第22話 無人島の夜②

―――「覗いたら殺すわ。言い訳とか聞かずに殺す。原型とどめないくらいに殺す。わかったわね?」


「大丈夫だって!そもそも覗いても暗くて見えないし。なんだったら一緒に入っても嘘ですごめんなさい」


私達は見つけたのだ、エルサレム、アスガルド、いやサンクチュアリを。

月明かりが照らす森の中、少しだけ開けた空間、湧き上がるお湯。

それが明らかに人工的に削られた巨大な岩達の真ん中に溜まり、お風呂を形成している。

人工的に作られてるのは明白なので、私達がここに来るよりずっと前に出来てたものだろう。


しかし今はそんな事はどうでもいい。

温泉に入れるのだ。

それだけでもはや有頂天だった。


まほろちゃんが男性陣を退けた後、私達はすぐにその温泉を堪能する事になった。

周辺に明かりなどなく、あるのは空からの月明かりのみ。

確かに涼平君が言った通り、覗いても暗くてまともに見えそうもない。

こんな私にも羞恥心はあるので、覗かれる心配がほとんどないという事に安堵する。


「温泉なんて久しぶりですねぇ~。ミサ一番乗りでいいですかぁ?」


「いいよミサちゃん!行っちゃって!」


「ではでは~」


着ていたジャージをあっと言う間に脱ぎ捨てて、大自然の中で恥ずかしげもなく全裸になった美沙羅ちゃん。

その脱ぎっぷりに感服だ。

そして美沙羅ちゃんが私よりも年下なのに、私よりも大きなものを持っている事に愕然とする。


「えいっ!」


ゆっくりと足から入っていくのかと思いきや、お湯加減も見ずにそのまま飛び込んだ美沙羅ちゃんはある意味勇者と言えよう。

激しく飛沫が上がったが、当の美沙羅ちゃんはとても楽しそうである。


「ちょっと美沙羅!こっちにも飛んできたわよ!考えなさいよね!」


「へへへ~ごめんなさい~」


まほろちゃんは恥ずかしそうにしきりに周りを気にしながらも服を脱ぎ、腕で体を隠しながら顔を真っ赤に染める。


「お、落ち着かないわね·····」


近くの岩の上に服を置き、私もいよいよこの足をお湯にゆっくりとつける。

指先から足首、ふくらはぎ、太もも、そのお湯からの熱が一気に伝導していくのがわかった。

まほろちゃんも同じように温泉の中へと体を沈め、やがて三人とも肩まで浸かると少し熱めくらいのお湯が体を芯から温めてくれる。

疲れた体が癒されていく。


「あ~!生き返る~!」


「確かに、気持ちいいわねぇ~」


「えへへ、先輩達とお風呂~。初めてですねぇ~」


「そうだね、皆で仲良くお風呂に入るなんて小学校以来かも。八目学園には修学旅行もないし。みんなでお風呂入るなんて機会もないもんね」


「私達は島から出られないんだから当然ね。こんな状況じゃない限り、一緒にお風呂なんてなかったかもしれない」


「ミサは嬉しいですよ~。みんなで一緒にいられるの楽しいです~」


「私も楽しいよ!こんなに楽しいのは久しぶりだよ!」


「そうね、悪くないわね」


縁の岩の上に頭を乗せて、夜空に立ち上る湯煙とその向こうで輝く満月をぼんやりと眺める。

まるで違う世界に来たかのような幻想的な光景に酔いしれ、この非日常に今は感謝していた。

同じ寮に住んではいるが、それぞれ部屋は分かれているのであまり接する機会は多くない。

こんな風に一緒のお風呂に入るなんてまず日常ではありえない光景。

食事もそうだったが、この温泉も私にとってはとても贅沢な経験だ。


「ところで~まほろ先輩~!先輩ってリョウ君の事好きなんですかぁ?」


「ななななな何言ってんのよ!」


突然美沙羅ちゃんが今まで私が触れられなかった話題をぶっ込んできた。

過度に反応するまほろちゃんは顔を真っ赤に染めていてなんだか可愛い。


「えへ~。このミサの目にはそう見えるんですけど~。実際のところはどうなのかなぁ~と思いまして~」


「ば、バカじゃないの!?わ、私はあいつの事なんて·····」


「ほほ~素直になれない乙女って感じですねぇ~。まほろ先輩カワイイ~です~」


耳まで赤くしたまほろちゃんはいたたまれなくなったのか、すぐに話の転換を図る。


「そういう美沙羅はどうなのよ!?誰か好きな人でもいるのかしら?」


「いますよ~。ミサはみんな大好きです~。まほろ先輩も那月先輩も~、リョウ君もシン先輩もシゲちゃんもクルちゃんもみんな好きですよ~」


「そんな事は聞いてないわ美沙羅。恋愛の話よ。恋してるのかって聞いてるのよ」


「恋ですかぁ·····。う~ん、ミサはあんまりそういう事考えてないですね~」


美沙羅ちゃんの性格や喋り方を見てると、最初は計算しているのかと思ったがそうではなく、これが彼女のありのままの姿なのだ。

天然というものでは少々弱い、彼女は『強天然』と呼べる逸材である。


「那月はどうなのよ?好きな人いるの?」


「え?」


「那月先輩は彼氏いそうですね~。実はシン先輩と付き合ってたり~?」


「そういえば神と一緒に森の散策に行ってたし、なんか怪しいわね」


「ええっ?あれはたまたまそうなっただけで·····」


「でもでも~、おんぶされてたし~」


「確かに、森の中で一体何をしていたのかしら?」


「それは私が足を怪我したせいで·····」


「ホントですかぁ?何かあったんじゃないですかぁ?」


「那月、神とどこまでいったのよ!?詳しく話しなさい!」


「な、何もないって!いや本当に!」


両サイドから絡み付いてくる美沙羅ちゃんとまほろちゃん。

いくら責められても何も出ないという事を理解してくれない。

というか、理解しようとはしていないのか。


「観念するといいわ。今の内に洗いざらい吐いておいた方が身の為よ」


「そうですよ~先輩。あざいあらい·····ん?あらいあざい?あらい·····身の為です~」


「ひぃ~!!」


まるで女子会のような時間を堪能して、私達の繋がりは一層強くなったような気がした。


私はこのクラスのメンバーになれてよかったと、今ははっきりと思えた。

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