。
「そんな価値ある商品を雑に扱う訳がないし、適当に野放しにしておくのも危険だ。だとするのなら当然監視下に置かれる」
「待て待て!監視って、じゃあ誰に監視されてるんだ?」
「さぁ、それはわからない。日本の政府のお偉いさん辺りじゃないのか?最低でもこの八目島の魔法関連について繋がっている、そしてそれを指示出来る権力を持った者だろうな」
「マジかよ·····」
仮説、憶測の話ではあるが限りなく現実に近い、現実そのものと言っていい程の説得力。
「監視されてるって事は、いずれは俺達は何かに利用される宿命だろう。自由がないっていうのは上隠だけではなく、ここにいる俺達全員が同じような運命にある。それが俺の行き着いた仮説だ」
つい先日の女子会の時はあくまで他人事で、ミサちゃんの事は可哀想だ、なんとかしてあげたいと思っていた。
だけどここで突き付けられる現実、それは私達全員にもはや自由はないという事。
他人事ではない、自分の未来もこの71組に入った時点でなくなってしまっていたのか。
「何度も言うが仮説だぞ?証拠はないし、おっさんから何か聞いた訳でもない」
「でも納得出来る仮説ね。確かに私達に利用出来る価値はあるのかもしれない」
「え、で、でも僕はわかるっすけど、五十鑑先輩と那月先輩はどうなるっすか!?」
「篠舞に関しては今のところよくわからないが、以前言ったように気付かぬ間に何か特殊能力に目覚めているかもしれない。それか魔力暴走が関係している可能性もある」
そこまで言われてようやく気付く。
私には思い当たる節がある。
私の魔力暴走の時、他の人とは違う体験をしているからだ。
「あの子が·····」
「なっち?もしかして何か心当たりあるの?」
「あ、うん·····もしかしたらって思うところはあるかな·····。でも神君は·····」
何を言ってるのだ。
神君が普通じゃないなんて事はとっくにわかってる事じゃないか。
まともに神君の魔術を見た事はないが、生徒会長事件の時に見せたあの強力な防御結界は普通の人には到底真似出来ない。
あの600を越える魔力を持つ生徒会長の魔術を軽々と耐えきって見せた神君が普通の訳はない。
「俺は元々ここで育ってるからな。おっさんとは長い付き合いだ」
それは恐らく関係ないだろう。
神君には幼い頃の記憶が無い、そこに何か特別な事が隠されていると見て間違いないのではないか。
「辛気臭い話になったな。すまない。それは今考えてもどうしようもない話だから、今は鍋を楽しむ方がいい」
「·····そうだな!いちいち考えてても仕方ねーか!鍋が冷めちまうな!」
「そうね、この話はまた今度しましょう」
「肉肉肉~!肉はミサがいただいちゃいますよ~!」
再び鍋をつつき始めたみんなだけど、多分心の中は今の話で占められてしまっているはずだ。
私自身がそうであるように。
確かに考えてもどうしようもない話ではあるが、運命が決まってしまっているのだと思った途端、全てが窮屈なものに感じてしまっている。
どうなるのだろう。
私達の未来は。
どこへ向かっていくのだろう。
全く先の見えない濃霧の中、それでも私達は進んで行くしかないのか。
どこへたどり着くかもわからぬまま。
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