第14話 五十鑑神①
それぞれの分担が決まったので私と神君は二人で森の中へと向かう。
私は本を持ち、彼は私の前を黙々と歩く。
普通は彼がこういう物を持ってくれるものなんじゃないのかとかちょっと思ってしまうが、自分になんの取り柄もないので生意気な事は言えない。
「てか携帯使えばいいじゃん!」
何故誰もその事に気付かなかったのか。
携帯電話があれば何でも調べられるし、マップ機能でこの島の全体像を見る事も出来るだろう。
最近のアプリなんか色んな機能が充実してるし、こんな時あらゆる面で役立つはずだ。
「携帯は使えない。恐らく結界か何か張られてるんだろ。というかお前、今までそんな事にも気付かなかったのか?」
「う·····」
さすがは頭脳派のリーダー。
常に身辺の確認を怠らない。
逆にどうやればそんな風になれるのか私は知りたい。
「そ、そんな事より私たちどこへ向かってるの?」
バツが悪くなった私は話を変える。
コテージのあった場所から恐らく島の中心方面へと向かって森の中を歩いているが、鬱蒼とした森の中を歩くのもなかなか気味が悪い。
なだらかではあるが徐々に登り続けているのはわかるが、今島のどの辺りにいるのかというのはイマイチピンと来ないのは、私の方向感覚が弱いせいなのか。
「今はこの島の地形を見てるだけだ」
「え?食糧調達しに来たんじゃないの?」
「道中で何かそういったものが見つかれば持ち帰ってもいいが、それは二の次。今は情報収集が一番重要だろ」
「ええっ!?」
「そもそも全員分の食糧を俺たち二人で集められるとでも思ってたのか?」
「·····確かに」
「全員で島を散策してたら動きづらいし、上隠やまほろなんかは体力的に歩き回るのは苦手だろ。だからそれぞれ他の仕事を与えた」
「え?つまりそれって、みんなを騙したって事?」
「違うな、欺いただけだ」
同じだろ!
というツッコミがこぼれかけたがすんでのところで飲み込む。
五十鑑神、この人は何者なのか。
いつだって外ばっかり見て黄昏てるかと思えば、実は頭のキレる一面を見せてきたりして。
私は五十鑑神という人物に興味を抱いていた。
「それじゃあなんで私を選んだの?」
「別に理由はない。お前の役どころが見つからなかったからな」
「あー傷付いた。ダメ。もう死ぬ。生きていけない」
ずっと歩き続けていた神君がようやく足を止めて振り返る。
背の高い木々の木漏れ日がちょうど彼の元へと差し込み、やけに整った涼しい顔が神々しく見えた。
目元にかかるくらいの髪が風に揺れ、その奥に隠された瞳は青く、まるで別世界の住人とでも言わんばかりだ。
思わず見とれていた。
圧倒的な造形の美術品に出会ってしまったかのように、時間は止まり、高揚した心臓の脈打つ鼓動だけが響いている。
「お前を変な奴だと思ってる」
「は?」
止まっていた時間を動かしたのは彼の失礼な発言で、何が言いたいのかさっぱりわからない。
「別にお前をバカにしてる訳でも侮辱してる訳でもない。むしろ褒め言葉だ」
「いやいやどう考えてもディスってるんですけど!」
変な奴とはよく言われるけども!
「変な奴は嫌いじゃない。個性があるって事だろ?それになんか、放っておけない感じなんだよなお前は。放っておいたらトラブルを起こしたり巻き込まれたり、そういうものを引き付けそうな力を持ってる気がする。単なる俺の勘だけど」
「全然褒めてねーし!」
悪気はないのだろうが、遠回しに放っておいたら何をしでかすかわからない爆弾みたいなものだと言われたわけで。
それはそれで間違ってる訳では無いがどう解釈しても褒められてはいないだろう。
「理解出来ないのならそれでいい」
「よくないね!」
「別に俺からどう思われてようがお前の人生を左右するわけじゃない。今の話は適当に流しといてくれればいい」
「私からも言わせてもらうけど、私にとってもあなたは変な人の一人。っていうかウチのクラス変な人しかいない気がする」
「あーそれは確かに言えてるな」
私は一呼吸置いて今の自分を律する。
相手のペースに惑わされてたらダメだ、もしかしたらこの会話すら彼の計算なのかもしれない。
「ふぅ·····とりあえず神君が変な人に興味があるのはわかったよ」
「そうか」
そう言って彼は私に背を向け、再びこの森の中を歩き始める。
再開するなら何か一言くらいあってもいいだろとは思うが、彼がそういう性格だというのはなんとなく理解出来た。
仕方なく私はその背中を追って再び森の中を歩き始めた。
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