第23話 公安特区特務魔術課
―――八目島メガフロートは基本的に平和な島である。
観光地として一定の人気を誇り、治安も維持され、安全というイメージは定着しつつある。
魔力暴走や、魔術による犯罪自体が稀で、大きな混乱や凶悪犯罪は皆無と言っていい。
それはこの島での教育が徹底されているという点に加え、治安維持に割かれる警察が多く駐在しているという点も強い。
そしてこの島に駐在している警察官は皆、特別な部署に所属している。
『公安特区特務魔術課』
八目島のみを専門とした部署であり、その公安警察のほとんどが魔術士となっている。
というのも、魔術犯罪に対抗する為には魔術の力が必要だからだ。
故に八目総合学園からの卒業生がこの島に配属される比率はかなり高い。
「先輩!一つ聞きたい事があります!」
そして八目島の中にいくつも点在している交番の一つで、興奮気味に先輩警官に詰め寄った女性警察官もこの島の卒業生であった。
「おう、どうした?そんなでっかい声出して」
警察の服に身を包んだその姿が半ばコスプレのように見えてしまうのは、彼女がまだ若すぎるからなのだろう。
「皆なんで結婚出来るんですか!?この仕事やってたら絶対無理じゃないですか!?」
最初は聞く耳を持っていた先輩と呼ばれた男性の警察官は、その質問を聞いて興味を失ったようで持っている資料へと目を落とす。
「ちょっと聞いてるんですか!?私は本気で聞いてるんですよ!?」
「あー、なんだその、気合いだ気合い」
「気合いは誰にも負けてないと思ってるんですけど!」
「じゃあ片乳出して誘惑してみればいいんじゃないか?」
「そんなの痴女じゃないですか!ってか警察がそんな事したら大問題です!」
朝から騒がしい交番のその光景は、普段から変わらずといったところ。
公安特区特務魔術課所属、
元気だけは誰にも負けないという言葉通り、毎日朝から騒がしいムードメーカーである。
「じゃあ街コンにでも参加してみればいいだろう?お前なら人気出そうじゃん」
「実はつい先日、街コンというものに参加してみたんですが·····」
適当に会話をしていた珠奈の先輩警官、
「行ったのか!?マジで!?」
「はい·····まぁ、ちょっと興味あったので·····」
「それで?どうなった?」
「私が職業を明かすと警戒されてまともに取り合ってくれなくなって·····。やっぱりダメだぁ~!転職しかないのか~!」
「ま、そりゃ警官だって言ったらみんな距離をとるだろうなぁ。俺が逆の立場だったとしても、取り締まりをしている潜入捜査官かもとか思うし」
追い打ちをかけられてショックを受けた珠奈は机に突っ伏して落ち込んだ様子を体で表現して見せる。
「だけどまだお前22なんだから焦んなって。いくらでもチャンスはある、と思う。少なくとも俺は結婚出来たし」
龍馬は現在30歳で妻子を持つ父親。
彼もまた八目総合学園Zクラスの卒業生であり、かつてはZクラスの生徒会長を務めていた。
「先輩は男性だからそもそも違うんです!女性警察官は男性から見ると魅力的に映らないんですよ!あーやっぱり男女平等なんて嘘っぱちです!」
嘆いている珠奈を見て一笑した龍馬は、再び持っていた資料に目を通し始める。
一通りそれを読み終えた後、今度はその資料を珠奈の前へと置いた。
「その話はまた今度にしとけ。とりあえずこれを見てみろ」
「え~、なんですかこれ」
机に体を預けたまま、渡された資料を半ばいい加減に読み始める。
そこに書かれていたのは一人の生徒の資料で、それを見ても珠奈には龍馬の意図を汲む事は出来なかった。
「これ、現生徒会長の子ですよね。天知時雨なんてカッコイイ名前ですよねー!私もこういう名前が良かったなぁ!」
「名前じゃなくてだな、その子の経歴を見て俺はピーンときた訳だ」
「成績はこの二年トップを維持、遅刻欠席もなし、校内での立ち振る舞いも模範的。エリート中のエリートって感じですか、私の苦手な部類の子かもしれないですね」
「その子が生徒会長になってから校内、校外問わず問題が増えてるだろ?」
「あぁホントですね。この生徒会長がそれを収めた数が13件。まだ生徒会長になってから2ヶ月くらいしか経ってないのに」
「起きた問題全てが危険魔術の使用によるもの。生徒会長と副生徒会長がそれを全て制圧してる。ちなみに去年の危険魔術使用による検挙数は年間で13件だった。さすがにちょっと妙だと思うだろ?」
「つまり先輩はどう思ってるんですか?」
「ズバリ、この生徒会長が相手をけしかけて危険魔術を使用させてると俺は考えたわけだ」
「ふーん、それじゃあその動機は?」
「それはわからん」
「えー!?そこまで言っておいて!」
「Zクラスの生徒会には成果によりバイト代が出てるから、それを貰う為にやってるのかもな」
「大した額じゃないのにそんなリスキーな事しますかねー?私はなんだかあんまりピンときませんけど」
「じゃあもう一つ」
龍馬はようやく椅子から立ち上がり、小さな交番内をグルリと一周見渡した後、少しだけ声のトーンを落とす。
その行動だけであまり人に聞かれたくない話だというのは珠奈にも伝わり、突っ伏していた体を起こした。
「捕まった人達は魔術の攻撃を受けて大怪我を負っていた。命に関わる程ではないにしろ、入院する人もいたらしい。そしてどいつも起こした事件に関してあまり話したがらないそうだ」
「·····そうなってくると先輩の話もわかる気がしてきますね」
「だろ?生徒会長に何か弱みを握られているのかもしれない」
その話を聞いた珠奈は覚悟を決めた凛々しい顔をして立ち上がると、龍馬に向かってビシッという効果音がつきそうな程しっかりとした敬礼を見せる。
「公安特区特務魔術課所属、宇佐美珠奈、この件に関しての調査を開始します!なおこれより本件を『TR』と呼称します!」
「了解。感情に流されるな、近付きすぎるな、あくまで行うのは調査である事を忘れるな」
「はい!」
「で、なんでTR?」
恥ずかしそうに頭をかいた珠奈は、苦笑いして答える。
「
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