第2話 編入②
私が担任(仮)である
自己紹介を一通り終えて席に座った後、やはり気になって周りをぐるりと見渡してみれば、新しいクラスメイトを思わず観察してしまう心理が働いているようで、何人かの人達と目が合ってしまう。
一応こういう時の世間を渡る術は心得ているつもりなので、目が合った人には笑顔で軽く会釈をしてみるが、中には全く無反応の人もいたりしたがいちいち気にはしてられない。
最初から人と仲良くなるなんてのはそう簡単な事じゃないのはわかってるつもりだ。
「というわけだ。名前は·····忘れたが」
「
「そうだったな、篠舞。これからクラスメイトになるから仲良くしろよ」
やはりこの男、篝霧也が教師だなんてあまりに胡散臭過ぎる。
もしかしたら私が知らないだけで、Zクラスの教師はみんなこういう感じなのかもしれないなんて事が微かに頭を過ぎるが首を横に振ってそれを否定する。
「おい、上平はどうした?」
篝が目の前の女子生徒にそんな質問を投げるが、その女子生徒は頬杖をついたままつまらなそうな表情を崩さない。
「さぁ、知りませんね。朝から見てないですけど」
「また遅刻か、いつまで経っても懲りないやつだな」
篝が呆れながらそう言い終える寸前に教室内に騒がしく走り込んできた一人、肩で息をしながらも爽やかな笑顔と共に親指を立ててウインクしてみせる。
「セーフ!ギリッギリでセーフ!」
「とっくにアウトだバカ。さっさと座れ」
「えー!ギリッギリでセーフでしょ!セーフにしてよカガリン!」
篝に対してまるで友達との会話をしているようなテンションを見せる、恐らくクラスメイトであろう男子だが、さすがにその軽口がカンに障ったのか、篝はその男子の顎を片手で挟み込む。
「黙れ。あんまり調子に乗るとお前の口を永遠に開かないように縫合してやる」
「嘘です嘘ですギブギブ!」
すぐに開放された彼はやれやれといった表情を見せようやく自分の席へと向かう。
もちろんその瞬間にいつもとは違うクラスの雰囲気に気付かないわけはない。
「あ!君が新たな編入生だね!」
「は、はい!篠舞那月です!よろしくお願いします!」
「俺は
上平涼平と名乗った男子生徒は屈託のない笑顔を見せて自分の席へと着く。
長めの茶髪を頭頂部で結び銀色のピアスがよく目立つ、制服の着こなしも胸元まで大きくはだけて真面目な雰囲気はまるでない。
しかしこの八目総合学園には身だしなみに関する厳しい校則というものが存在しないので、こういう風貌でも罷り通ってしまうのだ。
なので彼がおかしいという訳ではなく、学校全体の中には同じような身なりをしている者も一定数存在しているわけで、私が彼を見ても特に拒絶反応がなかったのも、この島に来てから四年の歳月の間に恐らく見慣れてしまっていたからだろう。
「これで全員揃ったな、それじゃあお前達が大好きなお勉強の時間だ」
聞き間違いではない。
篝霧也はたしかに今、全員揃ったと言った。
ここにいる生徒でこのクラス全員という事になる。
最初に言った真意はまさにそこにあった。
このクラスの生徒数が想像していたものと大きくかけ離れているのだ。
私を含め、女子生徒3人、男子生徒4人。
合計がたった7人しかいない。
この八目総合学園のZクラスには約二千人の生徒がいるはずなのに。
1クラス30、40くらいいるものだと勝手に決めつけていた私は半ば肩透かしをくらった状態と言える。
けれども新しい物語が幕を開けるというのはどう転んでも間違いない訳で、それだけで私の好奇心を駆り立てるには充分だった。
一体どんな毎日が始まるのだろう、不安を遥かに上回る期待で私の心は満ち満ちていた。
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