第19話 颯馬来栖②
颯馬来栖は困惑した。
自分に起きた天変地異の原因は一体何なのだろうと考えてみる。
(こんな閉鎖的な場所にいるから、自分が本能的に助けを求めてしまった·····のか?いや、そんなはずは·····)
自問自答を繰り返しみるが、結局答えは出ぬまま、気が付いた時にはもうコテージが見えていた。
そんな彼を最初に出迎えてくれたのは、同級生である七草茂明であった。
「あ!来栖君!おかえり!心配したよー!」
木の枝を大量に集めてコテージの裏に積み上げた後、すぐに茂明は来栖の元へと駆け付ける。
「大丈夫だった?どこ行ってたの?」
「·····僕の事なんて心配しなくていい。勝手に動いてただけだから」
「何言ってるんだよ!心配するよ!でも無事みたいでよかった!」
そう言って満面の笑みを見せた茂明に来栖はまた困惑する。
どうして茂明が自分の事をこんなに心配してくれるのか、やはり彼には理解出来なかった。
繋がりなどクラスメイトだということ以外全くなく、いつも見下している相手で、まともに取り合う事すら一度もした事がなかった。
彼にとっては道に落ちてる小石と違いはなく、今まではその小石に目を留める事もなかった。
しかし彼は違和感を覚える。
歪な形の小石に何か特別な物を見出したかのように、彼はその小石を手に取った。
「どうして僕なんかの事を·····」
その言葉を口にしながら彼自身も驚いていた。
颯馬来栖が自分を僕なんかなどと卑下した事はなかった。
ここまできて、来栖はようやく気が付く。
自分に変化が起きた事を。
「当たり前だよ!だって友達でしょ!?」
茂明の事を一度も友達と思った事はなかった来栖。
いくら向こうが勝手に友達だと思っていたとしても、来栖が茂明を友達なんて思う日は永遠に来ないと思っていた。
が、どういう訳か今の彼にはその言葉が深く突き刺さる。
「友達·····か·····」
「え?もしかして友達だと思ってなかったの?それはすごく悲しい·····」
茂明は眉を顰めて口元に手を置いたまま今にも泣き出してしまいそうな顔をする。
そんな彼の顔を見て思わず笑ってしまった来栖。
その様子を横で見ている那月も少し驚いたように目を丸くしている。
「はははは、そうだな。違う、友達じゃない」
「え·····ちょ、ちょっと来栖君!」
その言葉を訂正させようと慌てて那月が間に入るが、次の言葉でそれ以上を言う必要はなくなった。
「今までは」
「え、それって·····」
「ここから始まるのさ。友達って関係がね」
今までは友達じゃなかったという事に多少のショックを受けつつも、彼の見たことのない程の明るい表情に茂明も嬉しくなっていた。
「うん、そうだね!そうしよう!」
コテージ近くにいた他のメンバーも来栖の姿に気付いて声を上げる。
「あ~クルちゃん。やっと戻ってきたんだぁ!ミサ心配してたんだからねぇ~」
「おいおい来栖、日が暮れる前に食料調達に行くぞー。じゃなきゃ今日の夕飯は抜きになっちまうからな」
自分の居場所はここにはないと思っていた。
彼はいつも周りの小石には目もくれなかった。
しかしどうだろうか。
周りの人達はこんな風に自分を認知してくれていた、それだけで彼の心は今までとは段違いに軽くなっていく。
「その前に一杯だけ水をくれないか?」
「まほろー、水だってよ」
「うるさいわね、わかってるわよ。今こうして頑張ってるんだから急かさないで」
水の魔術士、栃内まほろが生成した水がコップの中に注がれて、それを涼平が差し出す。
そのコップを受け取り少しだけ口にした来栖、冷たい水が渇いた体に染み込むのを感じ取り、耐えきれず遂には一気に飲み干してしまった。
そのあまりの美味しさに、彼は初めて飲み水がある事に感謝した。
そして同時に、周りにいる人間たちの温かさに目頭が熱くなる。
(こんなに·····こんなにも温かいものなのか·····。家族ですらこんなに温かいなんて感じた事はなかったのに·····)
「ね、仲良しごっこも悪くないでしょ?一人でいるよりはずっといいと思うよ」
そんな事を囁いた那月に、来栖は顔を背けたまま、それでも来栖らしい言葉を返す。
「あぁ·····たまには悪くない·····気もする」
「素直じゃないねぇ。ま、いいけどさ」
来栖にとって一番の疑問は、やはりこの篠舞那月という存在。
この一瞬で自分の中の大きなものを変えたのはやはり那月であり、恐らくは彼女以外にはなし得なかった。
篠舞那月は一体何者なのか。
その答えはもしかすると本人すらも知らないのかもしれない。
「これで全員揃ったなら、手分けして食料を調達するぞ。光は何もないから、日が暮れたら食料を探すのは困難になる」
司令塔の神がその場にいたクラスメイト達に今後の予定を伝える。
いつもの来栖ならくだらないと言って聞く耳も持たなかったかもしれない。
「颯馬、お前の魔術が必要だ。効率的に食料を調達するのはお前の風の魔術が一番いい」
普段から人を全く褒めない神に必要とされた事で、来栖の中に小さな焔が灯る。
(ここには、もしかしたら僕の居場所があるのかもしれない·····。この僕がそんな事を期待する日が来るとはね·····)
「わかった。やってみよう。僕の魔術は君達より優れているからね」
「はぁ、相変わらず自信過剰な奴だなぁお前は」
「これは事実だからね」
来栖は得意気に口端を吊り上げた。
今までの来栖とは違う、大きな変化があった事など本人しかわからない。
ただそれは本人にとっては、今までにない程清々しいものであった。
「さぁ、さっさと始めようか」
来栖の見ている景色はこの日を境に色付き始めた。
それを全員が認知するのはもう少し先の話。
颯馬来栖は歩き出した。
初めて見つけた新たな道を。
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