第24話 作られた生命

―――「っ!!」


突然まほろちゃんが何かを感じたようで遠くを見つめた。


「まほろちゃん?」


「強い魔力が使われた·····。場所はここから南約7キロ。恐らく八目島の中」


「え!?波動を感じたの!?私、何にも感じなかったけど」


魔力波動は通常そんなに遠くまでは感じ取る事は出来ないはず。

どんな強い魔力でも7キロなんて離れた場所の波動を感じ取るなんてまず有り得ない。

それでもあのまほろちゃんが大真面目にそんな事を言ったという事は、きっとそれは嘘じゃないのだろう。


「まほろの波動感知は間違いないよ。ま、でもこんな離れ小島にいる俺達にはどうする事も出来ないけどね」


一日が経ってちょうどビーチで昼食の準備をしていた私達。

涼平君が間違いないと断言するという事は、まほろちゃんは魔力波動を敏感に感じ取る能力があるという事なのかもしれない。


「·····そうね、何事もなければいいけれど」


「強い魔力か·····」


神君は気になるようで、手を止めて少し考え込んでいる様子。

神君が今考えている事は私にも大体わかる。

もしかしたら篝先生がここへ私達を置いていった理由と関係しているのかもしれない、といった所だろう。

ただ、神君と違い私が考え込んだところで何かわかるとも思えないので、私はそれ以上考えない事にする。


「聞こえる·····」


今度は茂明君が空を見上げて呟く。

もちろん私には何も聞こえていない。

そして茂明君は突如、焦った様子で私たちに向かって叫んだ。


「っ!来るっ!何かが近付いてる!すごい速さで!」


「えっ!?」


その瞬間、私たちの真上を何かが駆け抜けていくのが見えた。

それが通過した事で風が巻き起こり砂煙を上げる。


「あれは·····!」


通過したそれは急上昇し高く舞い上がると、体を捻らせ向きを変えて、その大きな翼を羽ばたかせる。

やがて私達を見下ろすように空中で動きを止めた青い体を持つ、鋭い嘴を持つそれ。

私には鳥にしか見えないのだが。


「大きい鳥·····?あんなに大きいの初めて見た·····」


「いや違うね、あれは魔獣だ」


来栖君が言った魔獣という言葉には覚えがある。

如月先生の個人授業の中で確か魔獣について触れた事があった。

確か、魔術を使って擬似的な生命を作る事も可能で、それは大体が獣の形をしている事から『魔獣』と呼ばれる、と。

命がない代わりにコアと呼ばれる魔力の結晶で生存し、術者の意のままに操る事が可能だとか。


「魔獣って事は、誰かがあの鳥を作ったって事だよね?」


「そうだな。さっきの魔力波動はこいつを作ったのが原因とみてよさそうだ。おっさんの企みか、第三者の介入なのか·····」


篝先生がこの魔獣を送り込んだのなら、私達に対する試練と考えられるが、また別の誰かの思惑でここに送り込んでいるのなら何かしらのアクションを起こしてきてもおかしくはない。


「さっきの波動がこの魔獣の召喚によるものなら、7キロも離れた場所から遠隔操作出来る程の魔力を持った人物の仕業という事になるわね」


「一体誰が·····」










―――「見つけた。さすがだよシュウ。君の言った通りだったよ」


「それほど難しくはありませんでしたよ。Zクラスの人間を遠くへ連れていくのは無理がありますからね」


八目島北側、人が寄り付かないような森の端。

視界の先には那月達のいる無人島が見えている。

その場所で目を閉じ、魔術の操作を続ける天知時雨と、その横で不気味な笑みを浮かべ続ける副生徒会長、遠見秀一とおみしゅういち


「さてシュウ、シナリオとしてはここで71組には全滅してもらうでいいかな?」


「そうですね。魔獣なのでアシは付きにくいでしょうし、離島で目撃者がいないのは都合がいいです。全滅して頂ければ、篝霧也の監督責任

になる訳ですから」


「ならば殲滅しよう。奴らの悲鳴と恐怖に歪む顔が見物だね」


「僕には見られないのが残念です」


時雨は堪えきれずに不敵に笑う。

こんなに楽しい事はないと言わんばかりのその笑顔は、やはりこの二人の異常性を如実に表していた。


「さぁ、パーティーの始まりだよ」











―――上空で停滞していた魔獣はその大きな翼を一際大きく振る。

同時に翼から尖った氷の粒が放たれ、私達の方へと襲いかかった。


「危ないっ!」


その場にいた全員が戦闘態勢をとり、降り注いだ氷の粒を難なく振り払った。

私は咄嗟に反応出来ず、涼平君が火の魔術で消してくれなかったらくらっていただろう。


「ありがとう涼平君!」


「レディを守るのは俺の務めなんでね」


その背中がなんとも頼もしい。


「どうやらあいつは敵のようだな。ただの訓練かはわからんが倒す以外道はなさそうだ」


「実戦訓練っすね!腕が鳴るっす!」


「え~とミサは回復担当します~!」


「おっし俺に任せとけ!魔獣だかなんだか知らんが俺が焼き尽くしちゃうよ~!」


「そんな簡単に倒せるものかしら?見たところ水の魔獣みたいだから涼平には分が悪いわね」


「僕がやる。空から引きずり下ろせばいいんだろ?」


魔獣を前に怖気づいている者なんて一人もいない。

私一人だったらきっと立ち向かう事なんて出来なかっただろう。

みんながいるから、私も一歩踏み出す勇気が持てる。

一緒に戦おうという覚悟を決められる。


「私も頑張るよ!みんなで倒そう!」


不可能なんてない。

壁なんてない。

今の私たちにはそれを越えられる力がある。


だから立ち向かうのだ。

また一つ成長する為に。

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