第13話 閉鎖的世界
篝先生の言っていたコテージは数分と経たぬうちに見つかった。
白いビーチが目の前に広がり、さざ波が心地よい音を響かせているというだけで本当にバカンスのような気がしてくる。
そのビーチから30m程陸に上がると小さなコテージが寂しげに佇んでいた。
無人島という事ではあったが、この島に人がいた形跡は散見される。
Zクラスの管轄と言っていたので恐らくは他の用途で多々使用されている島なのだろう。
「本当に一部屋みたいね·····」
「これから三日、ひとつ屋根の下で年頃の男女が過ごす訳か!くぅ~滾るぅ~!」
コテージの内装は篝先生の先言通り、大部屋が一つだけ。
それを見て落胆するまほろちゃんと対照的に、涼平君はどこぞのアニメのヒロインのセリフを引用したのか、すごく盛り上がっている様子だ。
「そういえばお風呂はどこかに温泉があるって言ってたよね!」
「確かに言ってたわね。簡単に見つけられればいいけれど、どうかしら」
「温泉〜いいですねぇ~。ミサも入りたいですぅ!」
女子組にとってお風呂は死活問題、三日後に迎えに来ると言っていたのでお風呂を見つけられなければ二夜を越えることになる。
そんなのはとてもじゃないけど耐えられない。
「ミサ、なっち。俺がすぐに温泉見つけてくるからさぁ、そしたら一緒に入ろうなぁ~!」
涼平君が興奮気味に鼻息を荒らげながら詰め寄ってきたところを、まほろちゃんが涼平君の喉におそろしく速い手刀をカウンター気味に決める。
「コォッ!」
「死ね。色んな意味で死ね」
崩れ落ちた涼平君は喉をやられて呼吸すら出来てない様子だ。
まほろちゃんを怒らせるとヤバイという事は理解出来た。
「風呂よりももっと問題がありそうだぞ」
部屋中を歩き回っていた神君は何かに気付いたようで、やれやれといった様子で小さなため息を吐く。
その様子から明らかに悪い知らせだと察するが聞くのがちょっと怖い。
そんな私の代わりにまほろちゃんが返す。
「問題って?」
既に色々と問題を抱えているが、神君の言葉を聞いて事態が深刻である事を痛感させられた。
「食糧がない。何一つ」
ここには電気がないし、ガスもない。
トイレの水は流れてくれるのだから水道くらい設けてくれてもいいじゃないとも思うがそれもない。
そして食糧もないときた。
「水属性の魔術が使えれば水の確保は出来るが、俺たちの中で水の属性魔術を使いこなせるのはまほろだけだ」
私達7人の中で主属性が水である人物はまほろちゃん一人だけ。
他の人が水の魔術を少しでも使えるかはわからないが、少なくとも私にはとても無理な話だ。
「つまり私が全員分の飲み水を作り出さなきゃならないって·····?」
「さらに言うなら、ここにはガスもないし、明かりも、暖を取る手段もない。なら火の魔術が必要になってくる。主属性が火なのは涼平だけ」
そう言った後、今度は手に持っていた本を私に差し出してくる。
「これって·····」
「食べられる動植物、この辺りで釣れる魚や貝とその調理方法なんかが書かれてる。この部屋で見つけた」
「えっと、つまり僕達は狩りしてこないといけないって事っすか?」
「そういう事なんだろうな。それぞれ役割が初めから決まっていて、俺達が協力し合う事でこの状況でも切り抜けられるようになってる。そういう合宿なんだろ」
これを全て篝先生が最初から計算していたのか。
魔術を使用する事で水を作り、火を起こし、狩りをする。
さらに万が一怪我をしたとしても、ここには特別な力を持った人物も同行しているので、ある意味最高の布陣とでも言える。
「これは私にとっては拷問合宿ね·····」
水を作り続けるという宿命を背負わされたまほろちゃんはガックリと肩を落とした。
それがどれほど大変な事なのか私にはわからないのでかける言葉も浮かんでこない。
「俺は火を付ければいいんだな?よし、任せとけ!」
火を担当する涼平君はいつの間にか復活していて、得意気に親指を立てて爽やかな笑顔を見せる。
「えー、じゃあミサは何しようかなぁ?」
上隠美沙羅はとても重要な存在だ。
今の私たちにとっても、それこそ世界にとっても喉から手が出るほど欲しい逸材である。
類稀なる魔術、『治癒』の魔術師だからだ。
人だけではなく破壊されたものを修復するというチート能力を持っている。らしい。
今の話は全てまほろちゃんから聞いたものだ。
故に美沙羅ちゃんにはいざという時に力になってもらえればそれだけでいいような気がする。
言ってしまえば私達の保険といった位置付けだ。
「上隠はなんか燃やせるものでも探してくれればいいだろ」
「燃やせるものぉ?あー、木とかかなぁ?」
「料理をするにしても火は必要だろ?涼平がずっと魔術で加熱し続けてもいいが」
「待て待てそれは無理じゃん?俺死ぬぜ?」
「七草も上隠と一緒に行動した方がいいだろ。上隠一人じゃあんまり集められなそうだからな。それに木を切って椅子とか作っておくのも悪くない」
「うっす!DIYっすね!結構得意っすよそういうの!」
茂明君は柔道有段者のようで、恵まれた体格を持っている為、力仕事にはもってこいの人材。
しかも主属性は土なので、きっとパワフルな働きをしてくれると思っている。
そしてここにいない来栖君を除いて、仕事がないのは私と神君だけになった。
「となると俺と那月が食材調達になるか」
男子に呼び捨てで呼ばれるとなんだか急にドキッとしてしまうのは、私が気にしすぎているだけなのか。
たった今食材調達という役割を与えられ、役立たずではなくなった事に安堵したが、よく考えたらかなり重要なポジションな気がする。
私達が失敗すればみんなのご飯はなくなる。
「颯馬が戻ってきたらあいつにも食材調達をさせるが、いちいち待ってられないな。すぐ行くぞ」
「え、あ、うん!」
なんだかんだ一番やる気があるのはもしかして神君なんじゃないのか?
いつもの気だるそうな感じではない。
いざという時に最も力を発揮するタイプなのかもしれない。
この閉鎖的な世界を生き抜く司令塔。
魔力は2だけど、リーダーシップは間違いなく発揮されている。
「さて、行くか」
魔力は2だけど。
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