第8話 クラスメイト

私は教室の中にいた。

あれから数日が経ち、いよいよ私は個人授業を半ば卒業といった所まで来たのである。

この7人しか生徒のいない教室内に私は改めて仲間入りという訳だ。

7人のうち名前を知っているのは、初日に話しかけてきた上平涼平君と、ドアの開け方を教えてくれたまほろちゃんのみ。

他の人達とはまだまともに会話した事すらないので、緊張しないといえば嘘になる。


「個人授業は終わったのね、那月」


そんな私の状態を察知してくれたのか、優しい隣人のまほろちゃんは助け舟を出してくれる。

なんて優しい子なのでしょう。


「うん、大体終わったみたい。まだ完全に終わった訳じゃないみたいだけど」


「それは仕方ない事よね。何せここの連中はみんなバラバラに入ってきてるもの。年齢もバラバラだし、変な奴ばっかだし」


「え!?ちょっと待ってまほろちゃん。年齢もバラバラって言った?」


「えぇそうよ。他のZクラスは知らないけど、このクラスは年齢も違うわ。知らなかったの?」


「初耳です」


同じクラスなら年齢も同じというのがそもそも基本だと思っていたのだが、私の中のあらゆる常識がここに来て次々と覆されるのは、驚きや衝撃を通り越して気持ちよささえ感じられるようになっていた。

そういえば昔はあまりに人口の少ない村では学年関係なく学校の生徒全員が同じクラスだったりした事もあったとか。


「私は16歳、あなたと同じ高校2年。那月から見て一番右で可愛く寝息を立ててるのが一つ下の上隠美沙羅かみがくれみさら。その後ろでいつも楽しそうにしてる体のでかい七草茂明ななくさしげあきも一つ下ね」


上隠美沙羅ちゃんと、七草茂明君だったっけ。

顔と名前を覚えるだけでも大変な作業である。


「茂明の横で偉そうな顔してる金髪の颯馬来栖そうまくるすもそうね。その三人が高校1年ってことになるわ。それ以外は同級生」


颯馬来栖って子も一つ下。後は全員同級生。

眠り姫が美沙羅ちゃんで、体が大きいのが茂明君で、金髪で偉そうなのが来栖君。

よし記憶した。


「あのチャラ男の涼平は知ってるわよね」


「誰がチャラ男だ!」


「その前の席でいつもボーッと外を眺めてるのが五十鑑神いかがみしん。このクラスはこれだけしかいないから覚えるのはそんなに難しくないでしょ?」


「あ、うん、まぁ、そうだね·····。でもなんでこのクラスにはこれしか人がいないの?ここの校舎には他のZクラスもいないみたいだし」


「ミステリーだよね那月ちゃん。そう、それは決して解けないこのクラスの謎なんだよ」


突然私とまほろちゃんの間に割って入ってきたのは先程チャラ男と言われていた涼平君である。


「なんなのよあんた。会話の邪魔しないで」


「いやいや、このクラスの謎について早速気付いてしまったようだからつい興味をそそられて」


「それについてはもう篝先生が説明してくれたじゃない」


「カガリンの説明が正しいという証拠はないんだぜ?もしかしたら嘘をついて誤魔化してるだけかもしれない」


「あっそう」


「まほろは、あんまり興味無いのね」


この会話のやりとりによって涼平君とまほろちゃんの関係性は何となく理解した。

ここまで仲良く出来ている事が羨ましい。

この先私もこんな風にクラスの一員に溶け込めるのだろうか。


「篝先生はなんて言ってたの?」


私がそう問いかければ、まほろちゃんよりも先に涼平君が得意げな顔で話してくれた。

横のまほろちゃんはそんな涼平君を睨みつけたまま。


「カガリンは、たまたまお前らが半端だったから溢れたのを集めただけだ、とね。まぁそれならクラス内の学年が違うのも頷けるんだが·····どうもきな臭い。半端とは言え年間の魔力覚醒者数から見ればもっと増えていっていいだろうし、実際魔力覚醒を起こした人間はこの半年くらいで那月ちゃん以外にも50人以上はいたんだが、このクラスに来たのは那月ちゃんだけ。という事はつまり·····」


涼平君が私の事を指さし、そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。


「君は特別な人間だという事。そしてこのクラスにいる人皆が、他のZクラスの連中とは何かが違う。そう考えれば全て辻褄が合う」


決まったと言わんばかりのドヤ顔を見せてくるので、なんだか少しカワイイなって思えてしまう。

でも確かに彼の言っている仮説には随分と説得力があった。

私が特別かと言われると首を傾げたくなるが、もしかしたら秘めたる特別な力を持っていたりして。


「はいはい、あんたの妄想の話はもういいわ」


「まほろも実はそう思ってるんだろ?」


まほろちゃんは小さくため息を吐いて呆れたように目を細めながらも、涼平君の話に付き合おうとしているのでやはり仲が良いんだろう。


「仮にあんたの話が正しかったとして、それをどうやって証明しようってのよ。証明出来ないのならどこまでいっても仮説でしかないわ」


「見事に痛いところを突いてくるねまほろは。だから俺はこれからその辺りを探っていこうかなと思ってるわけよ」


「ふーん、まぁ私は止めないから好きにやればいいじゃない」


「元よりそのつもりだってばよ!神も協力してくれるっていうし」


いきなり話を振られた窓際の、確か五十鑑神という彼は、つまらなそうにこちらを見るとまほろちゃんと同じように小さくため息を吐いた。


「涼平があんまりしつこいから仕方なくな」


端正な顔つきに女の子のような白い肌、目つきは鋭く、纏うオーラはどこか別次元のようでもある。

わかっている、クラスの窓際にいるやる気のなさそうな男子は実は最強だと相場が決まっている。

私の目が言っている、間違いなく彼はこのクラスの最強魔術士であると。

私はポケットから如月先生から貰ったルーペを取り出して、こそこそ隠れながら覗き込み、対象を窓際の彼に当てた。

如月先生に向けた時は表示されなかった場所に、今度こそははっきりと数値が表示される。



魔力2



2っ!?

え!?魔力2っ!?

いやそんなはずはない。

そんな今にも枯渇しそうなレベルの人間はいる訳が無い。

やはりこのルーペが壊れてるんだ。

そう思って右側の端っこの席で眠り続けている上隠美沙羅という子を覗いてみる。



魔力225



あれ、壊れてるわけじゃないのか?

もう一度窓際の神の方へとルーペを向けて覗き込む。



魔力2



よわっ!

窓際のやる気なさそうな男子は逆に最弱じゃんか!

やはり漫画の世界とは違い、現実は窓際にいるからといって強いとは限らないのか。


「那月ちゃんももちろん協力してくれるよね?」


「え、あ、うん」


一瞬何のことを問われたのかわからなかったので適当に返事を返してしまったが、あぁ、もしかしてこの謎究明についての話か。


「あんた那月を無理矢理巻き込もうとするなんてやっぱり最低ね」


「えー?無理矢理なんかじゃないよ。あ、まほろも仲間に入りたいって事だよね。いいよ、一緒に真相を究明しよう」


「は?私が仲間に入りたいなんて一言も言ってないんだけど?」


「またまたぁ、素直じゃないんだから」


そんな涼平君の調子に乗せられて、私はこのクラスの謎を解明するグループの一員として半ば強制的に参加させられる羽目になった。

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