最高戦力集合会議

 召喚が出来るなら送還が出来る。


 完全強化され、たくさんのゴーレムを作り強化されたタキエルの送還コストは彼女を始めて呼んだ時の召喚コストの五倍を超える。

 ……送還コストは、普通召喚コストの十分の一も掛からないはずなんだけどなぁ。


 そんな事を考えながら、胸がズキズキと痛んだ。


 タキエルに酷いことを言って、タキエルの気持ちを踏みにじるような形で彼女を無理矢理魔界に追い返してしまった。

 しかし、今のままでは彼女は帰って来れちゃうから……。


「OKコア。タキエルがこの迷宮に転移などでの侵入が出来ないようにブロックして」


《承知しました》


 ……こんな時ばかり、DPが掛からないのが空しさの傷口を容赦なく広げる。


 尤も、俺は今回の戦いで死ぬつもりなんてさらさらなかった。

 ただ、あの勇者が相手だと万が一処か十分の一程度の可能性で殺されてしまいそうなので、俺の不安材料を取り除くためにタキエルに帰って貰った。


 勝率九割。


 某ゲームで例えると「じゃれ○く」とか「とびひ○げり」の命中率と同じ――こう考えると途端に、ピンチのような気がするから不思議だ。

 命中率の割に全然当たらないんだよね、あのゲーム。


 そんなバカなことを考えて、気分を紛らわせでもしなければやってられなかった。


 それにタキエルとのやりとりで、とうに三十分は過ぎている。


 呼び出しておいて、待たせるのも悪いか。


 俺は玄関を出て、外にある広場に出る。

 そこには、6人の魔王とその補佐計十名。メイガスゴブリン・闇とロード・オブ・バフォメットのところ以外にいる、完全強化を施したモンスター。それと、見たことがあったりなかったりする一際強そうなモンスターたちが揃って待っていた。


 流石としか言いようがない。


 あんな急な指示に、すぐ集合できる彼らのフットワークの軽さに、俺はもはや勇者なんかに負ける気なんてしなかった。



                  ◇



「えー。ここにお集まりいただいた理由は皆さんお察しの通りだと思いますが、この奈落の木阿弥が存亡の危機に瀕する可能性があるレベルの脅威が現れたからです。とりあえず、口で説明するよりも見て貰った方が早いと思うので」


 俺は彼らの前に出るや否や、挨拶も間もなくスクリーンを開いて――ワイズ・トロールが勇者相手に健闘したときの映像を見せる。


 改めて、冷静に見るからこそ解るが、こんなのほとんど完全なワンサイドゲームだ。


 ワイズ・トロールはその持ち前の賢さを駆使し、勇者の油断を誘って畳みかけるように、考え得る限りの状態異常魔法をかけ、息もつかぬうちに最強の封印魔法で勇者を封じようとした。

 しかし、その魔法も状態異常も全て瞬く間に破られてしまう。


 出てきた時の勇者は、少し前と打って変わって黒かった髪が白く染まっているが、変化と言えばこれだけ。


 アビス・プリズンの内部で起こっていることはこちらからは見えないけど、恐らく中で起こったことはこの短い時間と言うこともあって勇者が大女神を自らの肉体に『降臨』させただけだと予想することが出来る。


 たったそれだけで、勇者はワイズ・トロールの魔法を全て退け、次の瞬間にはワイズ・トロールを殺している。

 明確には、死の間際ワイズ・トロールは身代わりを盾に自らの命を全て燃やして勇者に呪いをかけようとしたが、それも勇者の聖剣の一振りで防がれていた。


 もう一度言うが、完全なワンサイドゲーム。


 今、ここに集まっている者たちは全員がワイズ・トロールの強さを知っている。

 だからこそ、あの不遜なロード・オブ・オークでさえ頬を引きつらせていた。


「……これで、どうして俺がこれまであれほど勇者を警戒していたのか解ってくれたと思う。勇者は強敵だ。――恐らくこの世界に、大女神と融合した状態の勇者とタイマンで張り合える強者など存在しない」


 大女神と融合……それに、軽くざわつく。


「しかし、勇者とて所詮人間。……大きく分けて二つの隙があると俺は考えている。まずは『降臨』による反動。降臨は、自らの肉体を依り代として女神をその肉体に憑霊させる術なのだが、女神ほどのエネルギー体を人間の肉体に宿すにはそれ相応の代償が必要となる。

 その為、勇者がワイズ・トロールを瞬殺した『降臨』には時間制限がある」


「……なるほど。それで、その制限時間とはどれほどなのでしょう?」


 ノーライフ・キングが問う。

 確か、普通の女神の『降臨』の場合――アークゴブリン・闇との戦いのデータを見る限りだと一分弱と言ったところだと思うけど、相手は大女神だ。


 反動を軽減させるために色々策を講じるのは当たり前だろうし、勇者の肉体も完全強化されている様子だったから、俺は多めに見積もって


「十分くらいだと思う」


「十分……」

「ククッ。なるほど。それだけ足止めをすれば」


「そう。反動で倒れた勇者を引っ捕らえて、俺たちの勝利だ」


 十分。長いような短いような。それぞれがそれぞれの反応を見せる。


「ここに居る全員で連携を取れば、十分や二十分――あわよくば犠牲ゼロで乗り越えられる可能性もあると俺は考えている。だからこそ、この窮地、皆の力を貸して欲しい!」


「「「「「「「はっ!!!!!」」」」」」」」


 それぞれにそれぞれの配置を伝え、作戦を練っていく。


 相手は戦略をも単騎でひっくり返す化け物、勇者。

 だけどこちらには、どのモンスターよりも賢くそして強い優秀なモンスターたちが揃っている。


 本当に全く。これじゃあどちらが人間なのか解ったもんじゃない。


 獣に堕ちた勇者に教えてやりたい。知恵ある生物の、戦い方ってやつを!

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