第6話 魔術の心得

根源の力、即ちこの世界に存在する四つのエレメントを利用し形にするのが魔術。

火、水、風、土の四つのエレメントをどういう風に使用するかで、様々な用途に使用が可能となる。

人にはそれぞれ最も得意とする属性があり、それを主属性と呼ぶ。

主属性の魔術をどんな風に使用するかという点に於いても向き不向きが如実に現れ、それを扱うのはやはり一朝一夕とはいかない。

才能という部分もあるが、大半は努力の賜物だそうだ。

一般人がいきなりプロのサッカー選手と同じ動きが出来ないのと同じようなものだという。

さらにそれぞれの人間には魔力量なるもの、つまり魔力の総容量というものがあるらしい。

例えばグラス目一杯に入った水があるとしよう。

この水の部分が魔力で、グラス自体が魔力量。

グラスが大きければ大きい程水を消費出来る量が違うので、魔術を使用する上ではこの器が大きいに越したことはない。

ただしこの魔力量の初期値は千差万別、十人十色といった具合のようだ。

最初からプールぐらいある人もいれば、お猪口程の少なさの人間もいるらしい。

ちなみに私はというと43と如月先生が教えてくれたのだが、もちろんそれが一般的にどれくらいのものなのか全く分からない。


「43ってどれくらいなんですか?」


「魔力覚醒初期の魔力量の世界平均は38と言われているわねぇ。あなたはほぼ平均値といったところかしら」


「平均値か·····。いやでも平均を少し上回ってるって事ですよね!」


「軽~くね。飛び抜けているような差でもないけどねぇ。他の子達はもっと鍛錬されて伸びてるわよ」


「え!?魔力量って増やせるんですか!?」


「そうよ、筋トレと同じ様なものね。繰り返し訓練する事でどんどん伸びてくわ。あなたの43という数字もこれから増えていく事になるわよ」


つまりは初期値に差はあれど、努力次第ではその差を埋める事も突き放す事も可能だという事。

それを聞いた私は心の中でガッツポーズを決める。

魔力因子が目覚めてしまったこと自体が幸か不幸かわからないが、それでも目覚めてしまった以上は行けるところまでは行っておきたいと思う。

出来損ないだなんて思われるのは癪に障るし、何よりZクラスでいやいやながら残りの学生生活を送るというのも性に合わない。

今さら何も変えられないのなら出来る限り楽しまなければ損だろう。


「ちなみに如月先生、魔力値はどうやればわかるんですか?」


「そうねぇ、やっぱり気になるわよねぇ。ならあなたにいい物をあげるわ」


そう言って如月先生はポケットから数センチ程の小さなルーペのような物を取り出し、それを私の手のひらに置く。


「これは·····」


「魔力測定用ルーペ。それを通して対象を視認すると、その人間の持つ魔力が数値として可視化出来るようになるの」


「え!すごい!」


興奮した私はすぐにそのルーペを覗き込み、この部屋にいる私以外の人間である如月先生をレンズ越しに視認する。

しかし数値が表示されそうな部分には——という表示のみで明確な数字が計測されない。


「これ、壊れてます?」


「そのルーペは簡易スペックだから、ある一定以上の強い魔力を測定する事は出来ないのよ。計測不能っていうやつね。私の魔力はとーっても強いから、そのルーペじゃ測れないの」


如月先生の話し方は本気とも冗談ともとれるので、本気で計測不能な魔力を持っているのか、単純に教師の魔力を測定出来ないように細工がしてあるのかは定かではない。


「クラスに戻ったら確かめてみるといいわ。でもね、あんまりそれでジロジロ人を見ると嫌な顔されるから気を付けてね」


「それはちょっと使いづらいな·····。ホントに見えるんですかこんなので」


こんな小さなルーペ一つにそこまでの機能があるようには見えないのだが、まさかこれで他の人を見てる私をバカにしようとしてるんじゃないだろうか。

篝先生も如月先生も教師らしくないのでなんだかありそうな気もしなくない。


「論より証拠、騙されたと思ってやってみればいいじゃない」


「それで騙されるとかないですよね?」


「あらぁ心外ね。教え子にそこまで信用されてないと傷付くわぁ」


と言いつつも傷付いてるようにはとてもじゃないけど見えないのだが。

その証拠に私に個人授業をしながらもどら焼きを片手にモグモグと幸せそうな笑みを浮かべているからである。

授業中だと言うのにおやつを食べている教師なんて私は聞いたことがない。

普通の学校だったら校長室に呼び出しを食らっているレベルだろう。


「それはそうと、そろそろ魔術についての知識はついてきたんじゃないかしら?」


Zクラスに編入してから三日が経ったが、毎日この個人授業を受けさせられ、朝から晩までひたすら魔術についての歴史やらなんやらの座学が続いていた。

魔術についてよく学ぼうという意欲は持っていたはずなのだが、どこまで続くのかわからない授業を延々と、しかも一人で受け続けるというのはかなりの苦行である。

故に早くここを脱したいという気持ちだけで私は潔く断言した。


「はい!バッチリです!」


「その口ぶりからすると、いつまでこんな地味な授業を受けさせるつもりよ、こんなのいいから早く実技を教えてよ、ってところでしょう?」


私の浅はかな思考を完全に読み切った如月先生に畏怖を感じつつ、もしかして心を読む魔術でもあるのかと疑いたくなる。


「ちなみに心を読む魔術はないわよぉ?これは私の洞察力という力かなぁ」


「うぐ·····」


強い·····強すぎる·····。

今の私のレベルでは太刀打ちできない。

私も歳を重ねればこんな風に相手の思考を読む事が出来るようになるのか?


「でもそうねぇ、ずっとこのままじゃ飽きちゃうわよね。一度魔術の基礎訓練でもやってみましょうか」


「え、ウソ、いいんですか!?」


「やりたくないのなら無理にとは言わないけれど」


「やります!」


如月先生の言葉をかき消すように私は大きな声ではっきりと、しかもわざわざ立ち上がってまで主張する。

この気を逃してなるものか。

如月先生の気が変わらぬうちに乗っからなければまたこの授業を延々と繰り返す事になってしまう。


「そう、ならやってみましょう。使いこなすというのは簡単じゃないわよ~?」


「覚悟はしてます!大丈夫です!」


いよいよ始まるのだ。

私が魔術士の第一歩を踏み出す時が来たのだ。


やってやる!

やってやんよ!


篠舞那月16歳、やる気だけは誰にも負けないのだ。

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