第3話 個人授業

八目島やつめじまメガフロート。

主島である八目島を中心に人工的に拡張された都市の総称。

日本で唯一の魔術特区となっており、魔力因子を持つ者は12歳~18歳までの期間をこの島で過ごさなければならないと義務付けられている。

この魔術特区にいる候補生シード達は高校卒業までの間、特別な理由がない限りこの島から出る事は禁止されている。

島にいる生徒数は約一万人、その全てが魔力因子を持っているが、本当に魔力に目覚めるのはその中のさらに二割程度。


高校生活一年が終わった私にはもう魔力覚醒なんてものは無縁な話だと思っていたが、起きてしまったものはどうする事も出来ない。

私はその二割の覚醒者ブルームになってしまったのだ。


「で、なんで私だけ個人授業なんですか?」


朝クラスに入った後すぐに私だけ一人別室へと連れて行かれ、個人授業を受けさせられる羽目になっている。


「そりゃそーよ。だってあなた他のみんなとは学んできたものが違うのよ?」


「あー·····そういう事なのか」


私に個人授業を受けさせている如月月夜きさらぎつくよという人物は私のクラスの副担任だそうだ。


「一般の授業の進捗状況は向こうとさほど変わらないわねぇ、成績も悪くないみたいだし、先生頭のいい子は好きよ」


「ななっ!」


「けれどね、Zクラスは魔術の制御や正しい使い方を学ぶ場所なの。ちゃーんと学んでいかないと魔術をイケナイ事に使っちゃう子もいるからねぇ」


「なななっ!」


驚きを隠せない。

第一印象からおかしいとは思っていた。

担任の篝霧也もそうだったが、Zクラスの教師達にはやはり普通の人間はいないようだ。


「まぁそうねぇ。しばらくはみんなが学んできた魔術の知識をみっちり教えてあげるわよ」


「エッロ!」


思わず口をついて出てしまった感想。

果たして今までこの短い人生を生きてきた中でここまでエロスを体現した女性を見てきた事はあっただろうか。

胸元まで伸びる艶やかな黒髪は顔右半分を覆い隠しミステリアスさを、小さな楕円レンズの眼鏡は知的さを、白い肌と小さな鼻は幼さを、目の下の泣きぼくろに加えて服の上からでも隠しきれない豊満なバストが妖艶さをそれぞれ演出している。

さらにその悩ましげな言葉尻にさらなる色気を醸し出してくるのなら、大抵の男性はノックダウンといったところだ。

私は男ではないが、その姿を見ていると何だか顔が熱くなってくる感覚がある。

教育者としてこの人はあまりに毒性が高すぎるのではないか。


「さぁて、始めるわよぉ?みんなに追いつかなきゃいけないのだから、あんまりゆっくりしてられないのよねぇ」


「は、はぁい。頑張ります!」


「その前に一つ、聞いてもいいかしら?」


「え、はい。答えられる事なら」


自分の滑らかな唇に人差し指を軽く添え、僅かに目を細めた如月先生は訝しげにあの日の事を尋ねてきた。


「魔力暴走した時の事は覚えてる?」


魔力暴走。


魔力因子を持つ者が魔力覚醒を起こした事で初めて魔力に目覚める事になる。

しかしその魔力覚醒の際、ごく稀に魔力が暴走を起こす事があり、それを魔力暴走という。

この魔力暴走を起こした場合、術者を止めなければ最悪命に関わる事もあるというから怖い。


そして私の魔力覚醒の時、その魔力暴走も伴った。


「断片的にですけど·····、現実なのか夢なのかすごく曖昧で·····」


「何を·····いえ、やっぱりやめておきましょう。今のは忘れてくれて構わないわ」


「あ、はい·····」


「あなたにはこれから魔術の基礎から学んでもらうからねぇ」


あれは一体なんだったのだろうか、あの日の事を何度思い返してみても結局答えは闇の中。

魔力暴走を起こしたが命に関わるような事態にならなかった事はラッキーだったなと、それだけは自分の持つ運を褒めてやりたい。


しかし答えのないものを探し続けても、ただ悶々とした気持ちが続くだけなので、今は深く考えず目の前のこの個人授業を終えることだけに集中する事にした。


すぐに一つだけわかったことがある。

魔術というものは想像していたよりも難しいという事だ。

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